金沢法律事務所 相談例 ~ 離婚 ~

金沢法律事務所には、離婚の法律相談が比較的多く寄せられます。
ご相談の例をひとつご紹介します(この事例は、弁護士山岸陽平の経験や一般的ケースを参考に再構成したものであり、特定の事案ではありません)。

双方の両親の間で離婚話がヒートアップしてしまっているケース、どう対処する?

相談者 = 20~30代女性

■ 私は、夫と結婚し、夫の家に入る形で、夫や夫の両親と同居していました。男の子も生まれ、順調だったのですが、夫の女性関係が発覚し、関係は一挙に悪くなり、とうとう私が息子を連れて実家に戻りました。
■ 実家に戻って、離婚をしたいという話を私の両親にしたところ、私の両親から夫の両親に伝えてくれるということになりました。ところが、私の両親が夫の両親に電話をしたら、夫の両親が「孫は跡継ぎだから返してくれ」と言い出したらしく、私の両親は怒り心頭になってしまいました。
■ それで、私自身で何とかしなければいけないと思い、夫にメールをしました。夫自身は、子どもの親権には興味はなく、離婚もしていい、と言っているのですが、夫の両親が子どもの親権は絶対に渡さないと言っているから今は無理だと言うのです。
■ 私の両親のほうは、夫から莫大な慰謝料をもらわないと気が済まない、と言い出していて、話をまとめるどころか、どんどん対立が深まっています。正直、私の手に負える状況ではなくなっていて困っています。

弁護士YYの見解

■ 当人同士で解決できないことを、ご親族が介入することで解決できるケースは少なくありません。ただ、ときには、双方のご親族の介入によっても問題が解決できず、むしろ解決が難しい状況に陥ることがあります。
■ そうしたとき、まずは弁護士に相談し、解決方法に関する法的アドバイスをもらうことが重要です。そのうえで、場合によっては、弁護士に依頼して、交渉や調停申立ての代理人になってもらうことが適切であることもあります。
■ 今回の相談のケースでは、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、弁護士とともに出席することで、「家と家の不毛な争い」から「当事者間の問題解決」に焦点を戻すことができそうです。
■ 弁護士に依頼することで、依頼する側が適切な法的見通しをもって動き、権利を実現できるという面もありますし、相手方も単なる感情論から脱することができるという面もあります。
■ 金沢法律事務所では、離婚問題の初回相談について、相談者から相談料をいただきません。弁護士に依頼するかどうかは、弁護士のアドバイスを参考に決めてください。もちろん、ご相談の際に依頼するかどうかを決めず、持ち帰ってじっくり考えてくださってかまいません。ご相談は、できるだけお早い段階でなさることをお勧めします。

判例変更か? 預貯金は遺産分割の対象になる?

相続・遺産分割に関して、非常に重要なニュースがあった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23HAW_T20C16A3CR8000/

預金の分割、大法廷が判断へ 遺産「対象外」見直しか
2016/3/23 21:15

預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかが争われた審判の許可抗告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。実務では当事者の合意があれば分割の対象とするケースが主流となっており、「対象外」としてきた判例が見直される可能性がある。弁論期日は未定。

大法廷に回付されたのは、死亡した男性の遺族が、男性名義の預金約3800万円について別の遺族が受けた生前贈与などと合わせて遺産分割するよう求めた審判。

最高裁は2004年の判決などで「預金は相続によって当然に分割されるため遺産分割の対象外」としており、一審・大阪家裁と二審・大阪高裁は判例にしたがって分割を認めなかった。

しかし、遺産分割前に遺族が法定相続分の預金の払い戻しを求めても、銀行は遺族全員の同意が無ければ応じないケースが多い。家裁の調停手続きでも遺族間の合意があれば預金を遺産分割の対象に含めており、判例と実務に差が生じている。

専門家からは「預金は不動産と違って分配しやすく、遺産分割の際に遺族間の調整手段として有効」との指摘もあり、法制審議会(法相の諮問機関)の専門部会は15年4月から、遺産分割で預金をどう扱うべきかについて議論を始めている。

 わかりやすい言葉で言うと、現在の最高裁判例では、

遺産の預貯金は、被相続人が死亡したときに自動的に各相続人に法定相続分で分割されるので、各相続人は、金融機関にある被相続人名義の預貯金のうちの法定相続分にあたる分を払い戻せる

のであり、

遺産分割の協議をする前でも、当然分割なので、払い戻し可能

ということである。(ただし、現在の判例でも、遺言があると話は別。)

 しかし、遺産のうちで預貯金だけは遺産分割をする前に当然に分割され、遺産分割の話し合いの対象から外れる、という結論には、違和感を持つ人も多いところである。それに、ニュース記事にもあるように、金融機関は、相続人全員の印鑑のある払戻請求書、遺産分割協議書、調停調書といったものがないと払い戻しに応じてくれないことが多い(訴訟をすれば結局払い戻されるが)。

 そこで、家庭裁判所での遺産分割調停でも、相続人全員の合意のもとに、預貯金を遺産分割の話し合いの対象にするという扱いを取るケースも多い。合意によって、法律の原則の適用を外すということがされているわけである。

 今回、最高裁が審理を大法廷に回付したことにより、最高裁がこれまでとは別の考え方を取る可能性が出てきた。遺産にはほぼ必ず預貯金が含まれているので、ほとんどすべての相続・遺産分割にかかわってくるルールについての変更がされる可能性があるということである。

 遺産分割調停においては、当然このあたりの判例を踏まえて対応しなければならないが、これからは判例変更の可能性も念頭に置きながらやっていかなければいけないと思われる。判例が変わったら、従来の判例の理論は一気に実務で使いづらくなってしまう。現在、世の中で争われている遺産分割事件にも影響がかなりありそうだ。

相続に関する法律が変わる?

配偶者の家事・介護を相続に反映 法務省が検討開始

2014年1月28日 19時12分 中日新聞サイト

法務省は28日、配偶者の相続拡大を議論する「相続法制検討ワーキングチーム」の初会合を開き、遺産分割の際に考慮される配偶者の貢献内容を見直す方針で一致した。現行制度でほとんど勘案されない家事や介護について、相続に反映させる方向だ。今夏に中間報告をまとめ、民法改正に向けて来年1月の新制度案策定を目指す。
改正が実現すれば、1980年に配偶者分が3分の1から2分の1に引き上げられて以来の本格的な見直しとなる。
チームは有識者と省幹部で構成し、座長には民法や家族法に詳しい大村敦志東大教授が就任した。
(共同)

これまで、家事や介護は「寄与分」として主張されることもありました。

しかし、条文上、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」が寄与分なんですよね(民法904条の2)。

何が問題かというと、「特別の寄与」というのが問題なんですね。

妻が夫の(夫が妻の)療養看護をするのは当然であって、特別の寄与に当たらない、というのが、この条文の基本的解釈なので、裁判所が「審判」で判断するときには、配偶者の介護貢献は、寄与分として算定されにくかったわけです。家事労働についても同様です。

きょうだい間の著しい不均衡については、効果を発揮する法律規定なのですが。

本当に献身的に介護や家事労働をなさったんだなぁ、というようなケースであって、どれだけ裁判所でそれを力説しても、「まぁ、まぁ、気持ちは分かるけど、それを言っても仕方ないんだよなぁ…。」という扱いでした。

こういう法規定に対しては、主に女性から不満の声が挙がっていたのだと思われます。そして、裁判所・裁判官も、そうした不満に対して、「これが正しいんです!」と胸を張って言い返すのではなく、「国会が決めた法律(ルールブック)でそう決められているから、それに反した判断はできないんです…。」と言うしかなかったという。

こうなると、法律を変えようということになってくるわけですね。

寄与分については、貢献が目に見えて財産の増加に結びつくということがないので、家庭裁判所がある程度裁量的な判断をしているようです。

法律が変わって、配偶者の介護や家事労働の貢献も判断要素になってくると、被相続人の配偶者(特に妻)は被相続人の生前にどれだけ介護や家事をしていたか、とにかく頑張って事実主張を積み上げていくことになるんでしょうね。

その結果、場合によっては、裁判所の審判を経るとしても、妻が亡夫の遺産の大部分を相続する、ということも増えそう(現在の実務だと、話し合いで妻が大部分を相続するということはあっても、裁判所の審判になればそうはいかない。)。

配偶者の介護・家事貢献がほぼゼロだとしても法定相続分を奪うわけにはいかないので、そういう場合(配偶者のことをほったらかしだった場合)には現行制度の「原則」並みに決着するけれど、それはむしろ例外になってしまうかも。傾向としては、配偶者の相続分が増えますね。

そして、法律が変わった後、夫→妻の順で死亡するようなよくあるケースにおいては、「夫が死亡するとき」よりも「妻が死亡するとき」というのが、最大のヤマということになってくるのかもしれませんね。

家庭裁判所の調停で注意すべきこと

どんなときに家庭裁判所で調停をするか?

家庭裁判所で調停(家事調停)をするのはどのようなときでしょうか?

これは、一言でいえば、「家族関係・血縁関係についての話し合いをするとき」です。

夫婦間の話し合い

まず、多いのは、夫婦間の話し合いです。

夫婦間の話し合いの項目としては、離婚をするか否かについて、子の監護養育について、養育費について、婚姻費用について、親権者について、財産分与について、などがあります。

離婚が絡む場合は、離婚した後の話もしますし、離婚するまでの間についての話もします。

相続人同士での話し合い

次に多いのは、相続人同士での話し合いです。

誰かが亡くなったときには、誰がどのように財産を相続するか、遺産相続(遺産分割)の話をしなければなりませんが、その話し合いがまとまらないことがあります。

そのようなときは、家庭裁判所で、調停を開き、話し合いをすることになります。

それ以外の調停

それ以外にも、子どもの認知、親子関係の不存在確認、夫婦円満などの調停があります。

誰が調停に参加するか?

  • 申立人(話し合いをしたいと言っている側)
  • 相手方(話し合いの相手)

申立人・相手方とも、1人でもいいですし、複数でもかまいません。ただし、裁判所の手続費用は増加します。このほか、「利害関係人」といって、紛争に関係すると思われる人が参加する場合もあります。

よく、離婚の話では、親御さんが当事者の代わりに話をしたがることがありますが、裁判所の手続上は、当事者本人(または付き添っている弁護士)が意思を述べるのが大原則になります。よって、事情にもよりますが、多くの場合は、親御さんの関与は待合室のご同行までです。

話し合いはどのように行われるか?

別席調停が多い

事案の種類にもよりますが、調停に持ち込まれる事案は、争いがあって同席をすることが難しい場合が多いので、別席調停となることがほとんどです。

ただし、平成25年から始まった家事事件手続法の運用では、基本的に同席でするとされている事柄もあります。東京家裁は、つぎのとおり説明しています。

調停期日の始めと終わりに,双方当事者本人が調停室に立ち会った上で,裁判所から,手続の説明,進行予定や次回までの課題の確認等を,また,成立・不成立等により事件が終了する際の意思確認を行います。これは,家事法制定の趣旨の一つである,調停手続の透明性の確保の観点から,主体的な合意形成の前提となる,手続の進行状況や対立点,他の当事者が提出した資料の内容等について,両当事者と裁判所が共通の認識を持つための取り組みです。手続代理人が選任されている場合でも,出頭した本人に手続等の内容を理解して頂くために,代理人のみではなく,双方当事者本人に立ち会ってもらい確認,説明を行います。
ドメスティック・バイオレンス(精神的暴力,性的暴力も含みます。)等の問題が窺われる等により立ち会うことに具体的な支障がある場合は実施しませんので,そのような場合には,「進行に関する照会回答書」(2の書面)に具体的な事情を記載してください。また,一律,硬直的な扱いではなく,事案等に応じて柔軟に実施してまいりますので,ご協力をお願い申し上げます。

要するに、調停期日の各回において、始まりと終わりに、当事者全員が立ち会って、いろいろなことを確認します、ということです。

ただ、当事者のいずれかが難色を示した場合は同席させないで説明・確認をする場合も多いと思われます(平成25年以降、金沢家裁で私が関わった事件では、同席確認をしなかったことのほうが多いです)。

別席調停の方法

さて、別席調停の仕方ですが、多くの場合、申立人と相手方が30分程度ずつ交互に調停室に入り、調停委員2名(男女)と話をします。調停委員は、聞き取った話を元に、着地点を探ります。双方当事者が、調停室への出入りを繰り返す中で、調停委員と話をして、対立当事者との歩み寄りを模索するわけです。

多くの場合、1回の期日は2~3時間となります。その日に話し合いがまとまらなければ、次の日程を決めて、その日はおしまいになります。

どのような方が調停委員になっているのか、どんな形で調停が進むのかについては、NPO法人シニアわーくすRyoma21の上平慶一氏のエッセイを参考になさるとよいでしょう。

成立と不成立

何らかの形で話し合いがまとまった場合には、調停調書に、決まったことを書き記します。これを調停の「成立」といいます。

調停は、話し合いですので、話し合いが全くまとまりそうになかったり、どちらか一方がもう話し合いをしないと宣言すれば、「不成立」ということで、終わってしまいます。

不成立の場合には、そのまま終わってしまうものもありますが、事案によっては、「審判」の手続に自動的に移行します。

このほか、申立人が調停を取り下げた場合には、そこで調停は終わります。

調停で注意すべきこと

調停は、訴訟に比べれば、一般人でも申し立てやすい手続です。しかし、実は、弁護士でも一筋縄ではいかないことの多い手続です。

家事調停に臨むにあたって、どの場合でも注意すべきことを以下に書き出してみました。このほかにも、個々の事案ごとに、注意すべき事柄はあると思われます。

対立当事者が何を言っているのか正確に把握すること

別席調停では、調停委員を介しての話し合いにならざるを得ません。調停委員は、学識・経験を認められて裁判所から選ばれているのですから、基本的には信頼でき、対立当事者(申立人←→相手方)の言っていることをおおむね正確に伝えてようとしてくれていると思っていいのですが、それでも不正確な点が含まれることもあります。

調停委員は、和解を模索する役目がありますので、双方への伝え方を工夫されています。その中で、やんわり伝えようとしたり、調停委員なりの提案を付け加えようとしたりする中で、正確性が失われやすいと思われます。

よって、対立当事者の言っていることが正確に表現されていないのではないかと思ったら、率直に指摘して、再確認をしてもらったほうがよいです。

調停は口頭で進みますので、ボタンの掛け違いが起こったら、時間を浪費してしまいますし、合意できないような状況になってしまうこともありますので…。

不成立になった場合にどうなるかを常に考えること

調停は「話し合い」ですから、双方がYesと言ったことだけが調停調書の中身になるわけです。

しかし、だからといって、「自分の気に入らないことは全部Noだ」と言っていると、のちのち大変なことになる場合があります。

「調停で決まらないときには審判で決めなければならない」と法律上決められている事項について、調停が不成立になったら、誰かが「No」だと言っていても、家庭裁判所が審判をして決めてしまうことがあります。たとえば、結婚していながら別居しているときの婚姻費用であるとか、遺産分割がまとまらないときであるとかは、自動的に審判に移行します。

家庭裁判所の審判の内容は、調停で話し合いのされていたこととは原則無関係です。調停で話し合いが進んでいた内容とは全く異なる、意外な内容の審判が出されることもじゅうぶんありえます。

家庭裁判所が審判をすると、基本的にはそれに従わなければならなくなります。そうなってから「また調停に戻してほしい」と言っても、もう遅いということになります。即時抗告などの異議申し立ての手段もありますが、弁護士でも苦心する手続です。

ですから、もし調停が不成立になったらどういう展開になるか、ということを常に考えるべきだということになります。

調停調書の内容にこだわること

家庭裁判所の書記官は、最終的に調停での約束内容を記した書面を作ります。これを「調停調書」といいます。

調停調書の効力は、大きいものがあります。

たとえば、「AがBに毎月○○円支払う」という内容の調書になっていたときに、もしAがその額の支払いをしなければ、Bは家庭裁判所に申し立てて強制執行の手続をとることができます。

一般的な話し合い(裁判所での調停ではない)で上記のような支払い約束がされていても、すぐには強制執行をすることはできませんから、調停調書は強力です。

逆に言うと、調停の話し合いの中で「案」として出されていても、調停調書に書かれていなければ、「調停上の約束」ではないのです。

後日、「あのときの調停で、そういう話になったはずです。調停調書に書いてないのがおかしいのです。調停委員に聞いたり、調停委員のつけていたメモを見ればわかります」と言っても、手続上、調停調書ができあがるときに当事者みんなが内容をしっかり確認したことになっているのですから、難しいのです。

また、調停調書の文言(調停条項)の書き方によって、上記のような執行力(不履行の時に強制執行できる効力)をもつ場合ともたない場合に分かれます。

ですから、話し合いがまとまる方向で進んで、最後、調停調書を作るということになったら、内容にはこだわるべきですし、細かな言葉遣いにも注意を払うべきだということになります。

まとめ

  • 家事調停は、別席調停が多い。
  • 相手の主張、調停委員の提案など、正しく確認するよう努めたい。
  • 調停不成立の場合、審判に移行するかどうかを押さえておくべきである。
  • 調書の調停条項の書き方には細心の注意を払うべきである。

養育費・婚姻費用「算定表」とは何か?

婚姻費用・養育費のおさらい

今回は,全国の家庭裁判所で用いられている,婚姻費用と養育費の算定表についてご説明します。

まず,その前に,婚姻費用と養育費についておさらいします。

婚姻費用とは?

婚姻費用とは,結婚している夫婦について,対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

婚姻費用の中には,子どもの養育にかかるお金も含まれるため,結婚している間は,通常,子どもにかかる費用も含めて,婚姻費用の問題として解決します

別居をしている夫婦でも,離婚が決まるまでは,婚姻費用が発生します

法律的には,「夫婦合わせてかかるお金をどう分担するのか?」という考え方をします。このことを,婚姻費用の分担といいます。

より詳しく知りたい方は,私が婚姻費用について解説したブログを見てください。

養育費とは?

養育費とは,未成年者の子どもを監護養育している親が,監護養育していない親に対し請求することができる,子どもの監護養育のための費用です。

上で書いたように,結婚中も当然子どもを育てなければいけませんが,結婚中は婚姻費用として問題が処理されます。よって,養育費(だけ)の問題として浮上するのは離婚後です

裁判所では,養育費についても,婚姻費用と同じような考え方によって定められています。要するに,親同士の収入の差によって,養育費の額が大きく増減するというわけです

この考え方をより詳しく知りたい方は,私が養育費について解説したブログを見てください。

養育費・婚姻費用算定表とは何か?

養育費・婚姻費用算定表はどこで見ることができるか

養育費・婚姻費用算定表とは,これまで養育費・婚姻費用について説明した考え方をもとに,夫婦(元夫婦)の年収を当てはめたときに,養育費・婚姻費用がおよそ何円になるか,見やすくした表です。

裁判所(東京家庭裁判所)のホームページにも掲載されています。左のリンクをクリックしていただくと,裁判所のページが表示され,実際に使われている養育費・婚姻費用算定表を見ることができます

また,多くの法律事務所(弁護士の事務所)や各地の裁判所,法テラスなどにも,参照できるように置いてあることが多いです。

裁判所では算定表が重視されている

この算定表(及び算定表の元になる考え方)は,東京・大阪の裁判官が研究会を開いて作り上げたものであり,東京家裁・大阪家裁だけではなく,全国の家庭裁判所がこれを参考にしています

養育費・婚姻費用が訴訟や家事審判で決まる場合には,裁判官や家事審判官がこの算定表に重きを置いて額を決定することが非常に多くなっています

養育費・婚姻費用が家事調停で決まる場合にも,多くの弁護士や調停委員は,この算定表を参考にします。弁護士や調停委員には,この算定表に対して賛成意見と反対意見がありますが,裁判所が重視している算定表ですので,無視できないのが実情です。

なお,この算定表は,最大で子どもが3人のケースまでしか掲載されていませんが,子どもが4人以上いても,算定表の考え方を元に計算することが可能です。

算定表の額は絶対なのか?

よく,夫婦(元夫婦)の片方又は両方から,「自分たち夫婦(元夫婦)の場合,算定表のままではおかしいと思います。○○の事情があるからです。」といった意見が出ることがあります。

算定表は,あくまで統計を元に,標準的なケースで妥当する額を示していますので,そのような意見が出ることは当然だと思います。

しかし,裁判所の裁判官の多くは,この算定表は,「それぞれの夫婦には事情があり,完全に標準的なケースなどはない」という前提で,額の幅を持たせて作られているのだから,あまりに特別な事情がない限りは,額の幅のうちの最大限・最小限をとることで済む,と考えているように思います。これは,私が,何件も,養育費・婚姻費用の算定についての争いを扱った上で感じていることです。

一方の弁護士が増額方向での事情を挙げれば,もう一方の弁護士が減額方向での事情を挙げる……。そんなケースも多いなかで,裁判所は,基本的には算定表を基本に置きつつ,夫婦双方の事情を踏まえて額を決めていると思われます。

ですから,弁護士が付いたというだけで,大幅に額が増減するというものではありません。やはり,基本となるのは,夫婦(元夫婦)の収入額や夫婦ごとの事情です。しかし,養育費や婚姻費用の問題を抱えた方が裁判所や相手方に対し,適切なタイミングで適切な主張をするためには,養育費・婚姻費用について,裁判所の実務を理解している弁護士に依頼・相談するということは重要であるといえます。

養育費とは何か?

養育費とは

婚姻費用に引き続き,養育費についてです。

未成年者の子どもを監護養育していない親は,監護養育している親に対し,子どもの監護養育のための費用(養育費)を分担する義務があります(民法766条3項)。

養育費の支払いが問題になるのは,主に離婚後です。

婚姻中に別居しているときにも理論上は養育費を請求できますが,婚姻中の婚姻費用には配偶者の生活費と子どもの養育費の両方が含まれているので,まだ結婚している状態のときは,ふつうは婚姻費用という名目で請求します。

婚姻費用と同じく,養育費についても,「生活保持義務」(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)の考え方があてはまりますので,配偶者が特段困窮していないような状況でも,同程度の生活になるように支払わなければならないのです。

逆に言えば,法律的な考え方からすれば,子どもを監護しない親が,子どもを監護する親に対して,子どもを監護するための費用の全額を支払わなければならない,ということもありません。あくまで,子どもを監護する親と子どもを監護しない親の負担の調整をするものだということです。

養育費はいつまで支払うべきなのか?

裁判所の原則論・一般論としては,成人(現在は20歳)に達した者は自分で生計を立てるのが原則であり,子どもが成人に達した後は,「生活保持義務」の考え方に基づく扶養義務はなくなります。

しかし,現実的には,子どもが大学などに通えば,卒業するまでは自分で生計を立てることが困難であるのが通常です。

そういうことが見込まれる場合には,調停などの話し合いで,双方合意のもと,「22歳まで」などと定めることがあります。ただ,双方が合意しない場合には,裁判官(家事審判官)が審判で決めることになります。そうなると,原則論で,「成人まで」と決める裁判官も多いと思われます。

公的扶助(児童手当や児童扶養手当など)との関係

子どもを監護養育する親が,児童手当(旧名:子ども手当)や児童扶養手当(通称:母子手当)を受給している場合,相手親の感情論としては,養育費として決まった額から手当分を差し引かせてほしい,ということになりやすいですが,法律的にはそのようなことはできませんし,「手当をもらっているから養育費を減額してほしい」と養育費の決め直しを申し立てても,それを理由としては減額にならないと思われます。

ただし,養育費をもらっているのに,もらっていないと申告して行政から手当を受け取るのは,違法です。

家庭裁判所における養育費の算定方法

家庭裁判所においては,養育費についても,計算式を用意しています。計算式の考え方は,次のとおりです。

  1. 子どもが,実際とは違い,養育費支払義務親のほうと同居していると仮定して,義務親と同等の生活をするために生活費がいくらかかるか算定する
  2. 1」で算出された子どもの生活費を,双方の収入に応じて按分する

婚姻費用と同じく,ここでいう「収入」とは,税込収入から「公租公課(税金などのことです)」・「職業費(仕事用の被服費・交通費などです)」・「特別経費(住居関係費・保健医療費などです)」を控除した金額のことをいい,これを「基礎収入」と呼びます。この基礎収入について,裁判所は,個別事情に応じて計算するわけではなく,統計データから推計して,給与所得者の場合は総収入の約34~42%を基礎収入であると考え,自営業者の場合は総収入の約47~52%を基礎収入であると考えています。

また,婚姻費用と同じく,裁判所で使っている計算式では,夫と妻は生活費の指数が10015歳~19歳の子は生活費の指数が90(成人の90%)。0~14歳の子は生活費の指数が55(成人の55%)。この割合の生活費で,同等の生活といえると考えて計算しています。

計算式は絶対なのか?

婚姻費用と同じように,計算式で機械的に決められることに納得がいかない,実際はこうではない,と思われる方も多いのではないかと思います。

裁判所外で約束する場合には,計算式や算定表を絶対視しなくてもよいでしょう。また,裁判所でも,調停であれば,双方合意のもと,計算式や算定表を離れた金額設定をすることも可能です。

しかし,一方は「算定表のとおりの額であるべきだ」,もう一方は「算定表の額は高すぎる(または安すぎる)」と主張し続けるなどして,話が決着しないときには,家庭裁判所の裁判官(家事審判官)が審判で決めることになります。

そうなったときの多くの裁判官の考え方としては,「事案ごとにバリエーションがあることを前提に計算式・算定表は作られているのであり,計算式・算定表の考え方が通用しないような特段の事情がなければ,計算式・算定表によって算出された範囲内で決めよう」というものだろうと,私は思っています。

婚姻費用とは何か?

はじめに

最終的に,「養育費・婚姻費用算定表とは何か?」という話がしたいのですが,その前に「養育費・婚姻費用とは何か?」を押さえておく必要があります

そのうち,今回は,婚姻費用についてお話しします

婚姻費用とは

「婚姻費用」とは,夫婦の社会的地位や身分等に応じた夫婦対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

対等,ということで,家計が別管理になっていれば当然収入によって差が付きますから,「分担」して調整しなければならないことになります。

では,どうやって分担するか。

ここで出てくる考え方が「生活保持義務」です。

「生活保持義務」とは,自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務,です。

要するに,「生活の保持」という観点では,配偶者に対しても自分と同程度の生活をさせる責任があるということです。

注意すべきなのは,これは,別居中でも妥当するということです。

・・・まぁ,弁護士が入って配偶者に請求する場合は,ほとんどが別居中の場合ですね。

また,どちらが子どもを監護(要するに,同居して世話)しているか,ということも踏まえて算定されます(その意味では,婚姻関係が続いているうちは,子育てにかかる費用も,婚姻費用の分担の内の問題です)。

婚姻費用の分担額算定の考え方

婚姻費用の分担額とは,収入の多い配偶者から収入の少ない配偶者に支払われる金銭のことです。

ここで,収入の多い配偶者を義務者(分担金を支払う義務がある者であるので)とよび,収入の少ない配偶者を権利者(分担金を受け取る権利がある者であるので)とよびます。

この金額をどう算定するかについては,いろいろな考え方がありうるところでしょう。

実務の考え方(別居中の夫婦の場合)では,夫婦双方の収入を合算し,夫婦の収入の合計を世帯収入とみなし,別居中の夫婦どちらが何歳の子どもを何人監護しているかによって,世帯収入の分け方がほぼ自動的に決まってくるその結果,義務者が権利者に支払うべき金額が算出される,というようになっています。

裁判所で使っている計算式では,ここでいう「収入」とは,税込収入から「公租公課(税金などのことです)」・「職業費(仕事用の被服費・交通費などです)」・「特別経費(住居関係費・保健医療費などです)」を控除した金額のことをいい,これを「基礎収入」と呼んでいます。

この基礎収入についても,裁判所は,通常の場合は,個別事情に応じて計算するわけではなく,統計上,給与所得者の場合は総収入の約34~42%が基礎収入になることが多く,自営業者の場合は総収入の約47~52%が基礎収入になることが多いとされていることから,この推計値を使っています。

そして,裁判所で使っている計算式では,夫と妻は生活費の指数が10015歳~19歳の子は生活費の指数が90(成人の90%)0~14歳の子は生活費の指数が55(成人の55%)。この数字で計算されます。

計算式は「絶対」なのか?

推計で公租公課・職業費・特別経費を控除したり,子育てにかかる費用を数値化したりしているけれども,実際自分たち夫婦の場合には特別な事情があるのに,それが考慮されないの? という疑問は当然出てくるところでしょう。

このことについて詳しくは算定表についてのお話のなかで書きたいと思いますが,一言だけ書いておくとすれば,「あくまで標準的な婚姻費用を簡易迅速に算出するために計算式や算定表を用意した」と裁判所は言うけれども,やはり計算式や算定表で出た結果を裁判所は重視していて,各夫婦の個別的な事情を考慮して計算式や算定表から大幅に外れた額を裁判所が決めることはあまり(ほとんど)ない,ということです。

ですから,弁護士としても,計算式・算定表への賛否は分かれても,計算式・算定表を無視するようなことはできないのです。

生命保険金請求権と相続の関係

まず,注意ですが,以下の議論は民法上のものであり,税法上の「相続財産」・「みなし相続財産」の考え方とは異なります。要するに,相続税を申告するときの考え方と,遺産分割をするときの考え方は異なるということです。

1 保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし,相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合

→ 指定された者は,固有の権利として保険金請求権を取得するので,遺産分割の対象とならない

 2 保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし,保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し,被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合

→ 保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に相続人(ら)の固有資産となり,被保険者(兼保険契約者)の遺産から離脱する。死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は,法定相続分の割合による請求権を各相続人が取得する。そのように被相続人が意思表示していたものと考えるということである。

3 受取人指定がない場合

→ 保険約款と法律(保険法等)により判断。たとえば約款に「被保険者の相続人に支払う」との条項があれば,保険契約者(被相続人)が保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同様に考える。よって,遺産分割の対象とはならない

4 保険契約者が被保険者及び保険金受取人の資格を兼ねる場合

→ 満期保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に被相続人自身の財産となるから,満期後被相続人が死亡した場合は,遺産分割の対象となる保険事故による保険金請求権については,相続人を受取人と指定する黙示の意思表示があると解釈し,被相続人死亡の場合には保険金請求権は相続人の固有財産となる。   このように,多くの場合,保険金請求権は,相続人の固有資産となり,遺産分割の対象とはなりませんが,保険金の額や保険契約の経緯等によっては,「特別受益」として「持戻し」の対象となる場合があります。

相続人は単独で被相続人の預金を払い戻せるか?

★注意★ 以下の記述は、現在の実務では妥当しないおそれがあります。

詳しくは、重大な判例変更! 預貯金も遺産分割の対象になります!

 

人が亡くなると,金融機関は,亡くなった人の預貯金を自由に引き出せないようにすることがあります(むしろそれがほとんどです)。

亡くなったことを知っていて,自由に引き出せる状態にしておくと,金融機関の責任問題になるためです(この点を詳しく説明します。民法478条は「債権の準占有者に対する弁済」についての規定になっています。債権者の外観を有する者(債権の準占有者といいます)に対し善意・無過失で弁済を行った場合には,その弁済は有効になり,債権は消滅する,という規定です。ある人が亡くなったことを知っているにもかかわらず,金融機関がその人の口座からお金を自由に引き出せる状態のまま放置しておくと,金融機関は「無過失」で払戻し(弁済)したといいにくくなり,弁済としては無効になるおそれが強いのです。)。

こうして,人が亡くなると,たいてい,その人の預貯金が引き出せなくなります

亡くなった人のことを「被相続人」と言います。相続”される人”という意味です。これに対して,相続”する”人を「相続人」と言います。

相続人が複数いて,その相続人たちの間で話がまとまっている場合には,相続人たちは,被相続人の預貯金を引き出すために,遺産分割協議書を作成したり,金融機関所定の書面に署名押印したりして,預貯金を払い戻して,配分します。これは,モメていない一般的な場合です。

しかし,素直にまとまらないケースもありますね。相続人たちの間で話がまとまらないときは,どうなるのでしょうか? 遺産分割の決着がつくまで,預貯金は凍結されたままなのでしょうか? また,個別に払戻しを受けられるとしたら,どの範囲で払い戻してもらえるのでしょうか?

この問題については,最重要の判例が存在します。

相続人が数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは,その債権は法律上当然分割され,各共同相続人が,その相続分に応じて権利を承継する」(最高裁昭和29年4月8日判決,民集8・4・819)という内容の判例です。

ここで注意すべきは,預金債権も可分債権であるということです。ですから,被相続人が現金や預金を残して死亡した場合には,相続人たちは,それぞれ,その法定相続分に応じて,権利を承継するのです。

預金の権利というのは,法律的に表現すると,「金融機関に対して,預けたお金を返してください」と言える権利です。

この権利を,各相続人が,自分の法定相続分の割合で取得するのです。

よって,金融機関は,被相続人が遺言をのこしていない場合,法定相続分の範囲で払戻しに応じなければならないのです

 

特別受益(被相続人の生存中に財産分け等で不動産やまとまった額の金額の贈与を受けた相続人がいる場合;民法903条)や寄与分(被相続人の生存中にその財産の形成,維持,増加について特別に貢献(寄与)した相続人がいる場合;民法904条の2)があるケースだとどうなるでしょうか?

これについては,次のように扱われます。→ 特別受益や寄与分は,遺産分割手続において具体的相続分を決定する際に勘案されるものにすぎないのであり,預金債権の法定相続分に応じた承継には影響を及ぼすものではない すなわち 特別受益や寄与分と関係なく各相続人は金融機関に預金の払戻しを請求できる のです。

ただし,金融機関は,実務上,トラブル防止のため,任意には払戻しに応じないことがあります。金融機関は,相続でモメているときに,どちらか一方の肩を持っているように見られたくないのです。しかし,結局,遺産分割の審判(家庭裁判所)において,特別受益や寄与分が認められたとしても,最終的に各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関から受けられることには変わりないのです。

・・・ただ,一般的な感覚では,預金についても,遺産分割協議や遺産分割調停で,どう分けるか話し合おう,というのが穏当かなと思います。一般的には,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる!」と正面切って言う人は少ないです。ですから,一般的にはこういうことが意識されないままでなんとなく済まされていますが,法律や判例に従えば,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる(法律的な言い方をすれば,当然に分割される)」ということなのです。

弁護士がついて,任意協議,調停をする場合でも,多くは,話し合いでまとまります。そうすると,ここまでギリギリの争いにはなりません。しかし,話し合いでどうしてもまとまらない場合,審判により裁判所に決してもらおうとすると,この問題に直面するのです。

仮に,被相続人の遺産のほとんどが預貯金であったとしたら,どうなるでしょうか?

遺産分割の審判で,「あの人はあれだけの生前贈与を受けている!(特別受益)」とか「私は被相続人の財産増加にこれだけ寄与した!(寄与分)」という主張をしても,預金は,遺産分割審判の対象外で,その主張とは関係なく,各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関に請求できるということになるのです。