残業代(割増賃金)の付加金 訴額に入れるのか入れないのか

最近、破産管財に関する懇談会・勉強会に出席したところ、話題の一環として、未払い残業代の「付加金」の話が出てきた。

破産者の破産管財人は、破産者が使用者(雇用主)に対し未払い残業代の支払い請求権を有している場合、使用者(雇用主)に対して訴訟を提起して残業代のみならず付加金の支払いを求めることができるか? できるとすれば金額(割合)に限度があるのか? というような話だ。

この話の中で、訴訟で付加金請求をしたときの訴額算定の話がちらりと出て、どなたかが「付加金の金額も訴額算定の基礎になる」という発言をされた。

しかし、私は、付加金(労働基準法114条)というのは、裁判所が使用者に対する制裁として命じることができる政策的なものであり(もちろん反射的に雇用者への恩恵になるが)、これが独立して訴訟物を構成するものではないから、未払い残業代(割増賃金)と同額の付加金を請求に挙げたことによって残業代(割増賃金)についての訴額が実質的に倍になってしまうというのに違和感があった。

そこで、ちょっと調べてみたところ、なんと、裁判所ごとに考え方が異なっていて、付加金を訴額算定の基礎に入れる地裁と入れない地裁があるということのようだ。

東京地裁は、付加金請求は付帯請求であると考えて、訴額には入れない。

大阪地裁は、請求する付加金の金額を訴額に入れる扱い。

東京の弁護士による説明には、訴額に入れないとはっきり書いているのもあるくらいなのに…。

大阪には、この差異について取り上げて語っておられる弁護士も複数おられる。(坂本昌史先生 sir.child先生…)

訴額への影響が大きいため、管轄(簡易裁判所に訴訟提起できるか、できないか)にも関わってくる。そこで、地方裁判所の訴訟代理権のない司法書士も気にする点のようだ。

そして、巷の情報(ブログなど…)によると、福岡地裁・神戸地裁は訴額に算入しない、驚くことに大阪地裁堺支部も訴額に算入しないのだとか。ただ、これって、一般論に立ち返ると、裁判長(裁判官)の訴状審査権(民事訴訟法137条)によるものだろうから、必ずしも地裁(支部)ごとの話ではなく、事件が係属する裁判体ごとの判断ということになってくるのだろう。でも、東京地裁本庁と大阪地裁本庁での扱いは、裁判官ごとの自由というよりは、それぞれの労働専門部の見解なのだろう。たぶん。

そこで、金沢地裁、富山地裁、福井地裁やそれらの各支部での扱いが気になってくるところだ。司法書士のすずきしんたろう先生によると、名古屋地裁本庁では訴額に入れるらしく、2010年に北陸のどこかの地裁本庁に電話をかけて、「名古屋では入る」と言いながら聞いたところ、「名古屋に準じて入る」と言われたそうな。

しかし、その時点から今まで日が経っていて裁判官も書記官も代わっている中で、その取り扱いが受け継がれているのかは謎だ(そもそも、当時扱いがしっかり定まっていたのかも謎だ)。ただ、冒頭に書いた懇談会・勉強会で、弁護士のどなたかが「入る」という旨のご発言をなさったということで、現在金沢地裁では「入る」扱いをとっているか、そういう扱いをとる裁判官がいるのではないかと思われる(全員そうかどうかはわからない)。

何もないのに聞くというのもおかしいので、今度付加金が発生するような案件(端的に言えば、残業代請求とか…)があったらどうなっているのか聞いてみたい。印紙不足で訴状却下にされた上で即時抗告で争うなんてのは、さすがに大変だと思うけれど(それをやるなら、できるだけ東京高裁管内でやりたい気がする。なんとなく。)。