マイナンバー普及策に取り込まれた「軽減税率」

消費税10%増税時の軽減税率導入論と、それへの批判

食料品等への軽減税率導入については、一部輿論を背景に、公明党や消費者団体の後押しがあり、2013年末頃、自民党・公明党が「消費税10%増税時に軽減税率を導入する」との合意に達した経緯がある。

消費税軽減税率は、もともと、消費税の増税効果を薄めてしまうほか、対象商品の線引きが困難であること、小売業者の経理負担が増大すること、低所得者層への効果が限定的であることといった理由で、財務省や小売業団体から批判の強い政策である。

2段階の消費税率を導入するとした場合、増税効果が薄まるのは原理的に仕方ないとしても、コストが上がるのはできるだけ避けたい。そのためには、線引きをできるだけわかりやすくし、微妙なところに線を引かない(対象をかなり広げるか、かなり狭める)ということが望ましいということになる。微妙なところに線を引くと、なんとか軽減税率を適用しようとして建設的でない理屈付け合戦が始まり、軽減税率の解釈をする「産業」とそれを取り仕切るための役人が誕生してしまう契機になってしまうのではないか。私は、そのように懸念する。

しかし、与党合意のもと、消費税10%増税時に軽減税率を導入することは内定しており、制度づくりが進められてきた。

給付付き税額控除

森信茂樹・中央大学大学院教授(財務省出身)は、消費税軽減税率について、かねてから厳しく批判している。給付付き税額控除を「消費税還付」という名で導入すべきという議論である。詳しくは、ダイヤモンドオンラインをご参照のこと。

給付付き税額控除に賛成する意見は、少なくない。政界でも、維新の党が主張しているし、以前は民主党の主張でもあった。
 

森信氏の意見は、与党が出している「生鮮食料品の8%軽減税による減収額が3400億円」というのに対応して、「世帯年収300万円未満の世帯について1人当たり一律2万円、300万円から400万円までの世帯については、その半分の1万円を給付する。ただし年金受給者と生活保護者は除く」というものである。

 

この場合、元になる数字は、世帯収入である。この制度のためには、世帯収入を正確に把握することが必要であり、マイナンバーが導入されればそれが可能になるという目論見である。

マイナンバー個人番号カード普及策との融合

 

財務省は、政治側から「軽減税率」導入を使命とされ、制度作りを試みたものの、小売業者など現場の反発が強く、また、高コストでうまくいかないおそれが強い制度をあえて作ることに抵抗感を持ったのではないだろうか。しかし、与党は既に「軽減税率」を掲げてしまっており、行政側で「やるべきでない」とは言いにくい。

 

また、マイナンバーを普及させ、実質化させるということは、財務省の強い願いであり、給付付き税額控除のような制度を導入することで、個々の国民や世帯の所得データを掴みたい。この願いは、財務省の核心であり、行動力の源でもあろう。

 
 

こうして、知恵を結集させた案が、今回財務省が提案した「マイナンバー個人番号カードを通じて購入額を管理し、軽減税率分を還付する」という制度ということになる。これは、「個々の商品の税率が軽減されているという感覚を覚えるような制度」(軽減税率的)でありつつ、小売現場の経理負担を緩和し、税収減の見通しもクリアで、「マイナンバーで所得どころか消費を把握するところまで可能にし、マイナンバー個人番号カード(自動的には送られてこないカード)の普及率を一気に高める」という、”いいとこどり”の制度である。

 

確かに、小売現場の経理負担が緩和されることや、軽減税率の対象の論争が回避されやすいことは、メリットである。ただ、その他の部分には懸念がある。軽減税率の「メリット」として、食料品を買うたびに軽減税率の恩恵を感じる、というものがあるようで、今回提案の制度でも、対象が個々の食料品であるということに意味を持たせているようである。このような目先の「メリット」を安易に求めがちだが、本当に意味のあることなのかよく考えるべきだろう。また、国民にマイナンバーの情報流出への警戒感が強い中、中央官庁側では、このままでは住基カードと同様、個人番号カードが普及しないというおそれを持っており、この策によれば一気に個人番号カードが普及するという目論見だろう。この制度が導入されれば、個人番号カードを申請する国民が大多数になり、おそらく個人番号カードは普及するだろう。しかし、このように流されやすい国民性を利用して、十分な議論なしに、給付金をテコに情報を把握しよう(把握できる情報を増やしていこう)というのは、いいやり方だとは思えない。制度への十分な理解なしに多くの国民が個人番号カードを手にしたとき、さまざまなトラブルが起きるだろう。

非常に巧妙なやり方で、そういう意味でよく考えられているとは思うが、私は、こんな気味の悪い制度になるくらいなら、ストレートに給付付き税額控除を導入したほうがいいと思う。

財務省案への反対が大きくなれば、そのままの案では通らないという可能性もあるだろう。もっとも、財務省的には、この案がそのまま通らなくても、小売現場での2段階税率(一般的な軽減税率)導入を断念する方向になって、マイナンバーを活用する方向になれば、この案をぶち上げた成果があったと言えるだろう。

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山岸 陽平
金沢法律事務所(石川県金沢市)を主宰する弁護士

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