相続の新判例を読む(最高裁第三小法廷平成29年1月31日判決)

イントロダクション ~新判例の出現~

最近、親族相続分野で新しい最高裁判例が出ました。

養子縁組無効確認請求事件(最高裁平成28年(受)第1255号、平成29年1月31日第三小法廷判決)です。一応、リンクを貼っておきます。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/480/086480_hanrei.pdf

一審(家裁)は、養子縁組無効確認請求を棄却、

二審(高裁)は、一審判決取消で養子縁組無効確認請求を認容、

そして最高裁は、一審判決を正当と認め二審判決破棄、となりました。

最高裁判決の要点は、最高裁が下線を引いたところ、すなわち、

専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない

という点です。

これを読み解きます。

「縁組をする意思」とは・・・?

民法802条は縁組が無効になる場合を規定しています。そのうち、第1号は、「当事者間に縁組をする意思がないとき」です。ここでいう「縁組をする意思」は、実質的縁組意思といって、「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」であるとされています。これを実質的意思説といい、現在の裁判所のメインストリームの考え方です。

この実質的意思説に対して、養親と養子とが養子縁組を届出する意思があればそれでいい、というのが形式的意思説です。

繰り返しますが、最高裁は、実質的意思説を堅持しています。

およそ親子という身分関係設定の基礎となるような人間関係が存在していなかった(面識がある程度だった)が、財産の相続のみを目的とした養子縁組がなされたケースで、養子縁組無効とされた裁判例がありました(大阪高裁平成21年5月15日判決、上告棄却・上告不受理)。これは、実質的意思を重視したと言われています。

今回の事案は、「節税効果を発生させたい」という動機が養子縁組をする専らの動機であったケースです。

これは、実際のところ、よくあるケースです。税理士の発想が影響することも多いでしょう。今回の事案における、養親と養子は、血のつながり的には、祖父と孫の関係です。税金の側面から、「養子にすれば得するよ」とアドバイスがされたんでしょう。

そこで、二審(高裁)は、この場合の養子縁組は、節税のための便法でしかないので、真に養親子関係を設定しようとしたものではないよ、と考えたわけです。

今回の判決が注目されたのは、大まかに言って、

1… 二審の結論(養子縁組無効)が維持されるか否か、

2… 養子縁組が有効とされるならば、形式的縁組意思だけでよいとされるのか、それともやはり実質的縁組意思が必要とされるのか、

という、2点によります。そして、それぞれについて、最高裁がどういう理屈をつけるかです。

動機(縁由)を参考にして、実質的意思の有無を考える?

今回、最高裁は、養子縁組無効という二審の結論をひっくり返して、養子縁組有効としました。そして、引き続き、実質的縁組意思が必要という前提に立って、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないと述べたわけです。

以下、私の考えになりますが…。

人と人が養子縁組をしようとすることになりました、という場合には、突然ひらめいて役所に届け出ようというのではなくて、何かがきっかけになることが多いでしょう。現代日本では、相続絡みがほとんどですし、相続税絡みもまた多いわけです。もちろん、ある程度の血縁・人間関係を持った人との間で、老後の面倒を見たい(見てもらいたい)、介護をしたい(してもらいたい)というのもありうると思います。ただ、もともとの人間関係が濃密・良好なケースでも、別々に暮らしていたりして、専ら相続させたいとか相続税の節税のために養子縁組をしたい、ということは、ありうると思われます。

「なぜ今縁組をするのか?」というのが、すなわち「動機」ということになります。

この「動機」イコール養子縁組時の「意思」と見て、「動機」以外には特段取り上げるべき意思がない、というのが二審の思考方法だったのではないかと思います。

しかし、最高裁は違いました。最高裁判決中、下線部の前の判示に着目します。「相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。」と述べています。

最高裁は、節税の動機と縁組の意思は併存し得ると明言しています。最高裁は、動機が意思の大部分を構成するとは見ていないことが明らかです。

これに関して、同じような考え方を取っていると思われるのが、最高裁第二小法廷昭和38年12月20日判決(判タ166号225頁)です。この判決は、他の相続人の相続分を排することを主たる目的としてなされた養子縁組であっても、親子としての精神的つながりをつくる意思が認められるかぎり無効ではない、としています。そして、他の相続人の相続分を減少させようとする意図は養子縁組の「縁由」にすぎないこと、他の相続人の相続分を排して養子に取得させる意思と、真実の養親子関係を成立させる意思の併存を認めています。なお、判例リンクを貼っておきます。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/057/066057_hanrei.pdf

要するに、「動機」しかなければ、その動機のみが意思の内容であることもありうるけれども、動機以外の意思(真の養親子関係を成立させようとするもの)が併存することもある、ということになります。

なお、「節税目的の動機も立派な実質的縁組意思のバリエーションの一つだ」という考え方が大間違いであることは、言うまでもありません。

今回の最高裁判決は、こうして、考え方の交通整理をした判決だと言うことができるように思います。

重大な判例変更! 預貯金も遺産分割の対象になります!

以前(2016年3月)、預貯金が遺産分割の対象となるか否か、という論点について、判例変更の可能性を記事にした。

http://yybengo.com/%E5%88%A4%E4%BE%8B%E5%A4%89%E6%9B%B4%E3%81%8B%EF%BC%9F-%E9%A0%90%E8%B2%AF%E9%87%91%E3%81%AF%E9%81%BA%E7%94%A3%E5%88%86%E5%89%B2%E3%81%AE%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%EF%BC%9F

そして、今日(2016年12月19日)、最高裁判所大法廷(15人の裁判官による)は、結論を出した。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG19H8Q_Z11C16A2000000/?dg=1

預貯金も遺産分割対象に 最高裁が初判断

2016/12/19 15:21

 相続の取り分を決める「遺産分割」の対象に預貯金が含まれるかどうかが争われた審判の決定で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日、「預貯金は遺産分割の対象となる」との初判断を示した。話し合いや調停では預貯金を含めて分配を決めるのが原則で、実務に沿ってこれまでの判例を見直した。

過去の判例は、相続人全員の同意がなければ預貯金を遺産分割の対象とできず、不動産や株式といった他の財産とは関係なく、法定相続の割合に応じて相続人に振り分けると考えてきた。最近では2004年の最高裁判決が「預貯金は法定相続分に応じて当然に分割される」としていた。

要するに、これまでは、

  • 被相続人の死亡の段階で預貯金の形をとっている財産は、原則として、遺産分割の対象とならない。法律で決まっている相続の割合で各法定相続人に自動的に振り分けられ、各相続人は、話し合い無しで、金融機関に引き出しを請求できる。
  • 預貯金を家庭裁判所での遺産分割調停の対象とするには、相続人全員がその取り扱いに同意しなければならない。

となっていたところ、これからは、

  • 預貯金も、遺産分割調停の中で、他の財産と合わせて分け方を話し合って下さい! 話し合いがまとまらなければ、預貯金も含めて分け方を裁判所が審判で決めてしまいます。

ということになりました。・・・ということです。

わかりやすい話ですが、これがどういう影響をもたらすか、についてはピンと来ない方も多かろうと思います。

預貯金が遺産分割の対象となるか否かは、主に、寄与分や特別受益との兼ね合いで問題になっていました。

要するに、仮に遺産が預貯金しかないような場合、自動的に預貯金が相続人に法定相続分で分割されてしまうと、「自分はこれだけ相続財産の増加や維持に貢献(寄与)したのだから、他の相続人より優遇してくれ」という寄与分の主張や「被相続人の生前に特定の相続人だけが贈与を受けた」という特別受益の主張をするタイミング(対象となる相続財産)がなくなってしまうのです。

この問題は、昭和29年に、「預貯金は遺産分割の対象にならず、当然に分割される」という意味の最高裁の判例が出されて以来ずっと潜在化しており、「預貯金を遺産分割の対象としない!」と主張するだけで大きく結論に影響するというのが”知る人ぞ知る”状態になっていました。あまりに結論に差がありすぎますし、場合によっては不公平になりやすい状態です。私は、弁護士になり、この問題はとても重要な問題だと思い、よくよく意識して取り組んでいたのですが、60年間これが続いていたのが不思議です。

もうちょっと、多くの人が大きな声を挙げて、早めになんとかしようよ、と思うのですが…。

もしかすると、家庭裁判所が魔空間だということを傍証する一事情かもしれませんね(違う?)。

自動車保険の弁護士費用特約の利点・使い方

石川県金沢市にある「金沢法律事務所」の弁護士、山岸です。

今回は、自動車保険の弁護士費用特約について、利点や使い方を説明します。

法律相談費用も対象!

これまで弁護士に相談・依頼をなさったことのない方には、「弁護士費用」と言っても、どの段階でどんな費用がかかってくるのかピンとこないかもしれません。

交通事故の場合は、ほとんどの場合、まず法律相談をお受けしてご事情をお伺いします。一般的には、この場合、法律相談費用がかかります。

そして、弁護士が相手方や相手方保険会社との交渉をする場合、または、訴訟を起こす場合には、交渉や訴訟を代理する費用がかかります。

大まかに言えば、この2つに大きく分かれます。

その他、事案に応じて、各種実費や債権回収に関する費用が生じることもあります。

弁護士費用特約は、交渉や訴訟を依頼したときの費用だけではなく、その前段階である法律相談費用についてもカバーしています。

弁護士費用特約が使えるケースかどうかについては、ご加入の保険会社に確認して下さい。

法律相談をしたほうがよいケースは?

交通事故が起きたときには、保険会社を通じて示談が成立するケースは比較的多いです。

ところが、特に「人身事故」の場合には、後遺障害や慰謝料など、弁護士が交渉をすることで相手方の保険会社の提示が高く変化したり、訴訟でより高額の認定が受けられることが多いのが実際です。

このことを知らないまま、本来認められてよい水準よりも低い金額で合意されているケースが多々あるものと思われます。

確かに、交渉や訴訟をすることになると、相手方保険会社の提案にすぐ応じるよりも、解決までの期間が多少伸びてしまうことはあります。

しかし、本来得られてよい賠償を実際に得るために、時間をかけても取り組んでいく意義があることもあります。

法律相談は、ご自身のケースが、弁護士に依頼して交渉・訴訟をしてもらうべきケースなのかどうか、見極めていただくための機会でもあります。

私は、特に、そんな方に、法律事務所にご来訪いただき、法律相談を受けていただければ、と思っています。弁護士費用特約の理想的な使い方だと思います。

法律相談だけで納得できれば、それはそれでよし!

これは、当事務所、弁護士山岸陽平の考え方になりますが、仮に法律相談をして、増額の可能性や解決に至るまでの流れを検討した上で、相談者の方が「自分のケースは弁護士に依頼(交渉・訴訟)するまでのケースではない」という結論に至った場合には、それはそれでいいことだと思っています。

刑事控訴審で「1項破棄」判決をいただきました

一審判決破棄(減刑)

先月(2016年9月)、わたしが国選弁護人に指名されていた刑事控訴審(名古屋高裁金沢支部)の判決がありました。

詐欺罪の被告人です。やったことは認めていますが、量刑が重すぎるのではないかということで控訴したということでした。

事件によっていろいろな争い方がありますが、認めている事件の場合には、不適正な処分が維持されるのは被告人の更生のために、ひいては社会にとってもよくないので、被告人の言い分を法的に構成して、さらにできる弁護活動をやり、裁判所に言い分を聞き入れてもらえるよう努力するのが弁護人の役割です。

もちろん、指名されて初めて事案を知り、被告人ともそこから打ち合わせて、「控訴趣意書」を作り、同時並行で、さらなる弁護活動を進めていきます(認めている場合でも、一審段階で被害弁償や示談ができていなかった場合などは、短期間でそれらを試みることがあります)。

今回は、地裁判決(一審判決)の理由付け・考え方が誤っていてその結果量刑が不当に重くなっているということと、仮に一審判決の量刑が許容範囲だとしても一審判決後に被害回復・反省をさらに進めた・試みたという、大まかに言って2つの主張・立証をしました。

その結果、控訴審判決は、「弁護人の論旨の1つめの方に理由がある」とのことで、一審判決を破棄し、懲役期間を減らしました。

「1項破棄」とは

控訴審(高等裁判所)が一審判決を破棄する理由は、刑事訴訟法という法律に定められています。

大きく分けると、 <1> 一審判決に法令違反・事実誤認・量刑不当があるようなとき、 <2> 一審判決後に量刑に影響を及ぼすような情状が生じたために一審判決を破棄しなければ明らかに正義に反するようになったとき です。

<1>は刑事訴訟法397条1項に、<2>は刑事訴訟法397条2項に定められています。そのため、裁判官、弁護士など法律関係者は、<1>のことを「1項破棄」、<2>のことを「2項破棄」と呼んで区別しています。

「1項破棄」は、シンプルに言えば、一審判決が誤っていた、ということですが、今回そういう判断になったわけです。

今回の裁判は認めている事件で争点は「量刑」(共犯者との役割・関係を含め)だけでしたし、地裁の裁判官は刑事事件における量刑判断のプロではあるのですが、誤りはありうるということでしょう。そのため、こうして是正を図る控訴審や、そこでの弁護活動にも意義があるものと思います。

先日ご紹介したように、民事の控訴審でも一審判決と逆の結論が出されることもあったりで、考え方・見方・注意の払い方、話の組み立て方、証拠による証明の仕方などによって、判断に大きく影響するものだなと思います。

養子縁組無効確認訴訟で逆転勝訴判決

今月は・・・

今月は、取り組んできた事件の判決言い渡しが立て続けにあり、そのうち2件で当方の主張をほぼ全面的に採用した判決をいただくことができました。

1件は人事事件(家事事件)の控訴審判決、もう1件は刑事事件の控訴審判決です。いずれも、名古屋高裁金沢支部の判決になります。

今回は、人事事件(家事事件)のほうをさしさわりのない範囲で紹介します。

事案の紹介

事案は、認知症高齢者を養親とし、血縁関係のない者を養子とする養子縁組の無効が争われたというものです。

なお、近年、認知症高齢者をめぐる事案は増えているようであり、平成に入っての判決例が多くみられます。たとえば、昨年創刊された『家庭の法と裁判』という雑誌(『家庭裁判月報』という有力雑誌を引き継ぐもの)の第1号には、「認知症の高齢者を養親とする養子縁組について、縁組当時、同人の意思能力又は縁組意思がなかったと認めることは困難であるなどとして、養子縁組無効確認請求を認容した原判決を取り消し、請求を棄却した事例」として、広島高裁平成25年5月9日判決が掲載されています。広島高裁のケースでは、1審広島家裁判決は養子縁組無効確認請求を認容したものの、2審広島高裁判決は1審判決を取り消して請求を棄却しました。

私が今回担当した事件は、おおよそ次のような判断になりました。

1審家裁判決は、養子縁組届の筆跡が養親(とされた者。以下同じ)本人のものであると認定したうえで、養親は親族と疎遠であったことなどから、「親族ではなく誰かを養子にしたい」と養親が考えたことは合理的だとしました。

2審高裁判決は、仮に養親が養子縁組届に署名押印したとしてもこれをもって直ちに縁組意思があったと推認することはできないと述べたうえ、養親と養子(とされた者。以下同じ)との間で親子関係を創設するための真摯な協議はなく、少なくとも養親において養子と親子関係を創設する意思があったとみるべき事情はないとしました。また、養子縁組届が提出された時点で養親が養子との間で人為的に親子関係を創設し、扶養、相続、祭祀継承等の法的効果を生じさせることを認識するに足りる判断能力を備えていたとはいえない、と判示しました。

感想

養子縁組無効の訴訟においては、たとえば「養親が実質的な縁組意思を有していたか」という点が争点となるのですが、特に認知症高齢者を養親とする場合、認知症の発症時期、縁組当時の医学的判断、介護認定、縁組届の署名の筆跡、養子との従前の人間関係、日常の言動、第三者への相談の有無、専門職(弁護士、司法書士など)の関与の有無など、さまざまな事情から総合判断されることになります。

この総合判断においては、裁判官によって重視するポイントが異なるため、同様の事案でも結論に差が出ることもあります。ただ、そうした差は、法的判断の部分よりは事実認定の部分で現れやすく、結論に合わない「事実」が認定されず無視されがちというのが私の実感です。

弁護士は、裁判所で法的な解釈を述べるというだけではなく、そもそも「何があったのか」ということを解き明かし、裁判所で主張立証するという役目を負います。「何があったのか」ということについての説得力が問われる場面が多いように感じています。

今回の件では、1審判決の判断のおかしさが浮き彫りになるよう、調査や分析を徹底的に行い、それを主張立証に反映させ、2審での逆転勝訴につなげることができました。

Yomiuri Online 大手小町「小町の法律相談」に新記事が掲載されました

このたび、読売新聞社のYomiuri Online 大手小町のコーナー「小町の法律相談」に、金沢法律事務所 弁護士山岸陽平 への取材に基づいた記事が掲載されました。

今回は、離婚関係の記事で、

Q.夫はテレビっ子でセックスレス、家から出ていってもらうには? というものです。

今回取り扱われているのは、持ち家に関して妻側の実質的持分が多いケースです。


Yomiuri Online 大手小町には、過去、以下の記事も掲載されていますので、ご関心に応じてご覧ください。

Q.離婚しても「夫」が「敷地内同居」…両親の土地を返して!

Q.母の死後「ひとりっ子」の私にきょうだいがいると発覚! 遺産はどうなるの?

金沢法律事務所 相談例 ~ 離婚 ~

金沢法律事務所には、離婚の法律相談が比較的多く寄せられます。
ご相談の例をひとつご紹介します(この事例は、弁護士山岸陽平の経験や一般的ケースを参考に再構成したものであり、特定の事案ではありません)。

双方の両親の間で離婚話がヒートアップしてしまっているケース、どう対処する?

相談者 = 20~30代女性

■ 私は、夫と結婚し、夫の家に入る形で、夫や夫の両親と同居していました。男の子も生まれ、順調だったのですが、夫の女性関係が発覚し、関係は一挙に悪くなり、とうとう私が息子を連れて実家に戻りました。
■ 実家に戻って、離婚をしたいという話を私の両親にしたところ、私の両親から夫の両親に伝えてくれるということになりました。ところが、私の両親が夫の両親に電話をしたら、夫の両親が「孫は跡継ぎだから返してくれ」と言い出したらしく、私の両親は怒り心頭になってしまいました。
■ それで、私自身で何とかしなければいけないと思い、夫にメールをしました。夫自身は、子どもの親権には興味はなく、離婚もしていい、と言っているのですが、夫の両親が子どもの親権は絶対に渡さないと言っているから今は無理だと言うのです。
■ 私の両親のほうは、夫から莫大な慰謝料をもらわないと気が済まない、と言い出していて、話をまとめるどころか、どんどん対立が深まっています。正直、私の手に負える状況ではなくなっていて困っています。

弁護士YYの見解

■ 当人同士で解決できないことを、ご親族が介入することで解決できるケースは少なくありません。ただ、ときには、双方のご親族の介入によっても問題が解決できず、むしろ解決が難しい状況に陥ることがあります。
■ そうしたとき、まずは弁護士に相談し、解決方法に関する法的アドバイスをもらうことが重要です。そのうえで、場合によっては、弁護士に依頼して、交渉や調停申立ての代理人になってもらうことが適切であることもあります。
■ 今回の相談のケースでは、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、弁護士とともに出席することで、「家と家の不毛な争い」から「当事者間の問題解決」に焦点を戻すことができそうです。
■ 弁護士に依頼することで、依頼する側が適切な法的見通しをもって動き、権利を実現できるという面もありますし、相手方も単なる感情論から脱することができるという面もあります。
■ 金沢法律事務所では、離婚問題の初回相談について、相談者から相談料をいただきません。弁護士に依頼するかどうかは、弁護士のアドバイスを参考に決めてください。もちろん、ご相談の際に依頼するかどうかを決めず、持ち帰ってじっくり考えてくださってかまいません。ご相談は、できるだけお早い段階でなさることをお勧めします。

判例変更か? 預貯金は遺産分割の対象になる?

相続・遺産分割に関して、非常に重要なニュースがあった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23HAW_T20C16A3CR8000/

預金の分割、大法廷が判断へ 遺産「対象外」見直しか
2016/3/23 21:15

預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかが争われた審判の許可抗告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。実務では当事者の合意があれば分割の対象とするケースが主流となっており、「対象外」としてきた判例が見直される可能性がある。弁論期日は未定。

大法廷に回付されたのは、死亡した男性の遺族が、男性名義の預金約3800万円について別の遺族が受けた生前贈与などと合わせて遺産分割するよう求めた審判。

最高裁は2004年の判決などで「預金は相続によって当然に分割されるため遺産分割の対象外」としており、一審・大阪家裁と二審・大阪高裁は判例にしたがって分割を認めなかった。

しかし、遺産分割前に遺族が法定相続分の預金の払い戻しを求めても、銀行は遺族全員の同意が無ければ応じないケースが多い。家裁の調停手続きでも遺族間の合意があれば預金を遺産分割の対象に含めており、判例と実務に差が生じている。

専門家からは「預金は不動産と違って分配しやすく、遺産分割の際に遺族間の調整手段として有効」との指摘もあり、法制審議会(法相の諮問機関)の専門部会は15年4月から、遺産分割で預金をどう扱うべきかについて議論を始めている。

 わかりやすい言葉で言うと、現在の最高裁判例では、

遺産の預貯金は、被相続人が死亡したときに自動的に各相続人に法定相続分で分割されるので、各相続人は、金融機関にある被相続人名義の預貯金のうちの法定相続分にあたる分を払い戻せる

のであり、

遺産分割の協議をする前でも、当然分割なので、払い戻し可能

ということである。(ただし、現在の判例でも、遺言があると話は別。)

 しかし、遺産のうちで預貯金だけは遺産分割をする前に当然に分割され、遺産分割の話し合いの対象から外れる、という結論には、違和感を持つ人も多いところである。それに、ニュース記事にもあるように、金融機関は、相続人全員の印鑑のある払戻請求書、遺産分割協議書、調停調書といったものがないと払い戻しに応じてくれないことが多い(訴訟をすれば結局払い戻されるが)。

 そこで、家庭裁判所での遺産分割調停でも、相続人全員の合意のもとに、預貯金を遺産分割の話し合いの対象にするという扱いを取るケースも多い。合意によって、法律の原則の適用を外すということがされているわけである。

 今回、最高裁が審理を大法廷に回付したことにより、最高裁がこれまでとは別の考え方を取る可能性が出てきた。遺産にはほぼ必ず預貯金が含まれているので、ほとんどすべての相続・遺産分割にかかわってくるルールについての変更がされる可能性があるということである。

 遺産分割調停においては、当然このあたりの判例を踏まえて対応しなければならないが、これからは判例変更の可能性も念頭に置きながらやっていかなければいけないと思われる。判例が変わったら、従来の判例の理論は一気に実務で使いづらくなってしまう。現在、世の中で争われている遺産分割事件にも影響がかなりありそうだ。

上脇元神戸市議の事件で大阪高裁が再審を認めた

私はこれまで上脇義生氏の事件のことや再審請求のことを知らなかったのですが、今般の報道で初めて知り、注目しておかなければならないことであるように思ったので、私なりにまとめておきます。


【概要(ニュースや上脇氏のサイトを読んでまとめたもの)】

上脇義生・元神戸市議は、知人の元風俗店経営者に脱税の指南をした疑いをかけられ、2008年に逮捕・起訴され、2010年6月に国税徴収法違反の罪で有罪(懲役1年6月、執行猶予3年)が確定していた。

上脇氏は、起訴後に市議を辞職したが、一貫して無実を主張していた。
元経営者の証言や元従業員の供述調書などを主な根拠にして有罪が認定されたものであった。
しかし、元経営者は、検察に誘導されて本当でない内容の調書作成に応じ、公判でも虚偽を述べたことについて、2013年夏の元経営者の執行猶予期間(5年)明け後に上脇氏に真相を告白した。
上脇氏は、2014年8月、元経営者や元従業員が詳細に真相を語った陳述書などをもとに、神戸地裁に再審を請求した。陳述書は、上脇氏に脱税の指南を受けたものではないことを述べ、なぜ上脇氏に指導を受けたかのような調書や証言になったのかについて理由を語るものであった。

神戸地裁は、2015年2月、証人尋問をすることもなく、再審請求を棄却した。それに対し、上脇氏は大阪高裁に即時抗告した。
大阪高裁は、2015年3月、元経営者に対する尋問を行うことに決めた。5月28日に行われた証人尋問では、元経営者が上脇氏の事件への無関与を具体的に述べた。7月には、上脇氏側と検察側の双方から大阪高裁に対して最終意見書が出し合われた。
そして、

2015年10月7日、大阪高裁(的場純男裁判長)は、「共謀の認定には合理的な疑いが残る」と述べ、神戸地裁の再審請求棄却決定を取り消し、再審開始を決定した。


【私の感想】

捜査機関の事件の見立てが外れるケースがあるのだ、そして、関係者(特に捜査機関)はそういう可能性をよく踏まえて取り組まなければ冤罪を招いてしまうのだ、ということを改めて実感する。

捜査機関は、強力な権限や駆使できる影響力を持っているので、調べようとすること・集めようとする証拠には非常に手が届きやすい。捜査機関は、そうして集めた客観的な証拠や動かしがたい証言をもとに、事件の筋を探し当て、刑事裁判で被告人を有罪にして適正な刑を与えるため、見定めた事件の筋に沿う証拠をさらに集めて固めていくという作業をする。

人間は、過去のある時点・ある地点に行って見たいものを直接見てくるわけにはいかないので、何があったかを考える作業は、必然的に推測によるところが出てくるものである。そのこと自体は能力に限りのある人間が社会を作っていくためには致し方ない。そうした過去の出来事についての推測をする際に誤りが入り込む可能性は低くはない。特に、少人数の人間の発言やそれを書き取ったというものによる場合には、大なり小なりの誤りは入り込む。実際のところ、裁判では、少々の誤りや曖昧さについては、ほとんど無視するようにして判断が下されることもある。過去のことを100%の精度で解明・表現することはできないので、ある程度割り切って結論を示しているようなところがある。

まず問題にすべきなのは、捜査機関の見立てについて、「筋を大きく読み違えていないか」ということ、それに「信用できない証拠が混ざっていないか」ということである。

上脇氏の件で、検察は、別の可能性はないのか、仮説に合致しない証拠がないのか、冷静・公平な目で検討しながら進めることができていただろうか? 真実の可能性がある反対説が浮上したとき(当事者や関係者の誰かが反対説に基づく検討を求めたときなど)に、それに目を向けない、検討しようともしない態度を取らなかっただろうか? 捜査機関が一旦固めようとした筋に固執し、それに反する証拠を排除したり、むしろ筋に合致する証拠を無理に作っていくということをしなかっただろうか?

いわゆる「共犯者供述(証言)」に基づいて有罪に持ち込もうとする場合、そうした無理が生じやすい。しかし、裁判所は被告人の主張の排斥するための論理をパターンごとに用意しているので、単に実際のストーリーを述べ、「彼(共犯者)には虚偽を述べる動機がある」とだけ主張したところで、あっさりと主張が排斥されてしまう。上脇氏の件でも、公判の際、上脇氏は無実の主張を貫き、「共犯者」の主張のおかしさや虚偽を述べる動機についてさんざん主張しただろう。それでも有罪になるということである。

そして、一旦確定した判決を覆すというのは非常にハードルが高い中、再審請求審の神戸地裁があっさりと請求を棄却し、辛うじて大阪高裁で救われたようなものが今回の結果である(ただ、検察が最高裁に特別抗告する可能性はある。)。

元経営者の陳述書(上脇氏サイト)を読むと、裁判所が元経営者の当初の法廷証言を信じた理由がどのようなものであったのか、また、実際は信じるべき証言でなかったことがわかる。


【司法取引の話】

今後、約2年以内には司法取引が導入されるけれども、弁護人が基本的には個々に勉強して取り組んでいくことになる中、捜査機関は一体になってリソースを活用して取り組むことが想定される。司法取引は、こうした経済事件で、はっきりとした証拠が残らない点について最も活用されるはずの制度であると思われる。見立てが間違っている可能性に目をつぶり、とにかく有罪という結論に持っていくためのツールとして司法取引が使われるならば、冤罪のおそれは高まってしまうだろう。

逮捕時の実名報道による名誉毀損

逮捕時に実名報道がなされ、逮捕・勾留後に不起訴処分となった件での判決

私は特段フォローしていたわけではないが、こうした訴訟があり、最近判決が出たということだ。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2015093000868
(時事通信)

毎日新聞に55万円賠償命令=不起訴男性の名誉毀損-東京地裁

愛知県警に偽造有印私文書行使容疑で逮捕され、不起訴処分となった東京都の介護士佃治彦さん(57)が、逮捕時の実名報道によってプライバシーを侵害されたなどとして、朝日、毎日、中日の新聞3社に計2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であった。阪本勝裁判長は毎日新聞に55万円の支払いを命じ、他2社への訴えは棄却した。
阪本裁判長は、3社の実名報道によるプライバシー侵害は認めなかった。一方で、毎日が逮捕容疑を「有印私文書偽造、同行使」と書いた点について「真実とは言えない」と指摘し、名誉毀損(きそん)に当たると認定した。
判決によると、佃さんは2010年2月、偽造された契約書を民事裁判で証拠として提出したとして逮捕されたが、一貫して容疑を否認。同年3月に不起訴処分となった。
毎日新聞社の話 判決内容を十分に検討の上、対応を決める。(2015/09/30-19:06)

http://www.sankei.com/affairs/news/150930/afr1509300029-n1.html
(共同通信の配信記事)

実名報道「意義大きい」 容疑誤報には賠償命じる

愛知県警に逮捕され不起訴となった佃治彦さん(57)が「実名報道で被害を受けた」などとして新聞3社に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は30日、「容疑者の氏名を公表する社会的意義は大きい」として、朝日新聞社と中日新聞社への請求を棄却した。逮捕容疑を誤って報道した毎日新聞社には、名誉を傷つけたとして55万円の支払いを命じた。
判決によると、佃さんは平成22年2月、偽造有印私文書行使容疑で逮捕されたことを3社に実名で報じられ、翌月不起訴処分となった。佃さんは、軽微な事件を実名報道する必要はないと主張したが、阪本勝裁判長は「容疑者を特定することで報道内容の真実性が担保され、捜査が適正か監視できる」と退けた。
判決後の記者会見で佃さんは控訴する方針を示した。毎日新聞は「判決を検討して対応を決めたい」、朝日新聞社広報部は「主張が認められた」、中日新聞は「妥当な判断だ」とのコメントをそれぞれ出した。

この件特有の事情もあるだろうが、それを捨象して一般論として考えると、有名でない市井の人がさほど社会的に緊急性・重大性のない事件で逮捕されたようなときに、すぐさま報道されてよいのか、という問題がありそうだ。

この問題に関しては、今回、朝日新聞社と中日新聞社への請求が棄却されたように、報道内容の真実性の担保、捜査の適正の監視、といったことを重視し、名誉毀損などの不法行為への該当を否定するのが現在の司法の主流的考え方だ。

報道内容に誤りがあった場合

しかし、今回、毎日新聞社への請求は一部認容された。それは、報じた被疑罪名に誤りがあったためであるようだ。
今回の間違い方のパターンだと、警察が誤った内容を報道機関に教えたというものではないし、誤りであることがはっきりしているので、毎日新聞社の記者が誤ったのだと判断しやすかったというところがあるだろう。
私の経験上、新聞報道に書かれていることが被疑事実や逮捕前後の経緯とは食い違っているということは、ときどきあることである。ただ、今回の毎日新聞のように「誤り」であることを認めないことができないようなケースばかりではない。警察が言っていることが事実を取り違えていたり、書き間違い・しゃべり間違いというようなことだったしたら、報道機関は「取材源が言っていたとおり書いただけだ」という反論をする可能性が高い。
どのような誤りがあったときに名誉棄損にあたるのか、また、報道機関側がどのような反論を提出可能なのかは、要検討だろう。

新聞かインターネットか

各地方で起きる刑事事件は、比較的幅広く地元紙に掲載されている。インターネットのニュースサイトに掲載されるのはそのごく一部だが、明確な選別基準があるわけではない。テレビのニュースになり、その原稿がインターネットに掲載されるという場合も多い。
新聞であれば、掲載された情報の伝播方法は、基本的に口コミである。しかし、インターネットの場合には、消さない限り発信し続けられていることになるし、コピーもしやすい。よって、報道による名誉棄損が認められるとして、地元紙の紙面だけなのか、全国紙なのか、インターネット上なのかというのは、相当重要な要素になってくるのではないだろうか。