婚姻費用・養育費のおさらい
今回は,全国の家庭裁判所で用いられている,婚姻費用と養育費の算定表についてご説明します。
まず,その前に,婚姻費用と養育費についておさらいします。
婚姻費用とは?
婚姻費用とは,結婚している夫婦について,対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。
婚姻費用の中には,子どもの養育にかかるお金も含まれるため,結婚している間は,通常,子どもにかかる費用も含めて,婚姻費用の問題として解決します。
別居をしている夫婦でも,離婚が決まるまでは,婚姻費用が発生します。
法律的には,「夫婦合わせてかかるお金をどう分担するのか?」という考え方をします。このことを,婚姻費用の分担といいます。
より詳しく知りたい方は,私が婚姻費用について解説したブログを見てください。
養育費とは?
養育費とは,未成年者の子どもを監護養育している親が,監護養育していない親に対し請求することができる,子どもの監護養育のための費用です。
上で書いたように,結婚中も当然子どもを育てなければいけませんが,結婚中は婚姻費用として問題が処理されます。よって,養育費(だけ)の問題として浮上するのは離婚後です。
裁判所では,養育費についても,婚姻費用と同じような考え方によって定められています。要するに,親同士の収入の差によって,養育費の額が大きく増減するというわけです。
この考え方をより詳しく知りたい方は,私が養育費について解説したブログを見てください。
養育費・婚姻費用算定表とは何か?
養育費・婚姻費用算定表はどこで見ることができるか
養育費・婚姻費用算定表とは,これまで養育費・婚姻費用について説明した考え方をもとに,夫婦(元夫婦)の年収を当てはめたときに,養育費・婚姻費用がおよそ何円になるか,見やすくした表です。
裁判所(東京家庭裁判所)のホームページにも掲載されています。左のリンクをクリックしていただくと,裁判所のページが表示され,実際に使われている養育費・婚姻費用算定表を見ることができます。
また,多くの法律事務所(弁護士の事務所)や各地の裁判所,法テラスなどにも,参照できるように置いてあることが多いです。
裁判所では算定表が重視されている
この算定表(及び算定表の元になる考え方)は,東京・大阪の裁判官が研究会を開いて作り上げたものであり,東京家裁・大阪家裁だけではなく,全国の家庭裁判所がこれを参考にしています。
養育費・婚姻費用が訴訟や家事審判で決まる場合には,裁判官や家事審判官がこの算定表に重きを置いて額を決定することが非常に多くなっています。
養育費・婚姻費用が家事調停で決まる場合にも,多くの弁護士や調停委員は,この算定表を参考にします。弁護士や調停委員には,この算定表に対して賛成意見と反対意見がありますが,裁判所が重視している算定表ですので,無視できないのが実情です。
なお,この算定表は,最大で子どもが3人のケースまでしか掲載されていませんが,子どもが4人以上いても,算定表の考え方を元に計算することが可能です。
算定表の額は絶対なのか?
よく,夫婦(元夫婦)の片方又は両方から,「自分たち夫婦(元夫婦)の場合,算定表のままではおかしいと思います。○○の事情があるからです。」といった意見が出ることがあります。
算定表は,あくまで統計を元に,標準的なケースで妥当する額を示していますので,そのような意見が出ることは当然だと思います。
しかし,裁判所の裁判官の多くは,この算定表は,「それぞれの夫婦には事情があり,完全に標準的なケースなどはない」という前提で,額の幅を持たせて作られているのだから,あまりに特別な事情がない限りは,額の幅のうちの最大限・最小限をとることで済む,と考えているように思います。これは,私が,何件も,養育費・婚姻費用の算定についての争いを扱った上で感じていることです。
一方の弁護士が増額方向での事情を挙げれば,もう一方の弁護士が減額方向での事情を挙げる……。そんなケースも多いなかで,裁判所は,基本的には算定表を基本に置きつつ,夫婦双方の事情を踏まえて額を決めていると思われます。
ですから,弁護士が付いたというだけで,大幅に額が増減するというものではありません。やはり,基本となるのは,夫婦(元夫婦)の収入額や夫婦ごとの事情です。しかし,養育費や婚姻費用の問題を抱えた方が裁判所や相手方に対し,適切なタイミングで適切な主張をするためには,養育費・婚姻費用について,裁判所の実務を理解している弁護士に依頼・相談するということは重要であるといえます。