金沢法律事務所 相談例 ~ 離婚 ~

金沢法律事務所には、離婚の法律相談が比較的多く寄せられます。
ご相談の例をひとつご紹介します(この事例は、弁護士山岸陽平の経験や一般的ケースを参考に再構成したものであり、特定の事案ではありません)。

双方の両親の間で離婚話がヒートアップしてしまっているケース、どう対処する?

相談者 = 20~30代女性

■ 私は、夫と結婚し、夫の家に入る形で、夫や夫の両親と同居していました。男の子も生まれ、順調だったのですが、夫の女性関係が発覚し、関係は一挙に悪くなり、とうとう私が息子を連れて実家に戻りました。
■ 実家に戻って、離婚をしたいという話を私の両親にしたところ、私の両親から夫の両親に伝えてくれるということになりました。ところが、私の両親が夫の両親に電話をしたら、夫の両親が「孫は跡継ぎだから返してくれ」と言い出したらしく、私の両親は怒り心頭になってしまいました。
■ それで、私自身で何とかしなければいけないと思い、夫にメールをしました。夫自身は、子どもの親権には興味はなく、離婚もしていい、と言っているのですが、夫の両親が子どもの親権は絶対に渡さないと言っているから今は無理だと言うのです。
■ 私の両親のほうは、夫から莫大な慰謝料をもらわないと気が済まない、と言い出していて、話をまとめるどころか、どんどん対立が深まっています。正直、私の手に負える状況ではなくなっていて困っています。

弁護士YYの見解

■ 当人同士で解決できないことを、ご親族が介入することで解決できるケースは少なくありません。ただ、ときには、双方のご親族の介入によっても問題が解決できず、むしろ解決が難しい状況に陥ることがあります。
■ そうしたとき、まずは弁護士に相談し、解決方法に関する法的アドバイスをもらうことが重要です。そのうえで、場合によっては、弁護士に依頼して、交渉や調停申立ての代理人になってもらうことが適切であることもあります。
■ 今回の相談のケースでは、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、弁護士とともに出席することで、「家と家の不毛な争い」から「当事者間の問題解決」に焦点を戻すことができそうです。
■ 弁護士に依頼することで、依頼する側が適切な法的見通しをもって動き、権利を実現できるという面もありますし、相手方も単なる感情論から脱することができるという面もあります。
■ 金沢法律事務所では、離婚問題の初回相談について、相談者から相談料をいただきません。弁護士に依頼するかどうかは、弁護士のアドバイスを参考に決めてください。もちろん、ご相談の際に依頼するかどうかを決めず、持ち帰ってじっくり考えてくださってかまいません。ご相談は、できるだけお早い段階でなさることをお勧めします。

雑記 「柿木畠水掛け神輿」

開業からしばらく経ち、やや落ち着いてきました。
ただ、事務所の整備とか物品の買い入れがようやく一段落したというようなところであり、未処理になっている「やりたいこと・考えたいこと」は多くあります。
ウェブ上の発信もその一つで、まだ思い描いていたところまでは来ていません。
もっと相談のしやすい環境づくりを実現するため、取り組みを進めようと思っています。

6月中旬以降、眼や目の周りの腫れ・かゆみ、鼻の奥の痛み、中耳炎、外耳炎、顎痛、頭痛、体のだるさなど、次々と出現しましたが、なんとか頑張って立ち直りつつあります。
特に5月・6月とにかくいろいろ同時並行で進めたのと、食生活がおろそかになっていたことが影響しているかなと思います。
私は、これまであまりお医者さんには行かないほうでした。自分で何とかできるのかなと思っていました。ただ、だんだんと自分でもわかってきたのですが、どうも、私が「つらい」と言い出しているときには、医学的にはけっこうひどい状態にまでなっている傾向があるようです。そういう状況になって、寝てしばらくしても治らずに我慢ができなくなってから対処をするというのは問題があるかなと思うようになってきました。

それで今回は、自分なりには「さすがにつらい」となってから早めに病院に行きましたが、それでもまだ人から見ると遅いようです。眼科も耳鼻科も、ひどさの山に達した後に行きましたので、遅いのだと思います。
自分がつらさを我慢していればいいというだけではなく、自分のパフォーマンスが十全に発揮できない他の方にご迷惑をおかけしてしまうとも思うので、今後さらに自分のメンテナンスに気を遣うようにしたいと思います。

今日は日曜ですが、事務所の整備などで事務所に来ています。
金沢法律事務所のある香林坊・広坂・柿木畠・片町付近は、土日祝にイベント・お祭りが多いです。
ですので、9階にある事務所からそれらを眺めることができます。

今日、2016年7月24日は、柿木畠で、「第10回 柿木畠水掛け神輿」が開催されていました。

事務所から見える風景
事務所から見える風景
2016年7月24日 柿木畠商店街のお祭り
2016年7月24日 柿木畠商店街のお祭り

百万石通り(香林坊交差点~広坂交差点)の側でのイベントが多くて、柿木畠を行列が通るのは珍しいです。柿木畠は、地名も街の雰囲気も趣があり、いくつもいい店がありますから、より存在感が高まるとよいですね。

おそらく規定があるのだと思うのですが、金沢法律事務所の近辺では、平日は、音を出すイベントは開催されないようです。ですので、街の中ですが、平日は相談も執務も、静かな環境の中でできています。
現在、基本的にはご相談は平日にしておりますが、将来的に土日祝のご相談をするとすればどのように環境を作っていくか、課題はあるかもしれません。

金沢法律事務所、はじまりました。

金沢法律事務所、はじまりました。

香林坊交差点の近くのビルにあります。

まだまだ慌ただしいですが、だんだんと情報発信をしていきたいと思います。

事務所のウェブページは、BengoKanazawa.jpですが、内容はまだ未整備です。これから頑張ります。

金沢法律事務所入口
金沢法律事務所入口
金沢法律事務所サイン
金沢法律事務所サイン

判例変更か? 預貯金は遺産分割の対象になる?

相続・遺産分割に関して、非常に重要なニュースがあった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23HAW_T20C16A3CR8000/

預金の分割、大法廷が判断へ 遺産「対象外」見直しか
2016/3/23 21:15

預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかが争われた審判の許可抗告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。実務では当事者の合意があれば分割の対象とするケースが主流となっており、「対象外」としてきた判例が見直される可能性がある。弁論期日は未定。

大法廷に回付されたのは、死亡した男性の遺族が、男性名義の預金約3800万円について別の遺族が受けた生前贈与などと合わせて遺産分割するよう求めた審判。

最高裁は2004年の判決などで「預金は相続によって当然に分割されるため遺産分割の対象外」としており、一審・大阪家裁と二審・大阪高裁は判例にしたがって分割を認めなかった。

しかし、遺産分割前に遺族が法定相続分の預金の払い戻しを求めても、銀行は遺族全員の同意が無ければ応じないケースが多い。家裁の調停手続きでも遺族間の合意があれば預金を遺産分割の対象に含めており、判例と実務に差が生じている。

専門家からは「預金は不動産と違って分配しやすく、遺産分割の際に遺族間の調整手段として有効」との指摘もあり、法制審議会(法相の諮問機関)の専門部会は15年4月から、遺産分割で預金をどう扱うべきかについて議論を始めている。

 わかりやすい言葉で言うと、現在の最高裁判例では、

遺産の預貯金は、被相続人が死亡したときに自動的に各相続人に法定相続分で分割されるので、各相続人は、金融機関にある被相続人名義の預貯金のうちの法定相続分にあたる分を払い戻せる

のであり、

遺産分割の協議をする前でも、当然分割なので、払い戻し可能

ということである。(ただし、現在の判例でも、遺言があると話は別。)

 しかし、遺産のうちで預貯金だけは遺産分割をする前に当然に分割され、遺産分割の話し合いの対象から外れる、という結論には、違和感を持つ人も多いところである。それに、ニュース記事にもあるように、金融機関は、相続人全員の印鑑のある払戻請求書、遺産分割協議書、調停調書といったものがないと払い戻しに応じてくれないことが多い(訴訟をすれば結局払い戻されるが)。

 そこで、家庭裁判所での遺産分割調停でも、相続人全員の合意のもとに、預貯金を遺産分割の話し合いの対象にするという扱いを取るケースも多い。合意によって、法律の原則の適用を外すということがされているわけである。

 今回、最高裁が審理を大法廷に回付したことにより、最高裁がこれまでとは別の考え方を取る可能性が出てきた。遺産にはほぼ必ず預貯金が含まれているので、ほとんどすべての相続・遺産分割にかかわってくるルールについての変更がされる可能性があるということである。

 遺産分割調停においては、当然このあたりの判例を踏まえて対応しなければならないが、これからは判例変更の可能性も念頭に置きながらやっていかなければいけないと思われる。判例が変わったら、従来の判例の理論は一気に実務で使いづらくなってしまう。現在、世の中で争われている遺産分割事件にも影響がかなりありそうだ。

近時の状況(今年は大きく変わります!)

更新ができていません。書きたいことはちょくちょく思い浮かんでいるのですが、こういうのは習慣と意欲ですね…。

以前シリーズ化しようと思ったものもそのままですね。特に、選挙制度(投票価値)については、弁護士になる前から私なりにいろいろ調べていて、私なりにアクションを起こしたい気持ちを持って今年を迎えたのですが、これは1人で片手間では簡単なことではないですね。諦めてはいませんが。
大まかに言うと、私は、国政選挙は極力投票価値を等しくすべきであり、最大格差を無理矢理縮めて急場をしのぐという現在のやり方は論外だと思っています。都道府県など地方公共団体ごとの権利を主張して投票価値の原則の修正を図る(挙げ句にはそのための憲法改正を主張する)のも違うと思います。ちなみに、選挙制度の改正の際には、人気取りのために定数削減を言う政治家が多いですし有権者が呼応しやすいのですが、定数削減の議論が延々となされているのもおかしくて、適正な人数や制度の議論であるべきです。

他には、相続・遺言について、現在どのような制度になっているかわかりやすくご紹介したうえで、現在国会や政党で議論されている法改正についてはしっかり追っていかなければいけないと思っています。ふつうに、まっとうに生きている人が、自分で何かを引き起こしたわけでもないのに遭遇してしまう法律問題ですが、知っているか知らないかで差がつくことも多いので。

今年は、私の執務態勢が大きく変わる予定です。
2016年4月~6月上旬は新態勢の諸準備や研修受講などがあるため、新しい案件・ご相談の受任が困難です。また、私は、5月・6月は事務所にいないことがかなり多いと思います。ご迷惑をお掛けします。ご依頼中の案件は責任を持って取り組みます。
6月半ばころには金沢でバリバリ復帰する予定ですし、皆さんに知ってもらいたいと思うので、ウェブ上でも新態勢を展開していきます。

北陸新幹線ルート問題について

北陸新幹線は、2015年3月に東京・金沢間が開業しましたが、今後、2022年度に福井県の敦賀まで開業するということです。
しかし、その先の大阪へのルートがまだ決まっていません。

もともとの北陸新幹線の計画(1973年)では福井県の小浜を通るとされていて、そこから京都府の亀岡を通り、新大阪まで行くというふうに考えられていました。
また、それとは別に、北陸から琵琶湖東岸を通って名古屋に行くという、北陸・中京新幹線計画というものもありました(これは立ち消えに)。

その北陸新幹線の計画に基づいて小浜を通るルートを「小浜ルート」とか「若狭ルート」といいます。

「小浜ルート」の主な難点は、建設費が高いこと、建設に時間がかかりやすいこと、京都市に駅を作れないこと、名古屋へのアクセスもよくないことなどです。

そこで、別の案として、琵琶湖の西岸を通って京都駅付近で東海道新幹線に接続する「湖西ルート」や滋賀県の琵琶湖東岸の米原駅で東海道新幹線に接続する「米原ルート」が提唱されているところです。

「湖西ルート」の主な難点は、建設費が安くはないこと、強風により運行に支障が生じやすいこと、京都での接続に難があること、名古屋へのアクセスがあまりよくないこと、滋賀県がJR湖西線の第三セクター化に難色を示すことなどです。

「米原ルート」の主な難点は、JR東海の運営する東海道新幹線への乗り入れが非常に困難であること(当初は米原での乗り換え等が発生しかねないこと)、大阪・京都への速達性がやや失われることなどです。

これらの案には一長一短あり、またそれぞれの短所がなかなか厄介な問題であるところ、いずれの案にも決まらないままになっています。

そこへ、今年8月になって、JR西日本が「小浜・京都ルート」を新たに検討し始めました。
想像ですが、JR西日本としては、東海道新幹線への乗り入れや接続ということはとにかく避けたいということなのでしょう。
そして、北陸の人々にとっては、京都駅へのアクセスというのがかなり大きな要素でしたので、その意味で従来の「小浜ルート」の難点がかなり解消される案になっています。
ただ、京都駅以南の路線整備にかなりのコストがかかる(従来の小浜ルート並みかそれ以上になる)上、路線が曲がるので時短効果が薄れるというところがあります。

運営主体となるJR西日本が持ち出してきた案であり、JR東海との調整を避けられる可能性があること、京都・大阪へのアクセス重視をする人たちの意向におおむね合致すること、関西自治体の利害にも合うことなどから、最有力に急浮上してきた案であるように思われました。

さらには、京都府選出の西田参院議員も、小浜・京都ルートを前提として、関空へのアクセスについてのさらなる構想を語るなど、かなり勢いがついてきた感があります。

石川県議会は、2015年の10月に、「米原ルート」に早期決定するよう国に求める決議をしたのですが、石川県民が大阪方面に行く場合に敦賀どまりになる期間を短くしたいというところからの発想のように思えます。これは近視眼的であるといえますし、JR西日本が小浜・京都ルートを提示した後でしたので、時期外れのナンセンスなものになってしまいました。
この石川県議会の決議では、米原ルートに特定しない案も少数会派から出されており、通常はそれを先に審議するルールになっているところ、多数会派はその審議をとばしてまでも「米原ルート」を決議してしまいました。

石川県が今後、「米原ルート」を実現したいのであれば、福井県・富山県と共同歩調を取り、JR西日本やJR東海を説得することが必要でしょうが、そのようなことはまずできないでしょう。

私としては、小浜・京都ルートは妥協案ではありますが、妙案という評価ができるように思います。政治的にも「地雷」をうまく回避できており、さらに関西の意欲を引き出すことの可能な案です。福井県はもちろん前向きでしょう。それに、富山県も、現在金沢乗り換えという不都合を味わっている中で、今後敦賀乗り換え→米原乗り換えということになるよりも、再び一本で京都や大阪へ行けるようになる希望を持ちたいと思うでしょう。そして、最もカギになるのは、先ほど述べたJR西日本の意向です。
よって、今後、小浜・京都ルートへの趨勢が強まっていくでしょう。
そのような中で、北陸各県は、これまでの持論を差し置いて、小浜・京都ルートを前提とした(またはそれを強く推進させるような)動きを取ることがよいのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

上脇元神戸市議の事件で大阪高裁が再審を認めた

私はこれまで上脇義生氏の事件のことや再審請求のことを知らなかったのですが、今般の報道で初めて知り、注目しておかなければならないことであるように思ったので、私なりにまとめておきます。


【概要(ニュースや上脇氏のサイトを読んでまとめたもの)】

上脇義生・元神戸市議は、知人の元風俗店経営者に脱税の指南をした疑いをかけられ、2008年に逮捕・起訴され、2010年6月に国税徴収法違反の罪で有罪(懲役1年6月、執行猶予3年)が確定していた。

上脇氏は、起訴後に市議を辞職したが、一貫して無実を主張していた。
元経営者の証言や元従業員の供述調書などを主な根拠にして有罪が認定されたものであった。
しかし、元経営者は、検察に誘導されて本当でない内容の調書作成に応じ、公判でも虚偽を述べたことについて、2013年夏の元経営者の執行猶予期間(5年)明け後に上脇氏に真相を告白した。
上脇氏は、2014年8月、元経営者や元従業員が詳細に真相を語った陳述書などをもとに、神戸地裁に再審を請求した。陳述書は、上脇氏に脱税の指南を受けたものではないことを述べ、なぜ上脇氏に指導を受けたかのような調書や証言になったのかについて理由を語るものであった。

神戸地裁は、2015年2月、証人尋問をすることもなく、再審請求を棄却した。それに対し、上脇氏は大阪高裁に即時抗告した。
大阪高裁は、2015年3月、元経営者に対する尋問を行うことに決めた。5月28日に行われた証人尋問では、元経営者が上脇氏の事件への無関与を具体的に述べた。7月には、上脇氏側と検察側の双方から大阪高裁に対して最終意見書が出し合われた。
そして、

2015年10月7日、大阪高裁(的場純男裁判長)は、「共謀の認定には合理的な疑いが残る」と述べ、神戸地裁の再審請求棄却決定を取り消し、再審開始を決定した。


【私の感想】

捜査機関の事件の見立てが外れるケースがあるのだ、そして、関係者(特に捜査機関)はそういう可能性をよく踏まえて取り組まなければ冤罪を招いてしまうのだ、ということを改めて実感する。

捜査機関は、強力な権限や駆使できる影響力を持っているので、調べようとすること・集めようとする証拠には非常に手が届きやすい。捜査機関は、そうして集めた客観的な証拠や動かしがたい証言をもとに、事件の筋を探し当て、刑事裁判で被告人を有罪にして適正な刑を与えるため、見定めた事件の筋に沿う証拠をさらに集めて固めていくという作業をする。

人間は、過去のある時点・ある地点に行って見たいものを直接見てくるわけにはいかないので、何があったかを考える作業は、必然的に推測によるところが出てくるものである。そのこと自体は能力に限りのある人間が社会を作っていくためには致し方ない。そうした過去の出来事についての推測をする際に誤りが入り込む可能性は低くはない。特に、少人数の人間の発言やそれを書き取ったというものによる場合には、大なり小なりの誤りは入り込む。実際のところ、裁判では、少々の誤りや曖昧さについては、ほとんど無視するようにして判断が下されることもある。過去のことを100%の精度で解明・表現することはできないので、ある程度割り切って結論を示しているようなところがある。

まず問題にすべきなのは、捜査機関の見立てについて、「筋を大きく読み違えていないか」ということ、それに「信用できない証拠が混ざっていないか」ということである。

上脇氏の件で、検察は、別の可能性はないのか、仮説に合致しない証拠がないのか、冷静・公平な目で検討しながら進めることができていただろうか? 真実の可能性がある反対説が浮上したとき(当事者や関係者の誰かが反対説に基づく検討を求めたときなど)に、それに目を向けない、検討しようともしない態度を取らなかっただろうか? 捜査機関が一旦固めようとした筋に固執し、それに反する証拠を排除したり、むしろ筋に合致する証拠を無理に作っていくということをしなかっただろうか?

いわゆる「共犯者供述(証言)」に基づいて有罪に持ち込もうとする場合、そうした無理が生じやすい。しかし、裁判所は被告人の主張の排斥するための論理をパターンごとに用意しているので、単に実際のストーリーを述べ、「彼(共犯者)には虚偽を述べる動機がある」とだけ主張したところで、あっさりと主張が排斥されてしまう。上脇氏の件でも、公判の際、上脇氏は無実の主張を貫き、「共犯者」の主張のおかしさや虚偽を述べる動機についてさんざん主張しただろう。それでも有罪になるということである。

そして、一旦確定した判決を覆すというのは非常にハードルが高い中、再審請求審の神戸地裁があっさりと請求を棄却し、辛うじて大阪高裁で救われたようなものが今回の結果である(ただ、検察が最高裁に特別抗告する可能性はある。)。

元経営者の陳述書(上脇氏サイト)を読むと、裁判所が元経営者の当初の法廷証言を信じた理由がどのようなものであったのか、また、実際は信じるべき証言でなかったことがわかる。


【司法取引の話】

今後、約2年以内には司法取引が導入されるけれども、弁護人が基本的には個々に勉強して取り組んでいくことになる中、捜査機関は一体になってリソースを活用して取り組むことが想定される。司法取引は、こうした経済事件で、はっきりとした証拠が残らない点について最も活用されるはずの制度であると思われる。見立てが間違っている可能性に目をつぶり、とにかく有罪という結論に持っていくためのツールとして司法取引が使われるならば、冤罪のおそれは高まってしまうだろう。

逮捕時の実名報道による名誉毀損

逮捕時に実名報道がなされ、逮捕・勾留後に不起訴処分となった件での判決

私は特段フォローしていたわけではないが、こうした訴訟があり、最近判決が出たということだ。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2015093000868
(時事通信)

毎日新聞に55万円賠償命令=不起訴男性の名誉毀損-東京地裁

愛知県警に偽造有印私文書行使容疑で逮捕され、不起訴処分となった東京都の介護士佃治彦さん(57)が、逮捕時の実名報道によってプライバシーを侵害されたなどとして、朝日、毎日、中日の新聞3社に計2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であった。阪本勝裁判長は毎日新聞に55万円の支払いを命じ、他2社への訴えは棄却した。
阪本裁判長は、3社の実名報道によるプライバシー侵害は認めなかった。一方で、毎日が逮捕容疑を「有印私文書偽造、同行使」と書いた点について「真実とは言えない」と指摘し、名誉毀損(きそん)に当たると認定した。
判決によると、佃さんは2010年2月、偽造された契約書を民事裁判で証拠として提出したとして逮捕されたが、一貫して容疑を否認。同年3月に不起訴処分となった。
毎日新聞社の話 判決内容を十分に検討の上、対応を決める。(2015/09/30-19:06)

http://www.sankei.com/affairs/news/150930/afr1509300029-n1.html
(共同通信の配信記事)

実名報道「意義大きい」 容疑誤報には賠償命じる

愛知県警に逮捕され不起訴となった佃治彦さん(57)が「実名報道で被害を受けた」などとして新聞3社に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は30日、「容疑者の氏名を公表する社会的意義は大きい」として、朝日新聞社と中日新聞社への請求を棄却した。逮捕容疑を誤って報道した毎日新聞社には、名誉を傷つけたとして55万円の支払いを命じた。
判決によると、佃さんは平成22年2月、偽造有印私文書行使容疑で逮捕されたことを3社に実名で報じられ、翌月不起訴処分となった。佃さんは、軽微な事件を実名報道する必要はないと主張したが、阪本勝裁判長は「容疑者を特定することで報道内容の真実性が担保され、捜査が適正か監視できる」と退けた。
判決後の記者会見で佃さんは控訴する方針を示した。毎日新聞は「判決を検討して対応を決めたい」、朝日新聞社広報部は「主張が認められた」、中日新聞は「妥当な判断だ」とのコメントをそれぞれ出した。

この件特有の事情もあるだろうが、それを捨象して一般論として考えると、有名でない市井の人がさほど社会的に緊急性・重大性のない事件で逮捕されたようなときに、すぐさま報道されてよいのか、という問題がありそうだ。

この問題に関しては、今回、朝日新聞社と中日新聞社への請求が棄却されたように、報道内容の真実性の担保、捜査の適正の監視、といったことを重視し、名誉毀損などの不法行為への該当を否定するのが現在の司法の主流的考え方だ。

報道内容に誤りがあった場合

しかし、今回、毎日新聞社への請求は一部認容された。それは、報じた被疑罪名に誤りがあったためであるようだ。
今回の間違い方のパターンだと、警察が誤った内容を報道機関に教えたというものではないし、誤りであることがはっきりしているので、毎日新聞社の記者が誤ったのだと判断しやすかったというところがあるだろう。
私の経験上、新聞報道に書かれていることが被疑事実や逮捕前後の経緯とは食い違っているということは、ときどきあることである。ただ、今回の毎日新聞のように「誤り」であることを認めないことができないようなケースばかりではない。警察が言っていることが事実を取り違えていたり、書き間違い・しゃべり間違いというようなことだったしたら、報道機関は「取材源が言っていたとおり書いただけだ」という反論をする可能性が高い。
どのような誤りがあったときに名誉棄損にあたるのか、また、報道機関側がどのような反論を提出可能なのかは、要検討だろう。

新聞かインターネットか

各地方で起きる刑事事件は、比較的幅広く地元紙に掲載されている。インターネットのニュースサイトに掲載されるのはそのごく一部だが、明確な選別基準があるわけではない。テレビのニュースになり、その原稿がインターネットに掲載されるという場合も多い。
新聞であれば、掲載された情報の伝播方法は、基本的に口コミである。しかし、インターネットの場合には、消さない限り発信し続けられていることになるし、コピーもしやすい。よって、報道による名誉棄損が認められるとして、地元紙の紙面だけなのか、全国紙なのか、インターネット上なのかというのは、相当重要な要素になってくるのではないだろうか。

マイナンバー普及策に取り込まれた「軽減税率」

消費税10%増税時の軽減税率導入論と、それへの批判

食料品等への軽減税率導入については、一部輿論を背景に、公明党や消費者団体の後押しがあり、2013年末頃、自民党・公明党が「消費税10%増税時に軽減税率を導入する」との合意に達した経緯がある。

消費税軽減税率は、もともと、消費税の増税効果を薄めてしまうほか、対象商品の線引きが困難であること、小売業者の経理負担が増大すること、低所得者層への効果が限定的であることといった理由で、財務省や小売業団体から批判の強い政策である。

2段階の消費税率を導入するとした場合、増税効果が薄まるのは原理的に仕方ないとしても、コストが上がるのはできるだけ避けたい。そのためには、線引きをできるだけわかりやすくし、微妙なところに線を引かない(対象をかなり広げるか、かなり狭める)ということが望ましいということになる。微妙なところに線を引くと、なんとか軽減税率を適用しようとして建設的でない理屈付け合戦が始まり、軽減税率の解釈をする「産業」とそれを取り仕切るための役人が誕生してしまう契機になってしまうのではないか。私は、そのように懸念する。

しかし、与党合意のもと、消費税10%増税時に軽減税率を導入することは内定しており、制度づくりが進められてきた。

給付付き税額控除

森信茂樹・中央大学大学院教授(財務省出身)は、消費税軽減税率について、かねてから厳しく批判している。給付付き税額控除を「消費税還付」という名で導入すべきという議論である。詳しくは、ダイヤモンドオンラインをご参照のこと。

給付付き税額控除に賛成する意見は、少なくない。政界でも、維新の党が主張しているし、以前は民主党の主張でもあった。
 

森信氏の意見は、与党が出している「生鮮食料品の8%軽減税による減収額が3400億円」というのに対応して、「世帯年収300万円未満の世帯について1人当たり一律2万円、300万円から400万円までの世帯については、その半分の1万円を給付する。ただし年金受給者と生活保護者は除く」というものである。

 

この場合、元になる数字は、世帯収入である。この制度のためには、世帯収入を正確に把握することが必要であり、マイナンバーが導入されればそれが可能になるという目論見である。

マイナンバー個人番号カード普及策との融合

 

財務省は、政治側から「軽減税率」導入を使命とされ、制度作りを試みたものの、小売業者など現場の反発が強く、また、高コストでうまくいかないおそれが強い制度をあえて作ることに抵抗感を持ったのではないだろうか。しかし、与党は既に「軽減税率」を掲げてしまっており、行政側で「やるべきでない」とは言いにくい。

 

また、マイナンバーを普及させ、実質化させるということは、財務省の強い願いであり、給付付き税額控除のような制度を導入することで、個々の国民や世帯の所得データを掴みたい。この願いは、財務省の核心であり、行動力の源でもあろう。

 
 

こうして、知恵を結集させた案が、今回財務省が提案した「マイナンバー個人番号カードを通じて購入額を管理し、軽減税率分を還付する」という制度ということになる。これは、「個々の商品の税率が軽減されているという感覚を覚えるような制度」(軽減税率的)でありつつ、小売現場の経理負担を緩和し、税収減の見通しもクリアで、「マイナンバーで所得どころか消費を把握するところまで可能にし、マイナンバー個人番号カード(自動的には送られてこないカード)の普及率を一気に高める」という、”いいとこどり”の制度である。

 

確かに、小売現場の経理負担が緩和されることや、軽減税率の対象の論争が回避されやすいことは、メリットである。ただ、その他の部分には懸念がある。軽減税率の「メリット」として、食料品を買うたびに軽減税率の恩恵を感じる、というものがあるようで、今回提案の制度でも、対象が個々の食料品であるということに意味を持たせているようである。このような目先の「メリット」を安易に求めがちだが、本当に意味のあることなのかよく考えるべきだろう。また、国民にマイナンバーの情報流出への警戒感が強い中、中央官庁側では、このままでは住基カードと同様、個人番号カードが普及しないというおそれを持っており、この策によれば一気に個人番号カードが普及するという目論見だろう。この制度が導入されれば、個人番号カードを申請する国民が大多数になり、おそらく個人番号カードは普及するだろう。しかし、このように流されやすい国民性を利用して、十分な議論なしに、給付金をテコに情報を把握しよう(把握できる情報を増やしていこう)というのは、いいやり方だとは思えない。制度への十分な理解なしに多くの国民が個人番号カードを手にしたとき、さまざまなトラブルが起きるだろう。

非常に巧妙なやり方で、そういう意味でよく考えられているとは思うが、私は、こんな気味の悪い制度になるくらいなら、ストレートに給付付き税額控除を導入したほうがいいと思う。

財務省案への反対が大きくなれば、そのままの案では通らないという可能性もあるだろう。もっとも、財務省的には、この案がそのまま通らなくても、小売現場での2段階税率(一般的な軽減税率)導入を断念する方向になって、マイナンバーを活用する方向になれば、この案をぶち上げた成果があったと言えるだろう。

参議院の選挙制度問題 その1

初の合区導入

平成27年(2015年)7月24日、参議院の定数配分や選挙区設定を部分的に変える公職選挙法改正案が参議院本会議で可決された(自民党、維新の会などが賛成し、民主党、公明党、共産党などが反対した)。7月28日には衆議院でも可決され、成立する見込みだという。

この案の特徴は、これまで完全に都道府県単位だった「選挙区」選挙について、「鳥取+島根」、「徳島+高知」の2合区を設け、その他に宮城、新潟、長野の改選ごと定数を1減させることで、10減(改選ごと5減)を確保。その分を、北海道、東京、愛知、兵庫、福岡にそれぞれ改選1増し、10増(改選ごと5増)させるというものである。この改変により、平成22年(2010年)国勢調査に基づく「一票の較差」最大値は、2.97倍(価値最少が埼玉県民、価値最大が福井県民)となる。

平成25年(2013年)の参院選の「一票の較差」最大値は、4.77倍(価値最少が北海道民、価値最大が鳥取県民)だということなので、相当程度倍率が改善したことにはなる。

今回の「一票の較差」低減をどう評価するか

平成25年(2013年)参院選についての平成26(2014年)最高裁大法廷判決

最高裁大法廷は、平成26年(2014年)11月26日判決において、平成22年(2010年)の参院選について、

 さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関としての責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として,上記の選挙制度の仕組みや参議院に関する憲法の定め等を挙げていたが,これらの諸点も,平成24年大法廷判決の指摘するとおり,上記アにおいてみたような長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえると,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっているものといわざるを得ない。殊に,昭和58年大法廷判決は,上記の選挙制度の仕組みに関して,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を各選挙区の単位とすることによりこれを構成する住民の意思を集約的に反映させ得る旨の指摘をしていたが,この点についても,都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという限度において相応の合理性を有していたことは否定し難いものの,これを参議院議員の各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して上記のように投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっているものといわなければならない

以上に鑑みると,人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に,上記のような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。このことは,前記2(3)の平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されており,平成19年選挙当時も投票価値の大きな不平等がある状態であって選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところでもある。これらの事情の下では,平成24年大法廷判決の判示するとおり,平成22年選挙当時,本件旧定数配分規定の下での前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。

としたうえで、平成25年(2013年)の参院選について、

 本件選挙は,平成24年大法廷判決の言渡し後に成立した平成24年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で施行されたものであるが,上記ウのとおり,本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると評価されるに至ったのは,総定数の制約の下で偶数配分を前提に,長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みが,長年にわたる制度及び社会状況の変化により,もはやそのような較差の継続を正当化する十分な根拠を維持し得なくなっていることによるものであり,同判決において指摘されているとおり,上記の状態を解消するためには,一部の選挙区の定数の増減にとどまらず,上記制度の仕組み自体の見直しが必要であるといわなければならない。しかるところ,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,上記の状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない(同改正法自体も,その附則において,平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を定めており,上記4増4減の措置の後も引き続き上記制度の仕組み自体の見直しの検討が必要となることを前提としていたものと解される。)。

したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,本件選挙当時に至るまで,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである。

と判断した。なお、ア~ウの中身など、詳細は原典参照。

そして、公職選挙法の規定が憲法違反となるか否かについて、判断基準としては、

 参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について,当裁判所大法廷は,これまで,①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,②上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきており

として、その判断基準を再び採った上で、

 参議院議員の選挙における投票価値の不均衡については,平成10年及び同12年の前掲各大法廷判決は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていないとする判断を示し,その後も平成21年大法廷判決に至るまで上記の状態に至っていたとする判断が示されたことはなかったものであるところ,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとし,その解消のために選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるとする当裁判所大法廷の判断が示されたのは,平成24年大法廷判決の言渡しがされた平成24年10月17日であり,国会において上記の状態に至っていると認識し得たのはこの時点からであったというべきである

この違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するためには,平成24年大法廷判決の指摘するとおり,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講ずることが求められていたところである。このような選挙制度の仕組み自体の見直しについては,平成21年及び同24年の前掲各大法廷判決の判示においても言及されているように,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いため,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ず,また,参議院の各会派による協議を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し,具体的な改正案を立案して法改正を実現していくためには,これらの各過程における諸々の手続や作業が必要となる。

しかるところ,平成24年大法廷判決の言渡しによって選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていることを国会が認識し得た平成24年10月17日の時点から,本件選挙が施行された同25年7月21日までの期間は,約9か月にとどまるものであること,それ以前にも当裁判所大法廷の指摘を踏まえて参議院における選挙制度の改革に向けての検討が行われていたものの,それらはいまだ上記の状態に至っているとの判断がされていない段階での将来の見直しに向けての検討にとどまる上,前記2(3)のとおり上記改革の方向性に係る各会派等の意見は区々に分かれて集約されない状況にあったことなどに照らすと,平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの上記期間内に,上記のように高度に政治的な判断や多くの課題の検討を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し,具体的な改正案の立案と法改正の手続と作業を了することは,実現の困難な事柄であったものといわざるを得ない。

他方,国会においては,前記2(4)のとおり,平成24年大法廷判決の言渡し後,本件選挙までの間に,前記4増4減の措置に加え,附則において平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を併せて定めた平成24年改正法が成立するとともに,参議院の選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会において,平成24年大法廷判決を受けて選挙制度の改革に関する検討が行われ,上記附則の定めに従い,選挙制度の仕組みの見直しを内容とする公職選挙法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程が示されてきている。このことに加え,前記2(5)のとおり,これらの参議院の検討機関において,本件選挙後も,上記附則の定めに従い,平成24年大法廷判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の具体的な方法等の検討が行われてきていることをも考慮に入れると,本件選挙前の国会における是正の実現に向けた上記の取組は,具体的な改正案の策定にまでは至らなかったものの,同判決の趣旨に沿った方向で進められていたものということができる。

以上に鑑みると,本件選挙は,前記4増4減の措置後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものではあるが,平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの約9か月の間に,平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を附則に定めた平成24年改正法が成立し,参議院の検討機関において,上記附則の定めに従い,同判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討が行われてきているのであって,前記アにおいて述べた司法権と立法権との関係を踏まえ,前記のような考慮すべき諸事情に照らすと,国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず,本件選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。

と判断した。そして、

国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,さきに述べた国政の運営における参議院の役割等に照らせば,より適切な民意の反映が可能となるよう,従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,国会において,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消される必要があるというべきである。

と付言した。

平成26(2014年)最高裁大法廷判決は、平成24年(2012年)10月17日最高裁大法廷判決(参照URL1同2)に引き続き、都道府県を単位とした選挙区設定の見直しに言及したものである。都道府県を単位とした選挙区設定をしている限り、投票価値の平等の実現は困難であるし、無理に実現しようとすると議院の定員をどんどん増していかなければいけないとか、結果的に都道府県ごとに議員選出の方法が大きく異なることになってしまう(人口が少ない選挙区は改選数1となり小選挙区的な選出方法なのに、人口が多い選挙区は定数が10以上の大選挙区制になるなど)という問題が生じてしまうから、この最高裁の判断は当然である。

平成26(2014年)最高裁大法廷判決に至る経緯

この点(都道府県単位での選挙区設定)についての、平成24年(2012年)最高裁大法廷判決の説示を以下に掲載する。

 さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みにつき,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができると指摘している。都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日においても変わりはなく,この指摘もその限度においては相応の合理性を有していたといい得るが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない。また,同判決は,参議院についての憲法の定めからすれば,議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することも立法政策として許容されるとしていたが,この点も,ほぼ一貫して人口の都市部への集中が続いてきた状況の下で,数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている。さらに,同判決は,参議院議員の選挙制度の仕組みの下では,選挙区間の較差の是正には一定の限度があるとしていたが,それも,短期的な改善の努力の限界を説明する根拠としては成り立ち得るとしても,数十年間の長期にわたり大きな較差が継続することが許容される根拠になるとはいい難い。

振り返ってみると、平成24年(2012年)以前の最高裁は、参議院の「一票の較差」について、二院制のもとでの各議院の特色を尊重し、緩やかな判断基準をもって臨んできた。これにより、結果として、投票価値の平等に著しく反する状況が放置されたことが否めない。

平成24年(2012年)以前に最高裁が参院選について唯一「違憲状態」だと述べたのが平成5年(1993年)最高裁大法廷判決である。平成4年(1992年)の参院選では、最大較差が6.59倍にまで達したので、最高裁もさすがにそれについては重い腰を上げ、

本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないが、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものと断ずることはできない

(平成5年(1993年)12月16日最高裁大法廷判決、参照URL)との判断を示して牽制したものである。

平成5年(1993年)最高裁大法廷判決においては、園部逸夫判事が参議院の「地域代表」的な特色を重視して、2人区(改選ごと1人区)については、人口比例主義がそのまま適用されず、一票の較差の問題を生じない、とまで述べたことが注目される。また、次の平成7年(1995年)の参院選についても、違憲訴訟が提起されたが、最高裁が合憲判決を出してしまった(平成10年(1998年)9月2日最高裁大法廷判決、参照URL、ただし、5人の判事の反対意見あり)。合憲の理由の主要点は、次に引用する。

 本件改正前の参議院議員定数配分規定(以下「改正前の定数配分規定」という。)の下で、昭和五八年大法廷判決は、昭和五二年七月一○日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差一対五・二六(以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し、さらに、最高裁昭和五七年(行ツ)第一七一号同六一年三月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一四七号四三一頁は、昭和五五年六月二二日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対五・三七について、最高裁昭和六二年(行ツ)第一四号同六二年九月二四日第一小法廷判決・裁判集民事一五一号七一一頁は、昭和五八年六月二六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対五・五六について、最高裁昭和六二年(行ツ)第一二七号同六三年一○月二一日第二小法廷判決・裁判集民事一五五号六五頁は、昭和六一年七月六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対五・八五について、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示していたが、平成八年大法廷判決は、平成四年七月二六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対六・五九について、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示するに至った。原審の適法に確定した事実関係等によれば、本件改正は、右のような選挙区間における較差を是正する目的で行われたものであるが、前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく、直近の平成二年の国勢調査結果に基づき、できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし、かつ、いわゆる逆転現象を解消することとして、参議院議員の総定数(二五二人)及び選挙区選出議員の定数(一五二人)を増減しないまま、七選挙区で改選議員定数を四増四減したものであり、その結果、右国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、最大一対六・四八から最大一対四・八一に縮小し、いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後、本件定数配分規定の下において、人口を基準とする右較差は、平成七年一○月実施の国勢調査結果によれば最大一対四・七九に縮小し、また、選挙人数を基準とする右較差も、本件改正当時における最大一対四・九九から本件選挙当時における最大一対四・九七に縮小していることは、当裁判所に顕著である。そうであるとすれば、本件改正の結果なお右のような較差が残ることとなったとしても、前記のとおり参議院議員の選挙制度の仕組みの下においては投票価値の平等の要求は一定の譲歩を免れざるを得ないことに加えて、較差をどのような形で是正するかについては種々の政策的又は技術的な考慮要素が存在することや、さらに、参議院(選挙区選出)議員については、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解されることなどにかんがみると、右の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず、本件改正をもって、その立法裁量権の限界を超えるものとはいえないというべきである。そして、右のとおり、本件改正後の本件定数配分規定の下における議員一人当たりの人口の較差及び選挙人数の較差は、いずれも、本件改正当時に比べて縮小しているというのであるから、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。

最高裁大法廷の法廷意見は、この判断をするにあたって、次のようなことまで言ってしまっている。

 右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した趣旨から、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると断ずることはできない。

このように公職選挙法が採用した参議院(選挙区選出)議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、先に説示したとおり、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法一四条一項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れないと解さざるを得ない。

こうして、都道府県単位の選挙区は参議院の選挙制度の特色であり、その特色の前には投票価値の平等の要請が後退し、最大較差6倍超にならないと「違憲状態」には至らず、5倍未満では「合憲」だというのが、立法府における多くの議員の認識として固着してしまった。それでもなお、反対意見を出す最高裁判事も多い中、最高裁判事の構成の変化により、多数派が逆転し、平成24年(2012年)の5.00倍での「違憲状態」判決に至ったものである(選挙制度の改正の必要性にも言及したのは上述のとおり)。

こうして、平成24年(2012年)の最高裁判決をきっかけとして、立法府において、選挙制度の改正を含めた議論が本格化した。同判決後になされた平成24年(2012年)の公職選挙法改正に際しては、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るという内容の附則が盛り込まれた。

この後の自民党内の動きが大変に問題であるが、これについては次回以降触れる。

今回の検討のため、自作したエクセルデータを試しにコピーしてみる。

 人口(千人)現行法人口/議員数改正法案人口/議員数公明党案人口/議員数脇当初案人口/議員数
北海道    5,43141357.756905.1666905.1666905.166
青森県    1,3352667.52667.52667.52667.5
岩手県    1,2952647.52647.52647.54586.25
秋田県    1,0502525252521095.5
山形県    1,1412570.52570.54867.25
宮城県    2,3284582211644582
福島県    1,9462973297329732973
茨城県    2,9314732.754732.754732.754732.75
栃木県    1,9862993299329932993
群馬県    1,9842992299229922992
埼玉県    7,22261203.66661203.6668902.758902.75
千葉県    6,19261032610326103261032
東京都    13,300101330121108.333121108.333121108.333
神奈川県   9,07981134.87581134.87581134.87510907.9
石川県    1,1592579.52579.529772977
福井県    7952397.52397.5
山梨県    8472423.52423.54742.254742.25
長野県    2,1224530.521061
新潟県    2,3304582.5211654582.54851.5
富山県    1,076253825384781.75
岐阜県    2,05121025.521025.521025.5
静岡県    3,7234930.754930.754930.754930.75
愛知県    7,44361240.58930.3758930.3758930.375
三重県    1,8332916.52916.52916.52916.5
滋賀県    1,4162708270827082708
京都府    2,6174654.254654.254654.254654.25
兵庫県    5,55841389.56926.3336926.3336926.333
奈良県    1,3832691.52691.54590.52691.5
和歌山県   9792489.52489.510982.8
大阪府    8,84981106.12581106.12581106.125
鳥取県    5782289264026402640
島根県    7022351
岡山県    1,9302965296529652965
広島県    2,8404710471047104710
山口県    1,4202710271027102710
香川県    9852492.52492.54597.54597.5
愛媛県    1,4052702.52702.5
徳島県    77023852757.52757.52757.5
高知県    7452372.5
福岡県    5,09041272.56848.3336848.3336848.333
佐賀県    8402420242021118.5
長崎県    1,3972698.52698.52698.5
熊本県    1,8012900.52900.52900.52900.5
大分県    1,178258925894574.52589
宮崎県    1,120256025604700
鹿児島県   1,680284028402840
沖縄県    1,4152707.52707.52707.52707.5
合計127,297146146146146
最大値1389.51203.6661134.8751108.333
最小値289397.5574.5586.25
最大較差4.8079583.0280921.9754131.890547
avg人口/議員764.0567794.0879837.3524828.5692
標準偏差293.4218224.4199173.6112144.6685

今回の改正に対する評価(私の意見)

1 合区で当面手当てするにしても、あまりに不十分である。
 2 合区以外の定数削減(宮城、新潟、長野)により深まった不平等を看過できない。
3 そもそも都道府県ごとの選挙区設定に無理がある。都道府県にこだわらず抜本的に選挙制度の改正をすべきである。

今回の公職選挙法改正は、都道府県ごとの選挙区を基本的には維持し、一票の較差の最大値を縮小させるために、人口の少ない県を2つずつ合区するものである。総務省統計局の2013年(平成25年)の推計値で、人口の少ないほうから、鳥取県(578千人)、島根県(702千人)、高知県(745千人)、徳島県(770千人)、福井県(795千人)、佐賀県(840千人)、山梨県(847千人)である。これらの県は、衆議院選挙の小選挙区数も2とされている。

たまたま、人口が少ないほうから4つの県が2つずつ隣接していたので、合区して、いわば一つの県と同じような扱いにしたわけである。

しかし、そのようなことをしても、最大較差は約3倍である(選挙時点では3倍超になる可能性が非常に高い。)。人口比例主義に反することは明らかである。よって、今回の改正は、当面の弥縫策としても不十分である。

また、今回の改正では、合区の数を減らすことをできるだけ避けようとし、かつ、北海道、東京、愛知、兵庫、福岡にそれぞれ改選1増する必要があったため、宮城、新潟、長野について改選1減している。このやり方は、不適当である。特に、宮城、新潟は、最も価値を低められている埼玉に次いで価値を低められてしまう(神奈川よりも悪化してしまう。埼玉は公明党・民主党案では定数増の対象である。)。最大較差を低くすることばかりにとらわれ、実質的な不平等が新たに生じているのである。これについては、次回以降さらに述べていきたい。

こうして、最大較差だけではなく、最大・最小ではない各選挙区間の均衡の問題も考えると、結局、脇雅史参議院選挙制度改革評議会座長の当初案ほど抜本的に合区する(改選ごと定数が複数の選挙区も合区対象とする。)のではない限り、都道府県ごとの選挙区設定には無理があるといえる。そして、脇氏の当初案ほどにまでなるとすでに都道府県を一応の単位としている意味も薄れてくるということもある。そこまでして、都道府県境に固執して、合区で解決することにこだわるのではなく、別の選挙の仕方を考えたほうがよいというのが私の意見である。