リキュール(発泡性)①の罠

サッポロビール「極ZERO」販売中止の件に興味を覚え,いろいろと調査してみた。

(ブログネタになるから調べるというより,私は日頃から,面白いと思ったことを調べ尽くすというタイプである。今回は,調べたことが法令解釈の問題だったので,ここに書くという感じ…。)

ニュースの分析

「極ゼロ」発泡酒で再発売へ、税116億納付も

 サッポロビールは4日、低価格のビール類「第3のビール」として昨年に発売した「極ZERO(ゼロ)」の販売を6月中旬をめどに終了すると発表した。

 第3のビールにかかる酒税額は350ミリ・リットル当たり28円だが、極ゼロがビール(77円)など税額の高い区分に入る可能性があるためだ。品質に問題はなく商品回収は行わない。

 サッポロは、製法を変え、発泡酒の「極ゼロ」を7月15日に発売する。発泡酒の税額は46・98円と第3のビールより高いため、価格は現行商品より20~30円値上がりする見通し。

 酒税法では、麦芽の使用量や製法によって異なる税額が定められている。サッポロは今年1月、国税庁から極ゼロの製法に関する問い合わせを受け、社内で検証した結果、区分が異なる可能性があると判断した。サッポロは「具体的な製法は販売上の秘密事項」として基準との食い違いを明らかにしていない。

 税務当局が第3のビールに該当しないと判断した場合、サッポロはビールと同じ77円の税金を納付する必要があるため、これまで納めた税額との差額分約116億円を追加納付する。

 4日、都内で記者会見した尾賀真城社長は、「ご迷惑をおかけしておわび申し上げます」と陳謝した。

これが読売新聞のサイトに掲載されたニュースである。

サッポロビールは,「具体的な製法は販売上の秘密事項」として基準との食い違いを明らかにしていないというが,いやいや,具体的な製法はともかく,どういう理由で区分が異なる可能性があるのかわからなければ,おもしろくないわけで…。

サッポロビールのニュースリリースを見ても,それはよくわからない。いち消費者の立場からすると,このニュースリリースからは誠実さを感じるし,この程度の説明でいいんじゃないかとは思う。でも,もうちょっと探っていくと何かおもしろいことがわかるかもしれない。

他サイトによる分析

理由は?サッポロ「極ZERO」を第三のビールとして販売終了で発泡酒に変更で酒税の差額分約116億を追加納付するらしいニュース屋さん@日本株式投資

ネット検索でヒットしたサイトだが,

あれ?素人目には、「極ZERO」は「原料に麦芽」使ってるから発泡酒だよね?

「極ZERO」をなぜ第三のビールと定義したのかサッポロ側の意図が不明

と,極ZEROが原料に麦芽を使っているので,その時点で,そもそも,ビールか発泡酒にしかならないのではないか,という指摘をされている様子。

うーん,そういうことなのかどうか?

では,何が引っかかったのか(推測)?

胴元の財務省のサイトに酒税の税率が載っているので(酒税法酒税法施行令酒税法施行規則等をまとめ直したものですが),まずは,そこで理解を深める。分からない点があれば,法令を読む…。

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/123.htm

ここで,リキュール(発泡性)①という品目表示(商品ラベル)と税金の関係がよくわからなくなるが,それについては,国税庁による酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達を見ればわかってくる。

要するに,酒税法2条2項により,税法上の「酒類」は,発泡性酒類,醸造酒類,蒸留酒類及び混成酒類の四種類に分類されるということ。

酒税法3条3号により,ビール,発泡酒,その他の発泡性酒類(アルコール度数10度未満)発泡性酒類に属するとされる。大まかに言えば,今回問題となった極ZEROがここに属することは間違いないだろう。

発泡性酒類の基本税率は,1キロリットルあたり220,000円である。ビールの税率はこれである。

そして,特別の要件を満たすものだけ,税率が軽減されている。以下のとおりである。

水以外の原料中の麦芽重量が25~50%発泡酒の税率は,1キロリットルあたり178,125円である。

水以外の原料中の麦芽重量が25%未満発泡酒の税率は,1キロリットルあたり134,250円である。

その他の発泡性酒類(ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部とした酒類で次に掲げるもの以外のものを除く。)の税率は,1キロリットルあたり80,000円である。

ああ,わかりにくい…。

要するに,こういうことだろう。

ビール・発泡酒以外の発泡性酒類は,1キロリットル80,000円の特別税率が原則適用されるが,そのなかで,ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部とした酒類については,例外もあるので注意しなければならない。その例外(特別税率の適用外)というのは,酒税法23条2項3号イ・ロのどちらにも当てはまらないもの。

その,イ・ロというのは,これ。


糖類、ホップ、水及び酒税法施行令第20条第1項に規定する物品を原料として発酵させたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)


発泡酒(酒税法施行令第20条第2項に規定するものに限る。)にスピリッツ(酒税法施行令第20条第3項に規定するものに限る。)を加えたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)

このは,前掲の国税庁品目表示でいう「その他の醸造酒(発泡性)①」にあたるもの。は,国税庁品目表示でいう「リキュール(発泡性)①」にあたるもの。(①というのは,特別税率の対象品を意味し,特別税率の対象外であれば,②となる。)

従来を第三のビールと呼んでいたので,を第四のビールと呼ぶ人たちもいるがあまり浸透していない。

今回問題となった「極ZERO」は,サッポロビールとしてはに当たると考えて製造販売していたもの。

要するに,発泡酒にスピリッツを加えたものである。

しかし,これにも限定がかけられていて,

発泡酒は酒税法施行令第20条第2項に規定するものに限る

スピリッツは酒税法施行令第20条第3項に規定するものに限る

できあがったお酒はエキス分が2度以上のものに限る

というわけである。

酒税法施行令20条には何が書いてあるか?

発泡酒について(2項)・・・「法第二十三条第二項第三号 ロに規定する政令で定める発泡酒は、麦芽及びホップを原料の一部として発酵させたもので、その原料中麦芽の重量が水以外の原料の重量の百分の五十未満のものとする。

スピリッツについて(3項)・・・「法第二十三条第二項第三号 ロに規定する政令で定めるスピリッツは、次の各号のいずれかに掲げるものとする。
一  大麦を原料の一部として発酵させたアルコール含有物(大麦以外の麦を原料の一部としたものを除く。)を蒸留したもの
二  小麦を原料の一部として発酵させたアルコール含有物(小麦以外の麦を原料の一部としたものを除く。)を蒸留したもの

ここで,報道の中には,「原料となる蒸留酒の配合などに問題点があった可能性がある」としたものもある(日経)。

この報道の根拠は明らかでないが,確かに,発泡酒の原料中の麦芽の重量が50%を超えるという単純な間違いは,犯しにくいように思う。スピリッツが要件を満たさないものであったか,エキス分が2度に達しないものであったか,いずれかが有力だろう。

スピリッツの要件に問題があった場合でも,エキス分に問題があった場合でも,特別税率の要件を満たさなくなる以上,ビールと同様の1キロリットルあたり220,000円の基本税率での課税になるわけである。

なお,スピリッツについては,サッポロビールは,極ZEROには「スピリッツ(大麦)」を使用していると謳っていた。これを信じる限りは,他の麦が入っていることはなさそうだが…。

そうすると,極ZEROの売り文句(プリン体ゼロ,糖質ゼロ)から考えても,エキス分に問題があった可能性が高いか?

ここで,エキス分とは何なのか,解説する(と言っても,私もさっき調べただけだが…)。

酒税法3条2項に定めるエキス分とは,「温度十五度の時において原容量百立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数」であるという(この数字は,重量パーセントを示す)。

要するに,加熱しても蒸発しない成分が,温度15度のときに100立方センチメートルの中に何グラム含まれるかということだ。

このエキス分の内容成分は一般的には,甘味成分である糖分を主体とし,その他旨味成分であるアミノ酸類や酸味成分であるアミノ酸類や酸味成分である有機酸類などから成るという。

特別税率適用のためには,これが2以上でなければならない,というのが酒税関係法令の規定。

極ZEROの売り文句からすると,糖質を用いないで,旨味は確保し,それでいてエキス分2度以上は保たなければならないが,素人目からすると,ここには無理が生じやすいのではないか?と感じる。

要するに,これまでの極ZEROは国税庁の解釈に従えばエキス分が2度未満であり,リキュール(発泡性)①ではなく,スピリッツ(発泡性)②であったのではないか,というのが私の推測(憶測)だ。

(ネットの情報だけでこう推測して書いているので,違っていたら教えてください…。)

今後はどうなりそうか?

サッポロビールでは,

 サッポロビール(株)(以下「当社」)は、アルコール入りビールテイスト飲料において世界で初めて「プリン体0.00」(注1)を実現し、更に「糖質0」(注2)も達成した機能系新ジャンル「サッポロ 極ZERO(リキュール(発泡性)①)」を、本年7月15日(火)より新たに発泡酒(麦芽使用率25%未満)として再発売します。

ということをプレスリリースの冒頭で言っているが,「発泡酒にリキュールを混ぜた場合」に何か根本的な問題があり,それを解決しようとすると,味を損なうか,酒税法23条2項3号ロの要件を達成できなくなるか,プリン体ゼロ・糖質ゼロを実現できなくなるので,このうち酒税法23条2項3号ロの要件達成を断念して発泡酒の要件達成で妥協した形だろう。

今後は,第三(第四)のビールの税率プリン体ゼロ・糖質ゼロの三拍子を達成できるビールメーカー(商品)が登場するのかどうか,そもそもそんなことは無理ゲーであるのか,注目されるところである。

余談

ちなみに,私は,プリン体ゼロとか糖質ゼロにあまりこだわりはない(それより味でしょ!)ので,おいしい商品を開発してほしいし,おいしい商品が開発されるような税制にしてほしいと思う。

税金軽減のために開発力を大幅に割いてしまうのって,もったいないような気がする。

 

※ 追記 追加記事を書きました→ 

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“リキュール(発泡性)①の罠” への3件の返信

  1. このような記事を書いた者です。
    http://d.hatena.ne.jp/mark_temper/20140622/1403444869

    解説なしで酒税法を読んでさらさら理解できてしまうとは、さすが弁護士の先生ですね!
    プリン体ゼロ・糖質ゼロ、からエキス分2度以上の要件をクリアするのが難しいのではないかという推測も鮮やかです。
    真相は分かりませんが、鋭い見方でいらっしゃると思います。

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