著作権に関する講演を聴講しました

著作権(知的財産権)の講演

先日、金沢弁護士会館に、早稲田大学の上野達弘教授が来訪され、著作権訴訟における立証について講演をされましたので、聴講いたしました。

著作権の分野では、インターネットやボーダーレスの時代を反映して、新しく重要な裁判例が年々出され続けているということが実感できました。

著作権法は、著作物の定義として、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めていますので、実用品のデザインについては、美術の範囲に属しないとして原則として著作物性が否定されてきました。

また、今の時代、高い付加価値のつく商品は、デザインに特筆すべき点があることが多いと思われます。分野にもよりますが、むしろ、そこで勝負しないと、他者とのちがいを出せず、高い価値がつかないことが多いこともあるでしょう。

そうしたときに、著作権法が実用目的の応用美術の「表現」を保護するかどうかが重要な鍵になってきます。

これに関しては、最近の判決例である知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁(ファッションショー事件控訴審判決)、知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁(TRIPP TRAPP事件控訴審判決)の紹介を受けました。

学説上もまだ熾烈な議論があるようですが、現在の判決例の趨勢からは、創作性や美的な個性を立証することによって、実用目的の応用美術も、著作権上の権利保護を受けられる可能性があると思われます。

建築の著作物

講演では話題にならなかったのですが、実用目的の応用美術の関係で、私は、建築物の著作権について気にかかりました。

建築については、著作権法10条1項5号で「建築の著作物」が列挙されていますが、実際には建築設計図が同6号の「図面の著作物」で保護されやすい一方で、一般的な建築物そのものが著作権法により保護される例は乏しいようです。大阪高判平成16年9月29日(積水ハウスのグルニエ・ダイン事件)も、グッドデザイン賞を受賞した高級注文住宅のモデルハウスでありながら、著作権法上の保護の対象となるべき美術性・芸術性はないとしました。

近時の東京地判平成29年4月27日(ステラ・マッカートニー青山事件)でも、個性的ともいえる建物の柄の配置について、原告が建築の著作物についての主張をしましたが、要旨、「アイデアであって表現に該当しない」、「表現に該当しても個性の発露があると認めるに足りる程度の創作性がない」、「具体的な配置や配列の提案までなされておらず、観念的な建築物が現されていると認めるに足りる程度の表現であるともいえない」という理由で、建築の著作物性は否定されています。

建築の分野では、建築芸術や土木芸術といいうるような創作性が必要としてきた旧来の考え方がまだ強いといえます。

しかし、建築の分野でも、作る・建てる技術が普及すると、デザインの保護が重要になるのは家具に近いところがあると、私には思えるのです。こうしたことについては、今後も考え、取り組んでいきたいと思っています。