日弁連の会長選挙に物申す?

日弁連とは何か

弁護士となる資格を有する者(主に司法試験合格者)は、弁護士業務を営むためには、日本弁護士連合会(日弁連)の名簿に登録していなければならないというきまりになっています(弁護士法8条)。

日弁連の名簿に登録してもらうためには、弁護士会に入会しなければなりません(弁護士法9条)。

弁護士会は、地裁の管轄ごとに設置することになっています(弁護士法32条)。よって、現行法規に従えば、北海道(札幌・釧路・旭川・函館)以外は各都府県に弁護士会は1つだけ、となります。ただし、弁護士法がこの規定になる前に、東京は、東京弁護士会(東弁)・第一東京弁護士会(一弁)・第二東京弁護士会(二弁)に分かれていたので、現在でも3つ弁護士会があります。

日弁連は、52の弁護士会、各弁護士会に所属する弁護士法人・弁護士たちによって成り立っている組織です。

国や行政機関に対抗していかなければならないこともある弁護士が国家機関から監督を受けると、結局最後は国家機関の意向に従わざるを得なくなるおそれがあるので、日弁連は「弁護士自治」の名のもと、弁護士の指導監督をしています。

日弁連の会長は、そのような機関の長です。会長の任期は2年で、弁護士会員の選挙により選ばれます。

日弁連の会長選挙(2014年)は一騎打ち

2014年(平成26年)の日弁連会長選は、1月8日公示、2月7日投票となりました。

候補は・・・

 

武内更一 氏(1958年1月1日生) 東京弁護士会所属

村越進 氏(1950年9月1日生) 第一東京弁護士会

 

この2名の一騎打ちです。

村越氏は現在の山岸会長と支持基盤が似通っており、竹内氏は前回会長選に立候補した森川文人氏と支持基盤がほぼ同じです。

前会長であり、前回会長選で落選した宇都宮健児氏は、なぜか東京都知事選のほうに共産党と社民党推薦で立候補して、日弁連に後継候補は立ちません←

このあたりの「支持基盤」の話は、詳しく説明をすると長くなりますので、また今度します。

両者の掲げる政策

どちらを支持するか決めるために、選挙公報に載っている政策を見比べると・・・

武内更一氏

「日弁連を再建し、弁護士の生活と人々の権利を守ろう」
弁護士つぶしの「法曹有資格者」に反対

(補足)武内氏によると、政府と法科大学院協会は、「司法改革」の中核とされた法科大学院制度の破綻状況を逆手にとって、弁護士登録をしなくても法律事務を取り扱うことのできる資格を制度化しようとしており、日弁連執行部もこの方針を容認しようとしているということです。

弁護士激増反対・法科大学院制度廃止

(補足)武内氏の考えでは、弁護士は経済的に窮乏化しており、その原因は圧倒的に弁護士激増政策にあるということです。武内氏は、法科大学院制度が存続している限り、司法試験合格者激増を止めることは不可能であると主張します。そして、法科大学院制度は、在学生に対する経過措置を設けつつ、直ちに募集を停止し、廃止すべきであるといいます。

弁護士統制と買い叩きの司法支援センターをつぶせ

(補足)武内氏は、日本司法支援センター(法テラス)が民事法律援助事件や国選弁護事件の報酬を低額に抑えていることも、弁護士の窮乏化と従属化のもう一つの要因であると主張します。武内氏は、法テラスができるまでは、弁護士会が実質的に民事法律扶助事業や国選弁護人の選任の関係の業務を指揮していたのであり、そうしたやり方に戻すべきだと考えています。

裁判員制度廃止、盗聴拡大・司法取引導入反対

(補足)武内氏は、被疑者・被告人の防御権、弁護権を回復するため、日弁連の誤った方針を転換して裁判員制度を廃止に追い込みましょう、と呼びかけています。また、現在法制審議会で盗聴の拡大・密室化、室内盗聴の容認、司法取引、匿名証人、被告人の黙秘権を認めず偽証罪適用など、刑事司法制度全般の改変が議論されている、と武内氏は言います。武内氏によると、この政府の動きに対し、日弁連は「取調べの可視化と被疑者国選の拡大を獲得するため」と称して、そうした新捜査手法に徹底反対せず、容認しようとしているとのことです。武内氏は、これを許さないと言っています。

全原発の廃炉、再稼働阻止

(補足)武内氏は、弁護士がさらに反原発の行動に立ち上がらなければならない、と言っています。

特定秘密保護法撤廃、改憲と戦争を許さない

(補足)武内氏は、安倍政権が改憲に踏み切ったと言っています。武内氏は、安倍政権に対抗する姿勢を強く見せています。

村越進氏

「ともに未来を切り拓きましょう」
司法アクセスの改善

(補足)村越氏は、弁護士は市民にとってまだまだ身近な存在とはいえないのでアクセスの改善・情報提供・広報に取り組むと言っています。高齢者、子ども、障がいのある人、外国人・難民、犯罪被害者、生活保護申請者など、社会的に脆弱な立場にある人々に寄り添った活動を強化すべきであると主張しています。民事法律扶助の拡充、権利保護保険の対象拡大、法律援助事業の公費負担に全力で取り組むと言っています。弁護士会の法律相談センターについても改革を進めると言っています。

弁護士の活動領域の拡大

(補足)市民のための司法は、弁護士が社会の隅々にまで活動領域を拡大し、社会のあらゆるニーズに応えることで実現するので、日弁連も弁護士の活動領域拡大に取り組むと言っています。中小企業への法的支援業務の推進、弁護士業務の国際化対応支援、組織内弁護士採用促進のための整備、専門分野・新たな分野での研修強化、というラインナップを挙げています。

若手弁護士への支援、日弁連活動への参加促進

(補足)村越氏は、日弁連として、「司法アクセスの改善」や「弁護士の活動領域の拡大」における各政策が想定する分野は若手弁護士の活動領域として最も期待されていると主張します。そして、これらの政策の実現に向けて、積極的に関係各機関・諸団体に働きかけ、若手弁護士が活躍する機会を提供します、と言っています。若手弁護士の声を日弁連の意思決定に反映させたり、若手弁護士の企画や立案を積極的に取り上げて実現すると言っています。

法曹養成制度の改革

(補足)社会の法的需要を適切に分析・予測しながら、見合った数の法曹を計画的に養成していくことが必要で、司法試験合格者は可及的速やかに1500人以下とし、実情に合わせ、さらなる減員をすべく全力で取り組みます、と村越氏は言っています。法科大学院については、実務法曹になる意欲と素地のある学生の確保、教員の確保のため、大幅な定員削減や統廃合を促し、これによって教育体制の充実を図るべきだと村越氏は言っています。法科大学院生の多くが、給付型奨学金制度、奨学金返還義務の免除制度などを活用できるようにすべきである、と村越氏は言っています。村越氏は、司法修習生への給費制の復活を含む経済的支援の充実のため、日弁連として総力を挙げて取り組むと言います。

司法基盤の整備と裁判所支部機能の充実・強化

(補足)村越氏は、司法基盤の整備、特に裁判官・検察官の増員が必要だと言います。裁判所の機能の充実化や司法予算の増額も求めていくと言います。

民事司法改革の推進

(補足)村越氏は、訴訟費用の低・定額化をはかり、行政訴訟制度の改革を図ると主張しています。村越氏は、集団的消費者被害回復訴訟制度が市民に利用されやすい手続となるよう努力するということです。

刑事司法改革の推進

(補足)村越氏は、取調べの全過程の可視化等の実現、弁護人の取り調べ立会権、被疑者段階の公的弁護の拡大を実現させると主張します。村越氏は、裁判員裁判制度については、公訴事実に争いのある事件の手続二分や死刑判決への全員一致制の導入など、「疑わしきは被告人の利益に」をより守れる制度にする必要があると言います。村越氏は、全面的証拠開示や公判前整理手続の改革の推進、高齢者・障害のある人などの、福祉と連携した更生保護の実現に取り組むといいます。

憲法と人権を守る

(補足)村越氏は、次の主張をしています。立憲主義を堅持し、憲法の基本原理を守る。特定秘密保護法の廃止を求め、共謀罪に反対する。国際人権基準の国内実施と国際活動の強化。子どもの人権保障。高齢者・障がいのある人の権利の擁護。貧困問題対策を強化する。消費者市民社会を確立する。人権擁護のための活動強化。

東日本大震災復興支援・原発被害者の救済

(補足)弁護士・日弁連は、被災者・被害者へのサポートを継続し、強化すべきであると村越氏は言います。

男女共同参画の推進

(補足)村越氏は、日弁連において、性差別的な言動や取扱いの防止を徹底し、就職・処遇における男女平等を実現すると主張します。女性弁護士偏在のさらなる解消も進めるといいます。

弁護士自治の堅持、弁護士の孤立化防止

(補足)村越氏は、日弁連として、弁護士自治の重要性について会員の理解と自覚を促すと同時に、弁護士会・弁護士の役割を積極的に発進し社会の理解を求める等と主張しています。また、弁護士のメンタルヘルスの問題に着目し、カウンセリングや相談体制を整える必要があると主張しています。

私の受け止め方

村越氏の主張は総花的で、肝心なところが踏み込み不足

村越氏の主張は、総花的です。おおむね弁護士会・日弁連の各委員会が推進している政策を並べただけのように思えます(人権擁護分野のところに特に力点が置かれている気はしますが。)。

それゆえ、私も、弁護士として、賛同できるところも多々あります(特に、「司法基盤の整備」、「民事司法改革の推進」、「刑事司法改革の推進」は、ここに書いてある範囲では、ほぼ丸ごと賛同できます。)。

しかし、現在の日弁連において、最も弁護士総出で議論しなければならないのは、現在の法曹養成制度が国民・市民のニーズに応えているか、将来禍根を生まないか、このままではいけないとすればどうすればよいか、どう社会に打ち出していくか、ということではないでしょうか。「弁護士の活動領域の拡大」にほどほど頑張ってお茶を濁していれば、なんとかなる、という問題ではない、と思うのです…。

その意味では、「法曹養成制度の改革」の項目が踏み込み不足であり、内容にも問題があります。

武内氏の主張には同意できる点も多いが、必要以上の政治的攻撃性を感じる

武内氏の主張は、その点、法科大学院関係者に遠慮をしないで、現在の問題点を直視しています。真偽の程は定かではありませんが、武内氏の主張するように、政府が法科大学院に斬り込まない代わりに「法曹有資格者」制度を作ろうとしている状況があるのであれば、大いに問題視すべきだと思います。

ただ、選挙公報の結びで、「今、政府は、国会での絶対多数を背景にして、経済的強者の利益のため、個人の尊厳を踏みにじり、他国の市場と権益を獲得するべく、日本を戦争のできる国にしようと暴走しています。それを止めるのは、日本を含め世界の民衆です。それに対し政府は、権力によって民衆の抵抗、反発を制圧しようとするでしょう。」というような調子で書かれていて、全体的に政治運動性が強い印象です。(1月15日に送り付けてきたFAX(竹内更一選対ニュース)には、東京都知事選に鈴木達夫弁護士という人物が「一千万人の怒りでアベ倒そう 改憲・戦争・人権侵害を許さない!」をメインスローガンに立候補したと書いてあります。)

このように、強制加入団体である日弁連の会長選で、ところかまわず強い政治的主張を繰り広げることが理解しがたいです。

武内会長が実現されれば、村越会長よりは、法曹養成制度まわりについて忌憚のない発言をしそうです。そして、それに応じて、弁護士間での議論も活発化する可能性は高いと思います。しかし、それもこれも安倍政権の戦争に向けた目論見の一環である、というような主張も簡単に飛び出してきそうで怖いです。

ただでさえ、現状の日弁連会長がときどき行う政治的声明はどうかと思うのに、むやみやたら政治的主張をしそうな勢いがあります。そんな発言をしてもらうために会長にしたわけじゃないのに、と言いたくなるかもしれません。

一応の結論

今回、投票行動をどうすればよいか、非常に悩ましいところです。

本当は、政治的には無難な線を行き、基本的には各委員会の政策を推進するけれども、大学関係の勢力に遠慮せずに言うことは言う、という人物がいいと思うのですが…(宇都宮前会長については、法科大学院強制制度の是非に踏み込まないままだったので、肝心要なところが全くおろそかだったと考えています。)。

若手は、みんな、それどころじゃないかもしれないです…。団結して権力に対抗して平等・公平を勝ち取るという考え方は若い世代にはあまりなくて、それぞれ自己努力してやっていくのが当然だと考えている人が多いんじゃないかと感じますし。

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金沢法律事務所(石川県金沢市)を主宰する弁護士

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