養育費・婚姻費用「算定表」とは何か?

婚姻費用・養育費のおさらい

今回は,全国の家庭裁判所で用いられている,婚姻費用と養育費の算定表についてご説明します。

まず,その前に,婚姻費用と養育費についておさらいします。

婚姻費用とは?

婚姻費用とは,結婚している夫婦について,対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

婚姻費用の中には,子どもの養育にかかるお金も含まれるため,結婚している間は,通常,子どもにかかる費用も含めて,婚姻費用の問題として解決します

別居をしている夫婦でも,離婚が決まるまでは,婚姻費用が発生します

法律的には,「夫婦合わせてかかるお金をどう分担するのか?」という考え方をします。このことを,婚姻費用の分担といいます。

より詳しく知りたい方は,私が婚姻費用について解説したブログを見てください。

養育費とは?

養育費とは,未成年者の子どもを監護養育している親が,監護養育していない親に対し請求することができる,子どもの監護養育のための費用です。

上で書いたように,結婚中も当然子どもを育てなければいけませんが,結婚中は婚姻費用として問題が処理されます。よって,養育費(だけ)の問題として浮上するのは離婚後です

裁判所では,養育費についても,婚姻費用と同じような考え方によって定められています。要するに,親同士の収入の差によって,養育費の額が大きく増減するというわけです

この考え方をより詳しく知りたい方は,私が養育費について解説したブログを見てください。

養育費・婚姻費用算定表とは何か?

養育費・婚姻費用算定表はどこで見ることができるか

養育費・婚姻費用算定表とは,これまで養育費・婚姻費用について説明した考え方をもとに,夫婦(元夫婦)の年収を当てはめたときに,養育費・婚姻費用がおよそ何円になるか,見やすくした表です。

裁判所(東京家庭裁判所)のホームページにも掲載されています。左のリンクをクリックしていただくと,裁判所のページが表示され,実際に使われている養育費・婚姻費用算定表を見ることができます

また,多くの法律事務所(弁護士の事務所)や各地の裁判所,法テラスなどにも,参照できるように置いてあることが多いです。

裁判所では算定表が重視されている

この算定表(及び算定表の元になる考え方)は,東京・大阪の裁判官が研究会を開いて作り上げたものであり,東京家裁・大阪家裁だけではなく,全国の家庭裁判所がこれを参考にしています

養育費・婚姻費用が訴訟や家事審判で決まる場合には,裁判官や家事審判官がこの算定表に重きを置いて額を決定することが非常に多くなっています

養育費・婚姻費用が家事調停で決まる場合にも,多くの弁護士や調停委員は,この算定表を参考にします。弁護士や調停委員には,この算定表に対して賛成意見と反対意見がありますが,裁判所が重視している算定表ですので,無視できないのが実情です。

なお,この算定表は,最大で子どもが3人のケースまでしか掲載されていませんが,子どもが4人以上いても,算定表の考え方を元に計算することが可能です。

算定表の額は絶対なのか?

よく,夫婦(元夫婦)の片方又は両方から,「自分たち夫婦(元夫婦)の場合,算定表のままではおかしいと思います。○○の事情があるからです。」といった意見が出ることがあります。

算定表は,あくまで統計を元に,標準的なケースで妥当する額を示していますので,そのような意見が出ることは当然だと思います。

しかし,裁判所の裁判官の多くは,この算定表は,「それぞれの夫婦には事情があり,完全に標準的なケースなどはない」という前提で,額の幅を持たせて作られているのだから,あまりに特別な事情がない限りは,額の幅のうちの最大限・最小限をとることで済む,と考えているように思います。これは,私が,何件も,養育費・婚姻費用の算定についての争いを扱った上で感じていることです。

一方の弁護士が増額方向での事情を挙げれば,もう一方の弁護士が減額方向での事情を挙げる……。そんなケースも多いなかで,裁判所は,基本的には算定表を基本に置きつつ,夫婦双方の事情を踏まえて額を決めていると思われます。

ですから,弁護士が付いたというだけで,大幅に額が増減するというものではありません。やはり,基本となるのは,夫婦(元夫婦)の収入額や夫婦ごとの事情です。しかし,養育費や婚姻費用の問題を抱えた方が裁判所や相手方に対し,適切なタイミングで適切な主張をするためには,養育費・婚姻費用について,裁判所の実務を理解している弁護士に依頼・相談するということは重要であるといえます。

特定秘密保護法は便利な捜査ツールか?

特定秘密保護法の成立

特定秘密保護法は、去る国会で成立した。

法案の国会提出後、マスコミも含め、反対論が膨らんだが、自民党・公明党の法案成立への意思は揺るがず、結局成立した。

ただ、成立以降も、法律の運用について懸念の声が少なくなく、まだマスコミの報道もやんでいない。

私の、特定秘密保護法への、もともとのスタンス

私は、特定秘密保護法の立法の目的については、否定しない。大雑把に言って、高度な外交秘密や安全保障上の秘密を他国に漏らさないための法制度は必要だと思う。

特に、現在、東アジア情勢は一筋縄ではいかない状況である。対中・対韓の関係については、表面的に友好化すればいいというものではなく、常に注意を払わなければならない。そのような中、情報漏洩を防ぐ手立てを講じる必要はある。

本来的には、国民は、安全保障に関しても、多様な情報を知った上で議論し、輿論を形成し、選挙権を行使すべきである。しかし、すべてガラス張りで議論することで、国民主権の足場が崩れることもある。そうであるならば、秘密とする情報の範囲はできるだけ抑制的であることが望ましいが、秘密を保護する法律を制定すること自体否定されるべきではない。

強く残る懸念(捜査機関にとって便利なツールであるといえること)

特定秘密保護法案に関する議論の当初、私は賛否を決めかねていたが、その理由としては、刑事罰に関する構成要件が曖昧であったり、刑事手続と「秘密」との関係がはっきりしない点があった。

日本の現実として、捜査機関が被疑者を逮捕・勾留すると、マスコミは疑いの内容を警察(検察)発表どおりに実名を付して報じ、それを受けて社会はおおむね被疑者を犯人視する。特に、捜査機関が力を入れている事件については、どのように報じられるかを意識して情報をリークすることで、輿論を味方につけ、捜査段階から被疑者に社会的制裁を与えようとする。

こういうことになっているから、捜査機関がある人物を立件したいというときに、いかなる理由をつけて(いかなる罪名を適用して)立件できるかが非常に重要なのである。今回の、特定秘密保護法(案)は、構成要件が曖昧であり、読み方にブレが生じるゆえに、捜査機関は法律を広く解釈して被疑者の逮捕・勾留を裁判所に請求し、裁判所もあっさりと認めるのではないかという懸念がある。

このあたりのことを漠然と考えていたが、落合洋司弁護士の稿(弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」 2013/12/02 国家機密と刑事訴訟 特定秘密保護法案の刑事手続上の論点)を読んで、「特定秘密保護法違反」の刑事事件を想定したときの問題点がさらにはっきりわかった。私が上に書いたように、「特定秘密保護法違反」として被疑者を逮捕・勾留することもありうるだろうし、大まかに「特定秘密保護法違反」の被疑事実があるからとマスコミその他の関係先を捜索するということも十分考えられる。そして、刑事手続が進む中でも、捜査機関側は、外形的に「特定秘密」にあたることに関わった何らかの証拠を裁判所に提出するかもしれないが、その提出証拠は、捜査機関に都合の悪い部分を隠したものであることもありうる(そのような操作が簡単にできるだろう)。

もちろん、私は、秘密漏洩を食い止めるため、罰するべき事案もあることは認める立場である。しかし、行政機関には、「行政側から睨まれてでもやる」という人物を排除したいという欲求があり、そうした人物の行為が公益に資するか否かは、当事者の行政では究極的判断ができないのでないかと思う。そういうとき、行政がそうした人物を邪魔だと思い、そうした人物が関わった情報が「特定秘密」に属するものであれば、「特定秘密保護法違反」として逮捕、ということにも直結しうる。このような場合、行為をした本人以外の者も共犯者(の疑いがある者)として逮捕されることもある。逮捕までいかずとも、非常なプレッシャーをかけられる。

郷原信郎弁護士も、次のように指摘し、この法律が誤った方向で用いられるおそれがあるとする(郷原信郎が斬る 2013/12/05「特定秘密保護法 刑事司法は濫用を抑制する機能を果たせるのか」)。

特定秘密保護法案に関して問題なのは、法案の中身自体というより、むしろ、現行の刑事司法の運用の下で、このような法律が成立し、誤った方向に濫用された場合に、司法の力でそれを抑制することが期待できないということである。

他方、長谷部恭男東京大学教授(憲法学)は、衆議院国家安全特別委員会で、参考人として話をしたが、このあたりの問題については、次のとおり述べている(引用元サイト)。

それから第四、それでもこの法案の罰則規定には当たらないはずの行為に関しましても、例えば捜査当局がこの法案の罰則規定違反の疑いで逮捕や捜索を行う危険性、それはあるのではないかと言われることがございます。我が国の刑事手法、ご案内の通り捜索や逮捕につきましては令状主義を取っておりまして、令状とるには罪を犯したと考えられる相当の理由ですとか、捜索の必要性、これを示す必要がございますので、そうした危険が早々あるとは私は考えておりませんが、もちろん中には大変な悪だくみをする捜査官がいて、悪知恵を働かせて逮捕や捜索をするという可能性はないとは言い切れません。

ただあの、そうした捜査官は、実はどんな法律であっても悪用するでございましょうから、そうした捜査官が出現する可能性が否定できないということは、正にこの法案を取り上げて批判する根拠にはやはりならないのではないかと。むしろそうした捜査官が仮に出現するのでありましたら、そうした人たちにいかに対処するのかと。その問題にむしろ注意を向けるべきではないかと考えております。

この長谷部教授の発言は、落合氏・郷原氏の議論に直接対応するものではない。長谷部教授の問題設定は「この法律が悪用されないか?」というものであり、巧妙に「活用」されるという問題についての議論ではないからだ。

ここで、長谷部教授は、こういうことを言っている。「逮捕」や「捜索」については令状主義をとっているから、必ず裁判官のチェックを受けるのである。罰則規定にあたらないはずの行為を取り上げて逮捕や捜索を受ける可能性は、他の法律による場合と同様、捜査官の個性の問題になる、と。

しかし、実際には、裁判官の令状審査が実質的に機能しているか疑問が大きい。令状主義をとっていることだけで、捜査機関がこの法律を巧妙に「活用」することは、防げないだろう。

以上から、私は、最終的に、特定秘密保護法案に反対する意見を持ったし、現在でも特定秘密保護法がどのように運用されていくか、強い懸念を持っている。実質的に、安全保障のためという目的をそこそこにして、捜査機関の便利ツールとして使われていく可能性があると思っている。

この法律の運用については、今後とも注目していきたい。

有罪に導く検察官の供述調書ライティング技術

八田隆氏のブログから

所得税法違反の罪に問われ東京地検特捜部により起訴された八田隆氏(元クレディ・スイス証券勤務)のブログに、検察官がどのように取り調べをし、供述調書の作成をしようとしたか、書かれています。

検察特捜部の取調べが始まる前に、主任弁護人の小松正和弁護士に説明されたのは、調書における符牒でした。通常、調書は一人称で書かれます。第三者の検察官が作成しながら、文章は「私は」で始まる文体になっています。しかし、検察官が「この被疑者は嘘をついているな」と思われる部分は問答形式になります。

一人称の文章の中に突然、
検察官「~ではないのですか」
被疑者「いえ、それは~です」
という問答形式の会話が挿入されます。これが検察官による符牒です。

私はそれを聞いていたため、案の定、検察官がそのような問答形式の文章をはさんで検面調書を作成し始めた時に、徹底的に抵抗しました。

かなりの長時間、検面調書の様式に関し怒鳴り合いが続き、その中では「どうして我々が怪しいと思っていることを裁判官に伝えることがいけないんだ!」という検察官の言葉もありました。

結局、根負けした検察官の選択は、裁判官も見たことがないであろう、全て問答形式の調書でした。小松弁護士の事前の情報インプットがなければ、そうした調書は生まれなかったものです。

#検察なう (352) 「起訴前弁護の重要性」 12/5/2013

問答形式は常套手段

八田氏の場合

このように、東京地検特捜部の検事は、八田氏の供述調書に問答形式を入れ込もうとしたようです。

このやり方が特捜部独特のものかというと、決してそんなことはありません。

各都道府県にある検察庁(地検)の検事は、同じように問答形式の調書を作ることがありますし、各都道府県の警察官も問答形式の調書を作ることがあります。

八田氏の調書は、弁護人のアドバイスを受けて捜査に対応した結果、すべて問答形式で統一されているという、かなり珍しい調書になったようですが、本来検察官や警察官が目指す調書はそのようなものではありません。八田氏は、弁護人の好プレイにより、致命的な供述調書をとられることを防いだといえます。

供述調書の役割

検察官(警察官にも同じことが言えますが、以下では「検察官」と書きます)は、検察官自身の書面として「供述調書(供述録取書ともいいます)」を作成します。供述調書は、検察官が自分の名前で作る書面。まずは、これが重要ですから、押さえておいて下さい。

通常、被疑者(被告人)が犯行を認めているようなときには、被疑者が話したことを検察官が再構成して、あたかも被疑者が一本のストーリーをすらすらと語っているようにして、検察官が調書を書きます(これを「物語形式」といいます)。そして、内容を被疑者に読み聞かせ、そのように供述したことで間違いないということを確認させた上で、被疑者に署名・押印(指印)してもらい、最後に検察官が署名押印して一丁上がりです。

大雑把に言えば、こうやってできあがった調書は、被疑者(被告人)が裁判所において自分の口で話すことと同じくらい、いや、それ以上に重視される傾向にあります。

検察官が再構成していることもあり、検察官が裁判所に提出する他の証拠(関係者や被害者の証言等や物証等)と一致し、論理的で筋が通っていて、読みやすいものになっているのです。

被疑者(被告人)が検察の見立てに乗らない場合

被疑者(被告人)が否認しているときには、検察官は、できるだけ有罪にもちこめるような証拠を作るため、供述調書を一工夫します。

まず、争っていない部分については、通常通り「物語形式」で調書を作成します。他の部分では文句があるかもしれないけど、ここは文句がないだろう、というわけです。

そして、争っている部分については、「問答形式」を使います。八田氏がブログで書いている形式です。

たとえば、

検察官「あなたは、そのとき、○○にいたのか。」

被疑者「そのときそこにはいませんでした。そこには行った記憶がありません。」

検察官「では、あなたの指紋と酷似した指紋が○○の食器から見つかったのは、なぜか。」

被疑者「私にはわかりません。」

というような感じです。

怪しいのに認めていない、これだけ不利な証拠があるのによくわからない弁解をしている、ということを読み手(裁判官)に印象づける手段です。

検察官は、この「問答形式」の部分について、被疑者が難色を示すと、たとえば、「あなたが答えたとおり書いているではないか、しゃべったことと書かれていることが違っているというなら、言うとおり直すから、指摘しろ」というようなことを言います。そして、この問答も含めて、被疑者が語ったこととして、調書を作ろうとします。

「部分的な問答形式」の落とし穴

そうやって、被疑者は、一応は自分の言い分も書いてもらったから、ちょっと不本意だけれども署名・押印するしかないか、ということで、応じがちです。

しかし、特に複雑な事件の場合によく言えることですが、検察官が被疑者に見せていない証拠の中に被疑者の弁解と一見矛盾するものがあったり、他の調書でサラッと書かれていることが被疑者の弁解と矛盾するようになっていたりすることがあります。

また、はっきり矛盾していなくても、いかにも怪しい点として、「問答形式」の部分が浮かび上がるようになっており、裁判になってからその部分だけ争っても、その調書をもとに、全体的に検察官のストーリーに信用性が認められる、という効果をもたらしがちです。

このほかにもいろいろある

検察官は、裁判官に有罪判決を書かせる、すなわち被疑者・被告人を有罪に導く技術をこのほかにもたくさん持っています。

たとえば、一旦できあがった調書を読み聞かせたときに、被疑者が「内容があまりにおかしい、直してくれ」と申し出たとします。検察官は、被疑者が指摘した点について調書を書き足して訂正します。しかし、検察官は、それに応じた上で、裁判になったときに、その調書の他の部分について被疑者・被告人が争うと、「訂正してほしい、という部分は訂正したのだから、その他の部分は間違いないとはっきり認めた、ということだ」と主張することがあります。

被疑者としては、元の調書よりはマシになったと思って署名押印したつもりでも、裁判になると、それを逆手に取られる、ということです。

こういうやり方は、必要な手段という側面もあるのでしょう。しかし、検察官にいろいろな手法を駆使された結果、本来は有罪といえるか非常に微妙であるのに、巧妙・強引に有罪に持ち込まれたというケースもあるように思います。

特に、八田氏の場合には、逮捕されずに在宅起訴でしたが、逮捕勾留されている中で取り調べを受ける心理は、相当厳しいものがあります。初めて逮捕されるような人が、そのような状況で、警察官・検察官の取り調べに1人で対応できるわけがないと思います。

弁護士は、検察官と違い、基本的には個々で活動しているので、いろいろな事件における経験をまるっと共有するわけにはいきません。ただ、その分、自分の経験から推し量って考えたり、他の弁護士の経験を知る機会があればどんどんと学び取っていかなければならないと思います。

養育費とは何か?

養育費とは

婚姻費用に引き続き,養育費についてです。

未成年者の子どもを監護養育していない親は,監護養育している親に対し,子どもの監護養育のための費用(養育費)を分担する義務があります(民法766条3項)。

養育費の支払いが問題になるのは,主に離婚後です。

婚姻中に別居しているときにも理論上は養育費を請求できますが,婚姻中の婚姻費用には配偶者の生活費と子どもの養育費の両方が含まれているので,まだ結婚している状態のときは,ふつうは婚姻費用という名目で請求します。

婚姻費用と同じく,養育費についても,「生活保持義務」(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)の考え方があてはまりますので,配偶者が特段困窮していないような状況でも,同程度の生活になるように支払わなければならないのです。

逆に言えば,法律的な考え方からすれば,子どもを監護しない親が,子どもを監護する親に対して,子どもを監護するための費用の全額を支払わなければならない,ということもありません。あくまで,子どもを監護する親と子どもを監護しない親の負担の調整をするものだということです。

養育費はいつまで支払うべきなのか?

裁判所の原則論・一般論としては,成人(現在は20歳)に達した者は自分で生計を立てるのが原則であり,子どもが成人に達した後は,「生活保持義務」の考え方に基づく扶養義務はなくなります。

しかし,現実的には,子どもが大学などに通えば,卒業するまでは自分で生計を立てることが困難であるのが通常です。

そういうことが見込まれる場合には,調停などの話し合いで,双方合意のもと,「22歳まで」などと定めることがあります。ただ,双方が合意しない場合には,裁判官(家事審判官)が審判で決めることになります。そうなると,原則論で,「成人まで」と決める裁判官も多いと思われます。

公的扶助(児童手当や児童扶養手当など)との関係

子どもを監護養育する親が,児童手当(旧名:子ども手当)や児童扶養手当(通称:母子手当)を受給している場合,相手親の感情論としては,養育費として決まった額から手当分を差し引かせてほしい,ということになりやすいですが,法律的にはそのようなことはできませんし,「手当をもらっているから養育費を減額してほしい」と養育費の決め直しを申し立てても,それを理由としては減額にならないと思われます。

ただし,養育費をもらっているのに,もらっていないと申告して行政から手当を受け取るのは,違法です。

家庭裁判所における養育費の算定方法

家庭裁判所においては,養育費についても,計算式を用意しています。計算式の考え方は,次のとおりです。

  1. 子どもが,実際とは違い,養育費支払義務親のほうと同居していると仮定して,義務親と同等の生活をするために生活費がいくらかかるか算定する
  2. 1」で算出された子どもの生活費を,双方の収入に応じて按分する

婚姻費用と同じく,ここでいう「収入」とは,税込収入から「公租公課(税金などのことです)」・「職業費(仕事用の被服費・交通費などです)」・「特別経費(住居関係費・保健医療費などです)」を控除した金額のことをいい,これを「基礎収入」と呼びます。この基礎収入について,裁判所は,個別事情に応じて計算するわけではなく,統計データから推計して,給与所得者の場合は総収入の約34~42%を基礎収入であると考え,自営業者の場合は総収入の約47~52%を基礎収入であると考えています。

また,婚姻費用と同じく,裁判所で使っている計算式では,夫と妻は生活費の指数が10015歳~19歳の子は生活費の指数が90(成人の90%)。0~14歳の子は生活費の指数が55(成人の55%)。この割合の生活費で,同等の生活といえると考えて計算しています。

計算式は絶対なのか?

婚姻費用と同じように,計算式で機械的に決められることに納得がいかない,実際はこうではない,と思われる方も多いのではないかと思います。

裁判所外で約束する場合には,計算式や算定表を絶対視しなくてもよいでしょう。また,裁判所でも,調停であれば,双方合意のもと,計算式や算定表を離れた金額設定をすることも可能です。

しかし,一方は「算定表のとおりの額であるべきだ」,もう一方は「算定表の額は高すぎる(または安すぎる)」と主張し続けるなどして,話が決着しないときには,家庭裁判所の裁判官(家事審判官)が審判で決めることになります。

そうなったときの多くの裁判官の考え方としては,「事案ごとにバリエーションがあることを前提に計算式・算定表は作られているのであり,計算式・算定表の考え方が通用しないような特段の事情がなければ,計算式・算定表によって算出された範囲内で決めよう」というものだろうと,私は思っています。

刑事事件(逮捕時点)の報道・ニュースについて

石川県で弁護士をしていると・・・

石川県で弁護士として活動し、そのなかで刑事弁護をしていると、自分の扱っている事件の被疑者(マスコミ用語では容疑者)・被告人(マスコミ用語では被告)について、地元マスコミがニュース報道するということが頻繁にあります。

いや、正確に言えば、自分の扱っている事件が報道されるというよりは、報道された事件を担当することになる場合が多いです。

報道されるタイミングというのは、一律ではありませんが、多くの場合、逮捕の翌日に、「○○署は、~~の容疑で、○○○○容疑者を逮捕した。○○容疑者は、容疑を認めている。」というような形で実名報道されます。

石川県の場合、ごく軽微な事案でも「逮捕」ということになれば、各警察署の幹部が各マスコミに対し、被逮捕者の住所・氏名・年齢・職業等を発表し、被疑罪名や事案の概要、否認か自白か、といったことも伝達します。

各マスコミは、ほとんどの場合、この警察発表を元に報道をするわけです。特に、地元紙である北國新聞と北陸中日新聞は、逮捕の被疑事実がごく軽微な事案だからといって、ふるい落としたり匿名にしたりすることもなく、ほぼ自動的に警察発表どおり掲載する傾向にあります。中には、紙面編集の都合なのか、警察発表されないケースもあるのか、逮捕されていても載らないものもありますが…。基準ははっきりしませんし、逮捕直後に載らなくても後日載ることがあります。

一般論として、刑事事件報道について

一般論として、まだ有罪と決まったわけではない人の実名を報道することにどんな意味があるのでしょうか?

まず、指摘されるべきは、報道された人は、自白・否認にかかわらず、記事の読み手の大半から犯人視されてしまうということです。ローカル紙のように、特定地域の住民の多くが読んでいる媒体に掲載されると、報道された人は行く先々で「犯人」として見られてしまうことになり、非常にダメージが大きいのです。

その一方で、逮捕しても警察が発表しない、マスコミも報道しないという状態になると、一般市民によるチェック機能が働きにくくなる、という側面もあります。確かに、警察が発表もせず、マスコミが情報を取得できないということになると、警察が逮捕すべきではない人を逮捕しても一般市民はそれを全然知らない、ということになってしまうかもしれません。

また、率直に言って、誰がどういった疑いで逮捕されたのかは、周辺住民が身を守るために必要な情報だ、という意見もありうるでしょう。

そのあたりは、結局はバランスの問題であると思います。どのような報道の仕方が適切か、いろいろと意見がありうるところでしょう。

しかし、刑事弁護もする弁護士の立場で、重ねて指摘したいのは、事案によっては、報道された人が受ける不利益(社会生活を取り戻すことの困難)が大きくなりすぎることがあるということです。

インターネットの問題

近年は、インターネットが一般化したので、昔と比べると状況が変化してきたものと思われます(といっても、私はインターネット時代以降の弁護士ですが)。

まず、インターネットに情報が掲載されればどこに住んでいても情報にアクセスできるということがあります。非常にローカルな、小さい事件でも、ニュースサイトに載れば、見つけて読む人は必ずいます(私などでも、遠い地方の新聞サイトや放送局のサイトをチェックすることがしばしばあるくらいなので、地元民ならさらに頻繁にチェックするでしょう)。

次に、インターネットに掲載されている情報は、サーバーから除去しない限り、常に”そこ”にある、ということを特筆すべきです。そうなっていると、検索でヒットすることにより、常に瞬時にアクセスできます。これは、通常、数日経てば古新聞として処分される新聞とは大きく違います。

さらに、物珍しい事件などは、全国ニュースで取り上げられるなどし、2chなどの掲示板にその事件を題材にした書き込みが相当なされることもあります。そこから、まとめサイトに転載されたり、ウェブ魚拓を取られるなどして、情報が氾濫状態になることがあります。

マスコミは影響力を自覚して・・・

各都道府県の地元マスコミの報道の仕方について、私は網羅的に知っているわけではありませんが、どうしても都市部のマスコミは、逮捕案件を全部掲載することには無理がありますので、何らかの基準で絞りをかけていることになります。

逮捕されたということが新聞掲載されれば、それだけで社会復帰が相当険しくなるので、本来であれば、田舎のマスコミも、事案の軽重などで掲載を選択したり、場合によっては匿名にすべきではないかと思います。

また、重大でない、しかしちょっと変わった事件を面白半分でインターネットに掲載することは、報道された当人にはあまりにも過大な社会的制裁になりうることもあります。

罪を犯した人にとっては、刑罰を受けることにも比肩するダメージを、報道されることにより受ける場合も多いように感じられます。こういうこと(報道が与える影響の大きさ)を報道側も自覚することで、罪を犯した人の社会復帰の道筋づくりにも関心が出て、よりよき社会づくりにもつながっていく、そんな気がします。

婚姻費用とは何か?

はじめに

最終的に,「養育費・婚姻費用算定表とは何か?」という話がしたいのですが,その前に「養育費・婚姻費用とは何か?」を押さえておく必要があります

そのうち,今回は,婚姻費用についてお話しします

婚姻費用とは

「婚姻費用」とは,夫婦の社会的地位や身分等に応じた夫婦対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

対等,ということで,家計が別管理になっていれば当然収入によって差が付きますから,「分担」して調整しなければならないことになります。

では,どうやって分担するか。

ここで出てくる考え方が「生活保持義務」です。

「生活保持義務」とは,自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務,です。

要するに,「生活の保持」という観点では,配偶者に対しても自分と同程度の生活をさせる責任があるということです。

注意すべきなのは,これは,別居中でも妥当するということです。

・・・まぁ,弁護士が入って配偶者に請求する場合は,ほとんどが別居中の場合ですね。

また,どちらが子どもを監護(要するに,同居して世話)しているか,ということも踏まえて算定されます(その意味では,婚姻関係が続いているうちは,子育てにかかる費用も,婚姻費用の分担の内の問題です)。

婚姻費用の分担額算定の考え方

婚姻費用の分担額とは,収入の多い配偶者から収入の少ない配偶者に支払われる金銭のことです。

ここで,収入の多い配偶者を義務者(分担金を支払う義務がある者であるので)とよび,収入の少ない配偶者を権利者(分担金を受け取る権利がある者であるので)とよびます。

この金額をどう算定するかについては,いろいろな考え方がありうるところでしょう。

実務の考え方(別居中の夫婦の場合)では,夫婦双方の収入を合算し,夫婦の収入の合計を世帯収入とみなし,別居中の夫婦どちらが何歳の子どもを何人監護しているかによって,世帯収入の分け方がほぼ自動的に決まってくるその結果,義務者が権利者に支払うべき金額が算出される,というようになっています。

裁判所で使っている計算式では,ここでいう「収入」とは,税込収入から「公租公課(税金などのことです)」・「職業費(仕事用の被服費・交通費などです)」・「特別経費(住居関係費・保健医療費などです)」を控除した金額のことをいい,これを「基礎収入」と呼んでいます。

この基礎収入についても,裁判所は,通常の場合は,個別事情に応じて計算するわけではなく,統計上,給与所得者の場合は総収入の約34~42%が基礎収入になることが多く,自営業者の場合は総収入の約47~52%が基礎収入になることが多いとされていることから,この推計値を使っています。

そして,裁判所で使っている計算式では,夫と妻は生活費の指数が10015歳~19歳の子は生活費の指数が90(成人の90%)0~14歳の子は生活費の指数が55(成人の55%)。この数字で計算されます。

計算式は「絶対」なのか?

推計で公租公課・職業費・特別経費を控除したり,子育てにかかる費用を数値化したりしているけれども,実際自分たち夫婦の場合には特別な事情があるのに,それが考慮されないの? という疑問は当然出てくるところでしょう。

このことについて詳しくは算定表についてのお話のなかで書きたいと思いますが,一言だけ書いておくとすれば,「あくまで標準的な婚姻費用を簡易迅速に算出するために計算式や算定表を用意した」と裁判所は言うけれども,やはり計算式や算定表で出た結果を裁判所は重視していて,各夫婦の個別的な事情を考慮して計算式や算定表から大幅に外れた額を裁判所が決めることはあまり(ほとんど)ない,ということです。

ですから,弁護士としても,計算式・算定表への賛否は分かれても,計算式・算定表を無視するようなことはできないのです。

生命保険金請求権と相続の関係

まず,注意ですが,以下の議論は民法上のものであり,税法上の「相続財産」・「みなし相続財産」の考え方とは異なります。要するに,相続税を申告するときの考え方と,遺産分割をするときの考え方は異なるということです。

1 保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし,相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合

→ 指定された者は,固有の権利として保険金請求権を取得するので,遺産分割の対象とならない

 2 保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし,保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し,被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合

→ 保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に相続人(ら)の固有資産となり,被保険者(兼保険契約者)の遺産から離脱する。死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は,法定相続分の割合による請求権を各相続人が取得する。そのように被相続人が意思表示していたものと考えるということである。

3 受取人指定がない場合

→ 保険約款と法律(保険法等)により判断。たとえば約款に「被保険者の相続人に支払う」との条項があれば,保険契約者(被相続人)が保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同様に考える。よって,遺産分割の対象とはならない

4 保険契約者が被保険者及び保険金受取人の資格を兼ねる場合

→ 満期保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に被相続人自身の財産となるから,満期後被相続人が死亡した場合は,遺産分割の対象となる保険事故による保険金請求権については,相続人を受取人と指定する黙示の意思表示があると解釈し,被相続人死亡の場合には保険金請求権は相続人の固有財産となる。   このように,多くの場合,保険金請求権は,相続人の固有資産となり,遺産分割の対象とはなりませんが,保険金の額や保険契約の経緯等によっては,「特別受益」として「持戻し」の対象となる場合があります。

相続人は単独で被相続人の預金を払い戻せるか?

★注意★ 以下の記述は、現在の実務では妥当しないおそれがあります。

詳しくは、重大な判例変更! 預貯金も遺産分割の対象になります!

 

人が亡くなると,金融機関は,亡くなった人の預貯金を自由に引き出せないようにすることがあります(むしろそれがほとんどです)。

亡くなったことを知っていて,自由に引き出せる状態にしておくと,金融機関の責任問題になるためです(この点を詳しく説明します。民法478条は「債権の準占有者に対する弁済」についての規定になっています。債権者の外観を有する者(債権の準占有者といいます)に対し善意・無過失で弁済を行った場合には,その弁済は有効になり,債権は消滅する,という規定です。ある人が亡くなったことを知っているにもかかわらず,金融機関がその人の口座からお金を自由に引き出せる状態のまま放置しておくと,金融機関は「無過失」で払戻し(弁済)したといいにくくなり,弁済としては無効になるおそれが強いのです。)。

こうして,人が亡くなると,たいてい,その人の預貯金が引き出せなくなります

亡くなった人のことを「被相続人」と言います。相続”される人”という意味です。これに対して,相続”する”人を「相続人」と言います。

相続人が複数いて,その相続人たちの間で話がまとまっている場合には,相続人たちは,被相続人の預貯金を引き出すために,遺産分割協議書を作成したり,金融機関所定の書面に署名押印したりして,預貯金を払い戻して,配分します。これは,モメていない一般的な場合です。

しかし,素直にまとまらないケースもありますね。相続人たちの間で話がまとまらないときは,どうなるのでしょうか? 遺産分割の決着がつくまで,預貯金は凍結されたままなのでしょうか? また,個別に払戻しを受けられるとしたら,どの範囲で払い戻してもらえるのでしょうか?

この問題については,最重要の判例が存在します。

相続人が数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは,その債権は法律上当然分割され,各共同相続人が,その相続分に応じて権利を承継する」(最高裁昭和29年4月8日判決,民集8・4・819)という内容の判例です。

ここで注意すべきは,預金債権も可分債権であるということです。ですから,被相続人が現金や預金を残して死亡した場合には,相続人たちは,それぞれ,その法定相続分に応じて,権利を承継するのです。

預金の権利というのは,法律的に表現すると,「金融機関に対して,預けたお金を返してください」と言える権利です。

この権利を,各相続人が,自分の法定相続分の割合で取得するのです。

よって,金融機関は,被相続人が遺言をのこしていない場合,法定相続分の範囲で払戻しに応じなければならないのです

 

特別受益(被相続人の生存中に財産分け等で不動産やまとまった額の金額の贈与を受けた相続人がいる場合;民法903条)や寄与分(被相続人の生存中にその財産の形成,維持,増加について特別に貢献(寄与)した相続人がいる場合;民法904条の2)があるケースだとどうなるでしょうか?

これについては,次のように扱われます。→ 特別受益や寄与分は,遺産分割手続において具体的相続分を決定する際に勘案されるものにすぎないのであり,預金債権の法定相続分に応じた承継には影響を及ぼすものではない すなわち 特別受益や寄与分と関係なく各相続人は金融機関に預金の払戻しを請求できる のです。

ただし,金融機関は,実務上,トラブル防止のため,任意には払戻しに応じないことがあります。金融機関は,相続でモメているときに,どちらか一方の肩を持っているように見られたくないのです。しかし,結局,遺産分割の審判(家庭裁判所)において,特別受益や寄与分が認められたとしても,最終的に各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関から受けられることには変わりないのです。

・・・ただ,一般的な感覚では,預金についても,遺産分割協議や遺産分割調停で,どう分けるか話し合おう,というのが穏当かなと思います。一般的には,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる!」と正面切って言う人は少ないです。ですから,一般的にはこういうことが意識されないままでなんとなく済まされていますが,法律や判例に従えば,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる(法律的な言い方をすれば,当然に分割される)」ということなのです。

弁護士がついて,任意協議,調停をする場合でも,多くは,話し合いでまとまります。そうすると,ここまでギリギリの争いにはなりません。しかし,話し合いでどうしてもまとまらない場合,審判により裁判所に決してもらおうとすると,この問題に直面するのです。

仮に,被相続人の遺産のほとんどが預貯金であったとしたら,どうなるでしょうか?

遺産分割の審判で,「あの人はあれだけの生前贈与を受けている!(特別受益)」とか「私は被相続人の財産増加にこれだけ寄与した!(寄与分)」という主張をしても,預金は,遺産分割審判の対象外で,その主張とは関係なく,各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関に請求できるということになるのです。