「時効の中断」→「時効の更新」

民法が改正され、従来「時効の中断」だったものが「時効の更新」に変わった。

また、従来「時効の停止」だったものが「時効の完成猶予」に変わった。

権利行使の期間制限を意味する消滅時効の制度は、法律に詳しくない人たちにも非常に重要な制度である。特に、債権(代金や貸金返還)の支払を請求する側、債権の支払を請求される側それぞれにとって、消滅時効は重要だ。

言葉そのものから意味を想像しやすい形に変わったことはよかったことだろう。

以前の「時効の中断」や「時効の停止」では、中断や停止をした後にどうなりそうなのかが、言葉そのものからは読み取ることができなかった。

時効の更新」であれば、ウェブページ上で時計のカウントが進んでいる、そのページを”更新”することによって、また時計が1から進むというイメージになる。

時効の完成猶予」であれば、当面時効が完成しないだけで、その後猶予状態でなくなれば、完成する可能性は残存しているということがわかりやすい。

しかし、どういう場合に、「時効の更新」や「時効の完成猶予」となるのかについては、そう簡単な話ではない。これは、しっかり調べる必要があり、複雑または多額の問題になれば弁護士に相談・依頼して解決すべき問題になってくる。

たとえば、昔、借りていたサラ金業者から請求書や督促状が来た、とか、裁判所から支払督促や訴状が送られてきた、というような場合は、「昔」がどれくらいか、サラ金業者とどういうやりとりをしてきたかにもよるけれども、弁護士に相談したほうがいい。時効を援用できるのにしないでお金を払ったら、その後取り返しのつかないことになるからだ。

↑というのは、こういう理屈である。「時効の更新」は、時効期間の満了までに行うものであり、時効期間が満了した後にはできない。更新できない、ということは、時効期間満了後に、”うっかり”支払ったとしても、その後に時効を援用できるような気がしてくる。お金を返せ、と言える気もしてくる。しかし、そうではない。債務者が消滅時効の期間満了後に債務の一部を弁済したり、支払することを約束したりして、債務承認を行った場合、債務者は時効を援用することができなくなる。

なぜかといえば、

①時効期間満了後に一旦債務承認して、さらに時効を援用するのは矛盾する行為であること、

②債権者は「債務者はもはや時効を援用しないであろう」と期待するはずで、その期待を保護すべきであること

が挙げられており、そうだから、「時効の援用を認めないことが信義則に照らして相当」だとされているのである。

時効は援用しなければ意味をなさない(当事者が「時効を援用します」と言わないと、裁判所は、権利が残っていると考えて、請求を認める判決をする)ということが、法律の制度上、非常に重要なポイントである。

債権者が債務者に時効期間が満了していることを教える義務はないとされる。そのため、時効期間が満了しているのに、債権者は請求をすることがあるのである。

債務者にとっては、民法改正で、言葉が少しわかりやすくなったといっても、やはり複雑なのが時効制度だといえる。

破産申立 初歩の初歩

破産の初歩の初歩

破産についてよく知らないまま、債務を抱えて苦しんでいる方(個人、会社)もおられるのではないかと思いますので、「初歩の初歩」を書いてみます。

弁護士に破産や債務整理などの相談に行く決断をするにあたっての参考になれば幸いです。

破産って?

法律上、「破産」とは、破産者(個人または会社)の財産をお金に換えて、債権者に公平に分配する手続のことを言います。各地の地方裁判所に申し立てます(石川県なら、金沢地方裁判所本庁か小松・七尾・輪島支部です)。

ここで、浮かんできやすい疑問は、次のようなものでしょう。

 私は、財産なんて全然持っていなくて、負債しかない。それなのに、「財産をお金に換えて分配」って何のためにやるの? どういうメリットがあるの?

特に、不動産を有していない個人がクレジットカード債務に追われているような場合ですね。

これに対しては、次のようにお答えできます。

 破産手続が終わった後に、裁判所から「免責許可決定」を受けることにより、債務を支払う責任がなくなります。財産をほとんど持っていない個人も含め、破産者にとっての破産申立てのメリットはここにあります。

なお、ふつうは、破産を裁判所に申し立てると、裁判所が破産者ごとに破産管財人を選任します。破産管財人は、破産者の財産をお金に換えるなどの役割をもっています。しかし、換金する財産がほとんどないような個人の場合には、破産管財人を選任せずに裁判所の書類チェックだけで破産手続が終わることがあります(これを「同時廃止」といいます)。

会社の破産の場合には、破産管財人の選任が必須です。また、財産のない個人でも、事業をしていた人が破産する場合には、原則として破産管財人を選任しなければならない扱いになっています(少なくとも、金沢地裁はそのような扱いです)。管財人を選任しなければならない場合、破産者において裁判所への「予納金」として数十万円~百万円超を納めなければならないことになります。

お金をたくさん借りて、好き放題に使いまくって破産?

こういう説明をすると、あくどい(短絡的な)人は、次のように考えたりします。

 俺は財産も持っていないし、「同時廃止」で破産を受け付けてもらえる可能性が高い。お金をとにかくたくさん借りて、好き放題に使いまくって、なくなったときに破産すればいいんじゃないか。あるいは、破産の相談に行く前にクレジットカードで高額商品を買いこんでおいてどこかに隠しておいて、それで破産すればいいんじゃないか。

しかし、こういう考えは通用しません。

各債権者との取引履歴や、過去の預貯金通帳も裁判所へ提出する必要があります。そこで、不自然なお金の動きがあると、裁判所のほうで同時廃止で受け付けてもらえずに管財案件とされたり、「免責許可決定」が下りずに債務支払いの責任が残ったりすることがあります。

また、財産を隠すようなことがあると、「免責許可決定」は下りなくなるおそれが大きいといえます。免責されなければ、たまった債務を自分で払っていくしかなくなります。

ひどいやり方で借金を積み重ねても、弁護士に破産申立を任せれば、なんとかなる・・・という考え方は間違っています。そのような考え方で動いてしまうと、後でつらい目に遭うでしょうから、甘い考えを持たないほうがよいでしょう。

会社・事業者の破産は、事業停止前に考えたほうがよい

会社や個人事業者の破産については、先ほど申し上げた予納金(そのほとんどが破産管財人を選任するための費用に使われる)の準備が大変になります。特に、債権者数・負債額・従業員・店舗が多い会社については、破産管財人の仕事も膨大になるので、裁判所に納める費用だけで100万円超を求められることもあります。

会社の場合、代表者が債務を保証していることも多いので、代表者も同時に破産申し立てすることも多く、その分の予納金も必要になります。

それに加えて、破産申立をお願いする弁護士にも費用を支払う必要がありますので、かなり現金が必要になってくるといえます。

動いている会社の場合には事業停止の直前にでもこうした費用を比較的捻出しやすいです。しかし、事業停止してしまうと、会社や代表者の取引先金融機関の口座は実質的に使えなくなることが多いですし、残っている売掛金の回収を費用に充てようとしてもなかなかうまくいきません。

定期的な入金や残存しているお金以外のところからお金を集めて破産手続開始申立てをするのは、本当に大変な思いをします。よって、会社・事業者が法的に現在の事業を整理することを検討している場合には、破産などの費用を想定しておくとともに、緊急事態になる前に弁護士に相談しておくほうがよいでしょう。

年金担保貸付に要注意

年金担保貸付の落とし穴

独立行政法人福祉医療機構の「年金担保貸付」という制度がある。

この制度は、年金受給権を担保として融資を受けられる制度であるが、厚生年金保険法と国民年金法で年金受給権を担保とした貸付が禁じられている中で、国が特別に設けた制度である。

福祉医療機構という善良そうな組織名と、国が特別に作った制度だということで、何やら表面的には安心感が漂う…。しかし、実は、高齢債務者の債務整理にあたり、債務者がこの制度を利用していた場合、生活債権の足かせになりかねないものである。

破産後も年金から差し引かれ続ける

どういうことかというと、まず第一に、この制度によって年金受給権を担保に供していた場合、破産しても、福祉医療機構が相変わらず年金支給機関から年金を受け取り、契約で定められた分年金をきっちり差し引いてしまう、受給者が受け取れるのは差し引かれた後の年金だということである。よって、現実的に働くことのできない高齢債務者は、破産後、年金が差し引かれているうちは自主的な生活再建が困難である。

高齢の年金受給者で、やむをえず破産に至る可能性の高いのは、企業経営絡みで連帯保証人になっている者ではないかと思われるが、そうした者がこの「年金担保貸付」を利用している場合、取り扱いに注意すべきだ。

代理店金融機関が得るおこぼれ

第二に、私が破産手続ではなく任意整理において、職務上経験したケース。

この「年金担保貸付」は「独立行政法人福祉医療機構代理店」と表示されている金融機関を通じて申し込むのだが、福祉医療機構が年金支給機関から年金を受け取り、福祉医療機構の分を差し引き、その後は、代理店の金融機関の口座に入金することになっている。そこで、高齢債務者が債務不履行状態になっていて、代理店金融機関に対する債務のある場合には、代理店金融機関は債務者名義の口座を凍結し預金と債務を相殺しようとする。

そこで、である。この場合、福祉医療機構の分を差し引いても、年金は半分程度残っていたりするのだが、代理店の金融機関は、それが入金されるのを待ち構えていて相殺しようとするのである。

これについては、そうやって入ってくるお金は明らかに年金であるから、「差押禁止債権を原資とする預金債権の差押え」の問題となるのではないかと考えられる。

この点、私のケースで、石川県の某金融機関は、最高裁平成10年2月10日判決を盾にとって、預金として入金後は識別不可能だから差押え可能だと説明し、差押えを実行した。このケースでは諸事情あり、裁判所で争うことはなかったが、私は、このケースは、上記最高裁判決後に出された東京地裁平成15年5月28日判決のように、実質的には識別・特定可能であり(だって、凍結しているところにまんまと入ってくるお金だし・・・)、差押禁止にあたり相殺できないのではないかと思う。

しかし、このケースそのものについての判決例は見当たらなかった。そのため、こうやって争いになること自体が嫌忌すべきリスクではあろう。

なお、この場合でも、任意整理ではなく破産手続を選択すれば、代理店金融機関が優先的に弁済を受けることはできないことになるだろう。

年金担保は縮小、廃止へ

この年金担保という制度、年金の前借りというような異様な制度であり、それなのに実質的に審査しているのが窓口金融機関ということで、福祉的な観点が薄れ、望ましくない様相を呈していた。

また、この制度と生活保護を併用するような人たち(年金を前借りしておいて、後の期間で生活費が不足したら生活保護を受けるというような形か・・・)も出現するに至って、廃止論が高まり、民主党政権下の事業仕分けで廃止評決が出された。

それを受けて、厚生労働省は、制度の廃止に向けて現在も動いている(融資限度額を下げるなどしている)が、なかなかすっぱりとは廃止できないようである。