憲法保障の重要性。憲法裁判所とは?

憲法で大切なのは憲法保障

自民党総裁(内閣総理大臣)が、今秋の臨時国会中に自民党の憲法改正案を衆参両院の憲法審査会に提出したい、そして、国民投票での可決を経て2020年に改正憲法の施行を目指したいとしています。

2018年9月に自民党総裁の任期満了、2018年12月に衆議院の任期満了、2019年夏に参議院の任期満了があるため、自民党の一部では、2018年か2019年の国民投票であれば国政選挙との同時実施を検討している向きもあるようです。国政選挙に適用される公職選挙法上の「選挙運動」規制と日本国憲法の改正手続に関する法律上の「国民投票運動」規制が全く異なるため、同日投票を行うとすれば収拾がつきにくくなると思われますが、同日投票の可能性を示すこと自体が政治的な意味を有する状況でありますので、昨今の政治の進め方からすれば、勢いで同日投票になだれ込む可能性もあるでしょう。

それはともかく、2012年12月の再政権交代以降(特に2015年から2016年の「平和安全法制」の審議を機とした民共接近後)の憲法をめぐる論議は、9条・安保体制の是非、第二次世界大戦直後の日本国憲法制定の是非、という論点がほとんどを占めているように思います。すくなくとも、国政選挙においてマスメディアが憲法を取り上げるのは、ほとんどこの文脈に限定されています。

さらには、昨今の自民党総裁やその周辺の人たちの発言によれば、憲法9条に3項を設けるか、憲法9条の2を設けるなどして、早く自衛隊の違憲性の疑義を解消するために憲法改正をしたい、ということのようです。

しかし、私は、初めての憲法改正にあたっては、憲法の役割に立ち戻った議論がなされるべきだと思っています。私が重視する憲法の役割というのは、憲法保障、特に、憲法に違反する立法行為や行政行為などを無効にすることができる違憲審査です。立法行為を無効にするということは、国会の多数決で決まった法律であっても、憲法に違反していれば、無効にできるということです。

多数決により法律が作られ、少数派になってしまった人たちの意見が通らないことがあります。それは、民主主義のルールではあります。しかし、常に多数の人の意見が絶対的通ってしまっては、少数派の基本的権利が侵害されてしまいます。それを食い止めるのが、法律を無効にする力を持つ憲法ということになります。

立法府への国民による議員の送り出し方、国政に関する情報の行き渡らせ方、国民の間での議論の仕方、などなど、さまざまな要素があるでしょうが、多面的に、そして深く熟した議論がなされずに、法律ができるということがしばしばあるように思われます。そうしたときには、法律により基本的な権利やそれに類するものが侵害される国民が出てくるおそれがあります。

日本国憲法における違憲審査の仕組み

現在の日本国憲法は、81条に最高裁判所の法令審査権を規定しています。次の条文です。

第八十一条
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

現在の憲法は、この程度の規定ですので、どのような場合に裁判所が「憲法違反であるか否か」を審理してよいのか、明確に定められているとはいえません。しかし、我が国の憲法学説上、日本国憲法は、具体的な訴訟事件の解決にあたって必要な範囲で憲法に関する争点について判断をすることができるのだと言われています。このような仕組みを付随的違憲審査制と言います。具体的事件に付随した違憲審査という意味です。

具体的事件に付随しなくても、法律などの憲法違反を裁判所が判断できるようにしている国もあります。この仕組みを抽象的違憲審査制と言います。

付随的違憲審査制の論拠となるのは、議会と裁判所の民主的基盤の差(議会は選挙によって選ばれた議員により構成される)、裁判所の客観性・公正さ・信頼の維持というところです。また、行政がスムーズに進むことを重視する価値判断もあると思われます。

また、付随的違憲審査制のもとでは、違憲判決の効力は、当該事件に限って法令の適用が排除されるもの(個別的効力説)であるというのが通説(定説)とされています。

私の意見(憲法裁判所の設置を検討すべきである)

以下、現在の私の意見です。

確かに、付随的違憲審査制の論拠にも一理あると思います。しかし、現在は、地方議会による条例を含め、立法に対して、それが国民いずれかの基本的権利を侵害するものではないか、チェックが十分働いていないと思っています。付随的違憲審査制でも、具体的な事件においては違憲立法であるとの主張ができるので救済可能性があると謳われていますが、実際には個々人がそのような争いをしにくく、救済可能性が損なわれているのが実情です。また、具体的事件において主張をしても、違憲審査に至る前に争点回避されたり門前払いされるということになりやすくなっています。その結果、本来的に合憲性に疑義のある法律・条例・行政行為などが維持されてしまうわけです。

そこで、私は、憲法裁判所の設置について真剣に検討すべきだと思っています。

憲法裁判所は、ドイツ、イタリア、フランスなどで導入されている制度ですが、具体的事件を前提とせず、政府(連邦政府・州政府)、一定数以上の議会議員等の提訴によって法律等の合憲性を審査する抽象的違憲統制の仕組みを有しています。また、特に、ドイツの憲法裁判所では、憲法訴願と言って、基本権を侵害された個人が、通常裁判所による救済の手段が尽くされたことを前提として、憲法裁判所に対して異議申立てを行い、救済を求めることができます。

長年改正されなかった憲法を改正しようとするときの、政治家主導ではない国民的議論としては、このテーマがふさわしいと私は思っています。

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山岸 陽平
金沢法律事務所(石川県金沢市)を主宰する弁護士

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