相続に関する法律が変わる?

配偶者の家事・介護を相続に反映 法務省が検討開始

2014年1月28日 19時12分 中日新聞サイト

法務省は28日、配偶者の相続拡大を議論する「相続法制検討ワーキングチーム」の初会合を開き、遺産分割の際に考慮される配偶者の貢献内容を見直す方針で一致した。現行制度でほとんど勘案されない家事や介護について、相続に反映させる方向だ。今夏に中間報告をまとめ、民法改正に向けて来年1月の新制度案策定を目指す。
改正が実現すれば、1980年に配偶者分が3分の1から2分の1に引き上げられて以来の本格的な見直しとなる。
チームは有識者と省幹部で構成し、座長には民法や家族法に詳しい大村敦志東大教授が就任した。
(共同)

これまで、家事や介護は「寄与分」として主張されることもありました。

しかし、条文上、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」が寄与分なんですよね(民法904条の2)。

何が問題かというと、「特別の寄与」というのが問題なんですね。

妻が夫の(夫が妻の)療養看護をするのは当然であって、特別の寄与に当たらない、というのが、この条文の基本的解釈なので、裁判所が「審判」で判断するときには、配偶者の介護貢献は、寄与分として算定されにくかったわけです。家事労働についても同様です。

きょうだい間の著しい不均衡については、効果を発揮する法律規定なのですが。

本当に献身的に介護や家事労働をなさったんだなぁ、というようなケースであって、どれだけ裁判所でそれを力説しても、「まぁ、まぁ、気持ちは分かるけど、それを言っても仕方ないんだよなぁ…。」という扱いでした。

こういう法規定に対しては、主に女性から不満の声が挙がっていたのだと思われます。そして、裁判所・裁判官も、そうした不満に対して、「これが正しいんです!」と胸を張って言い返すのではなく、「国会が決めた法律(ルールブック)でそう決められているから、それに反した判断はできないんです…。」と言うしかなかったという。

こうなると、法律を変えようということになってくるわけですね。

寄与分については、貢献が目に見えて財産の増加に結びつくということがないので、家庭裁判所がある程度裁量的な判断をしているようです。

法律が変わって、配偶者の介護や家事労働の貢献も判断要素になってくると、被相続人の配偶者(特に妻)は被相続人の生前にどれだけ介護や家事をしていたか、とにかく頑張って事実主張を積み上げていくことになるんでしょうね。

その結果、場合によっては、裁判所の審判を経るとしても、妻が亡夫の遺産の大部分を相続する、ということも増えそう(現在の実務だと、話し合いで妻が大部分を相続するということはあっても、裁判所の審判になればそうはいかない。)。

配偶者の介護・家事貢献がほぼゼロだとしても法定相続分を奪うわけにはいかないので、そういう場合(配偶者のことをほったらかしだった場合)には現行制度の「原則」並みに決着するけれど、それはむしろ例外になってしまうかも。傾向としては、配偶者の相続分が増えますね。

そして、法律が変わった後、夫→妻の順で死亡するようなよくあるケースにおいては、「夫が死亡するとき」よりも「妻が死亡するとき」というのが、最大のヤマということになってくるのかもしれませんね。

相続人は単独で被相続人の預金を払い戻せるか?

★注意★ 以下の記述は、現在の実務では妥当しないおそれがあります。

詳しくは、重大な判例変更! 預貯金も遺産分割の対象になります!

 

人が亡くなると,金融機関は,亡くなった人の預貯金を自由に引き出せないようにすることがあります(むしろそれがほとんどです)。

亡くなったことを知っていて,自由に引き出せる状態にしておくと,金融機関の責任問題になるためです(この点を詳しく説明します。民法478条は「債権の準占有者に対する弁済」についての規定になっています。債権者の外観を有する者(債権の準占有者といいます)に対し善意・無過失で弁済を行った場合には,その弁済は有効になり,債権は消滅する,という規定です。ある人が亡くなったことを知っているにもかかわらず,金融機関がその人の口座からお金を自由に引き出せる状態のまま放置しておくと,金融機関は「無過失」で払戻し(弁済)したといいにくくなり,弁済としては無効になるおそれが強いのです。)。

こうして,人が亡くなると,たいてい,その人の預貯金が引き出せなくなります

亡くなった人のことを「被相続人」と言います。相続”される人”という意味です。これに対して,相続”する”人を「相続人」と言います。

相続人が複数いて,その相続人たちの間で話がまとまっている場合には,相続人たちは,被相続人の預貯金を引き出すために,遺産分割協議書を作成したり,金融機関所定の書面に署名押印したりして,預貯金を払い戻して,配分します。これは,モメていない一般的な場合です。

しかし,素直にまとまらないケースもありますね。相続人たちの間で話がまとまらないときは,どうなるのでしょうか? 遺産分割の決着がつくまで,預貯金は凍結されたままなのでしょうか? また,個別に払戻しを受けられるとしたら,どの範囲で払い戻してもらえるのでしょうか?

この問題については,最重要の判例が存在します。

相続人が数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは,その債権は法律上当然分割され,各共同相続人が,その相続分に応じて権利を承継する」(最高裁昭和29年4月8日判決,民集8・4・819)という内容の判例です。

ここで注意すべきは,預金債権も可分債権であるということです。ですから,被相続人が現金や預金を残して死亡した場合には,相続人たちは,それぞれ,その法定相続分に応じて,権利を承継するのです。

預金の権利というのは,法律的に表現すると,「金融機関に対して,預けたお金を返してください」と言える権利です。

この権利を,各相続人が,自分の法定相続分の割合で取得するのです。

よって,金融機関は,被相続人が遺言をのこしていない場合,法定相続分の範囲で払戻しに応じなければならないのです

 

特別受益(被相続人の生存中に財産分け等で不動産やまとまった額の金額の贈与を受けた相続人がいる場合;民法903条)や寄与分(被相続人の生存中にその財産の形成,維持,増加について特別に貢献(寄与)した相続人がいる場合;民法904条の2)があるケースだとどうなるでしょうか?

これについては,次のように扱われます。→ 特別受益や寄与分は,遺産分割手続において具体的相続分を決定する際に勘案されるものにすぎないのであり,預金債権の法定相続分に応じた承継には影響を及ぼすものではない すなわち 特別受益や寄与分と関係なく各相続人は金融機関に預金の払戻しを請求できる のです。

ただし,金融機関は,実務上,トラブル防止のため,任意には払戻しに応じないことがあります。金融機関は,相続でモメているときに,どちらか一方の肩を持っているように見られたくないのです。しかし,結局,遺産分割の審判(家庭裁判所)において,特別受益や寄与分が認められたとしても,最終的に各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関から受けられることには変わりないのです。

・・・ただ,一般的な感覚では,預金についても,遺産分割協議や遺産分割調停で,どう分けるか話し合おう,というのが穏当かなと思います。一般的には,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる!」と正面切って言う人は少ないです。ですから,一般的にはこういうことが意識されないままでなんとなく済まされていますが,法律や判例に従えば,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる(法律的な言い方をすれば,当然に分割される)」ということなのです。

弁護士がついて,任意協議,調停をする場合でも,多くは,話し合いでまとまります。そうすると,ここまでギリギリの争いにはなりません。しかし,話し合いでどうしてもまとまらない場合,審判により裁判所に決してもらおうとすると,この問題に直面するのです。

仮に,被相続人の遺産のほとんどが預貯金であったとしたら,どうなるでしょうか?

遺産分割の審判で,「あの人はあれだけの生前贈与を受けている!(特別受益)」とか「私は被相続人の財産増加にこれだけ寄与した!(寄与分)」という主張をしても,預金は,遺産分割審判の対象外で,その主張とは関係なく,各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関に請求できるということになるのです。