上脇元神戸市議の事件で大阪高裁が再審を認めた

私はこれまで上脇義生氏の事件のことや再審請求のことを知らなかったのですが、今般の報道で初めて知り、注目しておかなければならないことであるように思ったので、私なりにまとめておきます。


【概要(ニュースや上脇氏のサイトを読んでまとめたもの)】

上脇義生・元神戸市議は、知人の元風俗店経営者に脱税の指南をした疑いをかけられ、2008年に逮捕・起訴され、2010年6月に国税徴収法違反の罪で有罪(懲役1年6月、執行猶予3年)が確定していた。

上脇氏は、起訴後に市議を辞職したが、一貫して無実を主張していた。
元経営者の証言や元従業員の供述調書などを主な根拠にして有罪が認定されたものであった。
しかし、元経営者は、検察に誘導されて本当でない内容の調書作成に応じ、公判でも虚偽を述べたことについて、2013年夏の元経営者の執行猶予期間(5年)明け後に上脇氏に真相を告白した。
上脇氏は、2014年8月、元経営者や元従業員が詳細に真相を語った陳述書などをもとに、神戸地裁に再審を請求した。陳述書は、上脇氏に脱税の指南を受けたものではないことを述べ、なぜ上脇氏に指導を受けたかのような調書や証言になったのかについて理由を語るものであった。

神戸地裁は、2015年2月、証人尋問をすることもなく、再審請求を棄却した。それに対し、上脇氏は大阪高裁に即時抗告した。
大阪高裁は、2015年3月、元経営者に対する尋問を行うことに決めた。5月28日に行われた証人尋問では、元経営者が上脇氏の事件への無関与を具体的に述べた。7月には、上脇氏側と検察側の双方から大阪高裁に対して最終意見書が出し合われた。
そして、

2015年10月7日、大阪高裁(的場純男裁判長)は、「共謀の認定には合理的な疑いが残る」と述べ、神戸地裁の再審請求棄却決定を取り消し、再審開始を決定した。


【私の感想】

捜査機関の事件の見立てが外れるケースがあるのだ、そして、関係者(特に捜査機関)はそういう可能性をよく踏まえて取り組まなければ冤罪を招いてしまうのだ、ということを改めて実感する。

捜査機関は、強力な権限や駆使できる影響力を持っているので、調べようとすること・集めようとする証拠には非常に手が届きやすい。捜査機関は、そうして集めた客観的な証拠や動かしがたい証言をもとに、事件の筋を探し当て、刑事裁判で被告人を有罪にして適正な刑を与えるため、見定めた事件の筋に沿う証拠をさらに集めて固めていくという作業をする。

人間は、過去のある時点・ある地点に行って見たいものを直接見てくるわけにはいかないので、何があったかを考える作業は、必然的に推測によるところが出てくるものである。そのこと自体は能力に限りのある人間が社会を作っていくためには致し方ない。そうした過去の出来事についての推測をする際に誤りが入り込む可能性は低くはない。特に、少人数の人間の発言やそれを書き取ったというものによる場合には、大なり小なりの誤りは入り込む。実際のところ、裁判では、少々の誤りや曖昧さについては、ほとんど無視するようにして判断が下されることもある。過去のことを100%の精度で解明・表現することはできないので、ある程度割り切って結論を示しているようなところがある。

まず問題にすべきなのは、捜査機関の見立てについて、「筋を大きく読み違えていないか」ということ、それに「信用できない証拠が混ざっていないか」ということである。

上脇氏の件で、検察は、別の可能性はないのか、仮説に合致しない証拠がないのか、冷静・公平な目で検討しながら進めることができていただろうか? 真実の可能性がある反対説が浮上したとき(当事者や関係者の誰かが反対説に基づく検討を求めたときなど)に、それに目を向けない、検討しようともしない態度を取らなかっただろうか? 捜査機関が一旦固めようとした筋に固執し、それに反する証拠を排除したり、むしろ筋に合致する証拠を無理に作っていくということをしなかっただろうか?

いわゆる「共犯者供述(証言)」に基づいて有罪に持ち込もうとする場合、そうした無理が生じやすい。しかし、裁判所は被告人の主張の排斥するための論理をパターンごとに用意しているので、単に実際のストーリーを述べ、「彼(共犯者)には虚偽を述べる動機がある」とだけ主張したところで、あっさりと主張が排斥されてしまう。上脇氏の件でも、公判の際、上脇氏は無実の主張を貫き、「共犯者」の主張のおかしさや虚偽を述べる動機についてさんざん主張しただろう。それでも有罪になるということである。

そして、一旦確定した判決を覆すというのは非常にハードルが高い中、再審請求審の神戸地裁があっさりと請求を棄却し、辛うじて大阪高裁で救われたようなものが今回の結果である(ただ、検察が最高裁に特別抗告する可能性はある。)。

元経営者の陳述書(上脇氏サイト)を読むと、裁判所が元経営者の当初の法廷証言を信じた理由がどのようなものであったのか、また、実際は信じるべき証言でなかったことがわかる。


【司法取引の話】

今後、約2年以内には司法取引が導入されるけれども、弁護人が基本的には個々に勉強して取り組んでいくことになる中、捜査機関は一体になってリソースを活用して取り組むことが想定される。司法取引は、こうした経済事件で、はっきりとした証拠が残らない点について最も活用されるはずの制度であると思われる。見立てが間違っている可能性に目をつぶり、とにかく有罪という結論に持っていくためのツールとして司法取引が使われるならば、冤罪のおそれは高まってしまうだろう。

司法取引を導入しても大丈夫なのだろうか…

司法取引の導入に進む日本

取り調べ可視化、裁判員裁判などで導入へ 司法取引も 法制審特別部会が改革案了承

2014.7.9 19:51

 捜査と公判の改革を議論する法制審議会(法務相の諮問機関)の特別部会が9日開かれ、法制化のたたき台となる法務省が示した最終案が満場一致で了承された。検察と警察の捜査の一部で取り調べ全過程の録音・録画(可視化)を義務付けるほか、通信傍受の対象犯罪拡大や司法取引の導入が決まった。法制審は今後、了承した最終案を法相に答申する。法務省は来年の通常国会に刑事訴訟法などの改正案を提出したい考えだ。

了承された最終案では可視化導入が決まったほか、通信傍受では捜査で電話やメールを傍受できる対象犯罪に、組織性が疑われる殺人や放火、強盗、詐欺、窃盗など9類型の罪を追加。NTTなど通信事業者の立ち会いも不要になる。

司法取引は容疑者や被告が、共犯者など他人の犯罪を解明するために供述したり証拠を提出したりすれば、検察官は起訴の見送りや取り消しなどの合意ができる。検察官、弁護士、容疑者・被告人の3者間で行うと規定された。殺人などの重大事件は対象外で、経済事件や薬物事件などに限定された。(産経)

最近報じられているように,法務大臣の諮問機関である法制審議会で取りまとめ案が満場一致で承認され,来年の通常国会に提出される刑事手続法関連の法案の概要が固まり,司法取引が日本にも導入される可能性が高まった。

審議会のページにあるpdfを読むと,「捜査・公判協力型協議・合意制度」と名付けているようだ。ソフトに言い換えているようで,逆にまがまがしさを感じる表現だが…。

要綱(骨子)の概要は,次のとおりだという。

〔合意・協議の手続〕
○ 検察官は,必要と認めるときは,被疑者・被告人との間で,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするため真実の供述その他の行為をする旨及びその行為が行われる場合には検察官が被疑事件・被告事件について不起訴処分,特定の求刑その他の行為をする旨を合意することができるものとする。合意をするには 弁護人の同意がなければならないものとする(要綱一1)。
○ この制度の対象犯罪は,一定の財政経済関係犯罪及び薬物銃器犯罪とする(要綱一2)。
○ 合意をするため必要な協議は,原則として,検察官と被疑者・被告人及び弁護人との間で行うものとする(要綱一5)。
○ 検察官は,送致事件等の被疑者との間で協議をしようとするときは,事前に司法警察員と協議しなければならないものとする。検察官は,他人の犯罪事実についての捜査のため必要と認めるときは,協議における必要な行為を司法警察員にさせることができるものとする(要綱一7・8)。
〔合意に係る公判手続の特則〕
○ 被告事件についての合意があるとき又は合意に基づいて得られた証拠が他人の刑事事件の証拠となるときは,検察官は,合意に関する書面の取調べを請求しなければならないものとし,その後に合意の当事者が合意から離脱したときは,離脱書面についても同様とする(要綱二)。
〔合意違反の場合の取扱い〕
○ 合意の当事者は,相手方当事者が合意に違反したときその他一定の場合には,合意から離脱することができるものとする(要綱三1)。
○ 検察官が合意に違反して公訴権を行使したときは,裁判所は,判決で当該公訴を棄却しなければならないものとする。検察官が合意に違反したときは,協議において被疑者・被告人がした他人の犯罪事実を明らかにするための供述及び合意に基づいて得られた証拠は,原則として,これらを証拠とすることができないものとする(要綱三2・3)。
〔合意が成立しなかった場合における証拠の使用制限〕
○ 合意が成立しなかったときは,被疑者・被告人が協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述は,原則として,これを証拠とすることができないものとする(要綱四)。
〔合意の当事者である被疑者・被告人による虚偽供述等の処罰〕
○ 合意をした者が,その合意に係る他人の犯罪事実に関し合意に係る行為をすべき場合において,捜査機関に対し,虚偽の供述をし又は偽造・変造の証拠を提出したときは,5年以下の懲役に処するものとする(要綱五)。

そして,要綱(骨子)そのものは次のとおり。要するに,この下に貼り付ける文章の要約が上の文章ということ。

一 合意及び協議の手続
1 検察官は,特定犯罪に係る事件の被疑者又は被告人が,他人の犯罪事実(特定犯罪に係るものに限る )についての知識を有すると認められる場合において,当該他人の犯罪事実を明らかにするために被疑者又は被告人が行うことができる行為の内容,被疑者又は被告人による犯罪及び当該他人による犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮して,必要と認めるときは,被疑者又は被告人との間で,被疑者又は被告人が㈠に掲げる行為の全部又は一部を行う旨及び当該行為が行われる場合には検察官が被疑事件又は被告事件について㈡に掲げる行為の全部又は一部を行う旨の合意をすることができるものとする。合意をするには,弁護人の同意がなければならないものとする。
㈠ 被疑者又は被告人による次に掲げる行為
イ 刑事訴訟法第198条第1項又は第223条第1項の規定による検察官,検察事務官又は司法警察職員の取調べに際して当該他人の犯罪事実を明らかにするため真実の供述をすること。
ロ 当該他人の刑事事件の証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。
ハ 当該他人の犯罪事実を明らかにするため,検察官,検察事務官又は司法警察職員に対して証拠物を提出すること。
㈡ 検察官による次に掲げる行為
イ 公訴を提起しないこと。
ロ 特定の訴因及び罰条により公訴を提起し又はこれを維持すること。
ハ 公訴を取り消すこと。
ニ 特定の訴因若しくは罰条の追加若しくは撤回又は特定の訴因若しくは罰条への変更を請求すること。
ホ 即決裁判手続の申立てをすること。
ヘ 略式命令の請求をすること。
ト 刑事訴訟法第293条第1項の規定による意見の陳述において,被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること。
2 1に規定する「特定犯罪」とは,次に掲げる罪(死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪を除く。)をいうものとする。
㈠ 刑法第2編第5章(公務の執行を妨害する罪 (第95条を除く。),第17章(文書偽造の罪),第18章(有価証券偽造の罪),第18章の2(支払用カード電磁的記録に関する罪),第25章(汚職の罪)(第193条から第196条までを除く。),第37章(詐欺及び恐喝の罪)若しくは第38章(横領の罪)に規定する罪又は組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第3条(同条第1項第1号から第4号まで,第13号及び第14号に係る部分に限る。),第4条(同項第13号及び第14号に係る部分に限る。),第10条(犯罪収益等隠匿)若しくは第11条(犯罪収益等収受)に規定する罪
㈡ ㈠に掲げるもののほか,租税に関する法律,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律,金融商品取引法に規定する罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの
㈢ 次に掲げる法律に規定する罪
イ 爆発物取締罰則
ロ 大麻取締法
ハ 覚せい剤取締法
ニ 麻薬及び向精神薬取締法
ホ 武器等製造法
ヘ あへん法
ト 銃砲刀剣類所持等取締法
チ 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
㈣ 刑法第2編第7章(犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪)に規定する罪又は組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第7条(組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等)に規定する罪(㈠から㈢までに掲げる罪を本犯の罪とするものに限る。)
3 1の合意には,被疑者若しくは被告人又は検察官において1㈠若しくは㈡に掲げる行為に付随し,又はその目的を達するため必要な行為を行う旨を含めることができるものとする。
4 1の合意は,検察官,被疑者又は被告人及び弁護人が連署した書面により,その内容を明らかにして行うものとする。
5 1の合意をするため必要な協議は,検察官と被疑者又は被告人及び弁護人との間で行うものとする。ただし,被疑者又は被告人及び弁護人に異議がないときは,協議の一部を被疑者若しくは被告人又は弁護人のいずれか一方のみとの間で行うことができるものとする。
6 5の協議において,検察官は,被疑者又は被告人に対し,他人の犯罪事実を明らかにするための供述を求めることができるものとする。この場合においては,刑事訴訟法第198条第2項の規定を準用するものとする。
7 検察官は,刑事訴訟法第242条(同法第245条において準用する場合を含む 。)の規定により司法警察員が送付した事件,同法第246条の規定により司法警察員が送致した事件又は司法警察員が現に捜査していると認める事件の被疑者との間で5の協議をしようとするときは,あらかじめ,司法警察員と協議しなければならないものとする。
8 検察官は,1の合意をすることにより明らかにすべき他人の犯罪事実について司法警察員が現に捜査していることその他の事情を考慮して,当該他人の犯罪事実についての捜査のため必要と認めるときは,6により供述を求めることその他の5の協議における必要な行為を司法警察員にさせることができるものとする。この場合において,司法警察員は,検察官の個別の授権の範囲内において,1による合意の内容とする1㈡に掲げる行為に係る検察官の提案を,被疑者又は被告人及び弁護人に提示することができるものとする。
二 合意に係る公判手続の特則
1 被告人との間の合意に関する書面等の取調べ請求の義務
㈠ 検察官は,被告事件について,公訴の提起前に被告人との間でした一1の合意があるとき又は公訴の提起後に被告人との間で一1の合意が成立したときは,遅滞なく,一4の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈡ ㈠により一4の書面の取調べを請求した後に,当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしたときは,検察官は,遅滞なく,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
2 被告人以外の者との間の合意に関する書面等の取調べ請求の義務
㈠ 検察官,被告人若しくは弁護人が取調べを請求し又は裁判所が職権で取り調べた被告人以外の者の供述録取書等が,その者が一1の合意に基づいて作成し又はその者との間の一1の合意に基づいてなされた供述を録取し若しくは記録したものであるときは,検察官は,遅滞なく,一4の書面の取調べを請求しなければならないものとする。この場合において,その合意の当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしているときは,検察官は,併せて,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈡ ㈠前段の場合において,当該供述録取書等の取調べの請求後又は裁判所の職権による当該供述録取書等の取調べの後に,一1の合意の当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしたときは 検察官は,遅滞なく,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈢ 検察官,被告人若しくは弁護人が証人として尋問を請求した者又は裁判所が職権で証人として尋問する者との間でその証人尋問についてした一1の合意があるときは,検察官は,遅滞なく,一4の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈣ ㈢により一4の書面の取調べを請求した後に,一1の合意の当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしたときは,検察官は,遅滞なく,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
三 合意違反の場合の取扱い
1 合意からの離脱
㈠ 一1の合意の相手方当事者がその合意に違反したときその他一定の場合には,一1の合意の当事者は,その合意から離脱することができるものとする。
㈡ ㈠の離脱は,その理由を記載した書面により,相手方に対し,その合意から離脱する旨を告知して行うものとする。
2 検察官が合意に違反した場合における公訴の棄却等
㈠ 検察官が一1㈡イからヘまでに係る合意(一1㈡ロについては特定の訴因及び罰条により公訴を提起する旨の合意に限る。)に違反して,公訴を提起し,異なる訴因及び罰条により公訴を提起し,公訴を取り消さず訴因若しくは罰条の追加,撤回若しくは変更を請求することなく公訴を維持し,又は即決裁判手続の申立て若しくは略式命令の請求を同時にすることなく公訴を提起したときは,判決で当該公訴を棄却しなければならないものとする。
㈡ 検察官が一1㈡ロに係る合意(特定の訴因及び罰条により公訴を維持する旨の合意に限る。)に違反して訴因又は罰条の追加又は変更を請求したときは,裁判所は,刑事訴訟法第312条第1項の規定にかかわらずその請求を却下しなければならないものとする。
3 検察官が合意に違反した場合における証拠の使用制限
㈠ 検察官が一1の合意に違反したときは,被告人が一5の協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述及びその合意に基づいて得られた証拠は,これらを証拠とすることができないものとする。
㈡ ㈠は,当該証拠を当該被告人又は当該被告人以外の者の刑事事件の証拠とすることについて,その事件の被告人に異議がない場合には,適用しないものとする。
四 合意が成立しなかった場合における証拠の使用制限
一1の合意が成立しなかったときは,被疑者又は被告人が一5の協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述は,これを証拠とすることができないものとする。ただし,被疑者又は被告人が一5の協議においてした行為が刑法第103条,第104条若しくは第172条の罪又は組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第7条第1項(第2号に係る部分に限る。)の罪に当たる場合において,それらの罪に係る事件において用いるときは,この限りでないものとする。
五 合意の当事者である被疑者又は被告人による虚偽供述等の処罰
1 一1㈠イ又はハに係る合意をした者が,その合意に係る他人の犯罪事実に関し当該合意に係る行為をすべき場合において,検察官,検察事務官又は司法警察職員に対し,虚偽の供述をし又は偽造若しくは変造の証拠を提出したときは,5年以下の懲役に処するものとする。
2 1の罪を犯した者が,その行為をした他人の刑事事件の裁判が確定する前であって,かつ,その合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白したときは,その刑を減軽し又は免除することができるものとする。

経済事犯等に限られると言うが,詐欺などメジャーな罪名も入っていて,刑事事件のうちの相当部分でこの制度が使えることになる。

これをザッと見て感じるのは,この制度を利用して,捜査側のストーリーに沿った供述(証言)固めがしやすくなるということと,起訴されたくない気持ちから捜査側が見立てたストーリーに乗っかって真実でない供述(証言)をしてしまうケースが多発するだろうということ,そして,弁護人の立場としても,担当している被疑者が捜査側のストーリーに乗っかって他の被疑者の犯罪事実の立証の手助けをしようとした場合,どのように対応すればいいのか非常に困難な課題を抱えるということだ。

弁護人の責任も増す制度であるといえるが,弁護士の間ではあまり話題になっていない。可視化のアピールはよく耳にするが,司法取引への賛否とか,司法取引が導入されたらどう対応するかということは,そこそこ刑事弁護に取り組んでいる弁護士の間でも普段あまり議論されているわけではない(もちろん,議論しているところもあるのだろうが)。

こういう制度を導入していいのか,誰がどこで議論して,法改正の手前まで来てしまったのだろうか。弁護士会としては,可視化実現のためには,譲らなければならない制度だったのだろうか。ちょっと,いや,かなり不安を感じる。