相続の新判例を読む(最高裁第三小法廷平成29年1月31日判決)

イントロダクション ~新判例の出現~

最近、親族相続分野で新しい最高裁判例が出ました。

養子縁組無効確認請求事件(最高裁平成28年(受)第1255号、平成29年1月31日第三小法廷判決)です。一応、リンクを貼っておきます。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/480/086480_hanrei.pdf

一審(家裁)は、養子縁組無効確認請求を棄却、

二審(高裁)は、一審判決取消で養子縁組無効確認請求を認容、

そして最高裁は、一審判決を正当と認め二審判決破棄、となりました。

最高裁判決の要点は、最高裁が下線を引いたところ、すなわち、

専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない

という点です。

これを読み解きます。

「縁組をする意思」とは・・・?

民法802条は縁組が無効になる場合を規定しています。そのうち、第1号は、「当事者間に縁組をする意思がないとき」です。ここでいう「縁組をする意思」は、実質的縁組意思といって、「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」であるとされています。これを実質的意思説といい、現在の裁判所のメインストリームの考え方です。

この実質的意思説に対して、養親と養子とが養子縁組を届出する意思があればそれでいい、というのが形式的意思説です。

繰り返しますが、最高裁は、実質的意思説を堅持しています。

およそ親子という身分関係設定の基礎となるような人間関係が存在していなかった(面識がある程度だった)が、財産の相続のみを目的とした養子縁組がなされたケースで、養子縁組無効とされた裁判例がありました(大阪高裁平成21年5月15日判決、上告棄却・上告不受理)。これは、実質的意思を重視したと言われています。

今回の事案は、「節税効果を発生させたい」という動機が養子縁組をする専らの動機であったケースです。

これは、実際のところ、よくあるケースです。税理士の発想が影響することも多いでしょう。今回の事案における、養親と養子は、血のつながり的には、祖父と孫の関係です。税金の側面から、「養子にすれば得するよ」とアドバイスがされたんでしょう。

そこで、二審(高裁)は、この場合の養子縁組は、節税のための便法でしかないので、真に養親子関係を設定しようとしたものではないよ、と考えたわけです。

今回の判決が注目されたのは、大まかに言って、

1… 二審の結論(養子縁組無効)が維持されるか否か、

2… 養子縁組が有効とされるならば、形式的縁組意思だけでよいとされるのか、それともやはり実質的縁組意思が必要とされるのか、

という、2点によります。そして、それぞれについて、最高裁がどういう理屈をつけるかです。

動機(縁由)を参考にして、実質的意思の有無を考える?

今回、最高裁は、養子縁組無効という二審の結論をひっくり返して、養子縁組有効としました。そして、引き続き、実質的縁組意思が必要という前提に立って、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないと述べたわけです。

以下、私の考えになりますが…。

人と人が養子縁組をしようとすることになりました、という場合には、突然ひらめいて役所に届け出ようというのではなくて、何かがきっかけになることが多いでしょう。現代日本では、相続絡みがほとんどですし、相続税絡みもまた多いわけです。もちろん、ある程度の血縁・人間関係を持った人との間で、老後の面倒を見たい(見てもらいたい)、介護をしたい(してもらいたい)というのもありうると思います。ただ、もともとの人間関係が濃密・良好なケースでも、別々に暮らしていたりして、専ら相続させたいとか相続税の節税のために養子縁組をしたい、ということは、ありうると思われます。

「なぜ今縁組をするのか?」というのが、すなわち「動機」ということになります。

この「動機」イコール養子縁組時の「意思」と見て、「動機」以外には特段取り上げるべき意思がない、というのが二審の思考方法だったのではないかと思います。

しかし、最高裁は違いました。最高裁判決中、下線部の前の判示に着目します。「相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。」と述べています。

最高裁は、節税の動機と縁組の意思は併存し得ると明言しています。最高裁は、動機が意思の大部分を構成するとは見ていないことが明らかです。

これに関して、同じような考え方を取っていると思われるのが、最高裁第二小法廷昭和38年12月20日判決(判タ166号225頁)です。この判決は、他の相続人の相続分を排することを主たる目的としてなされた養子縁組であっても、親子としての精神的つながりをつくる意思が認められるかぎり無効ではない、としています。そして、他の相続人の相続分を減少させようとする意図は養子縁組の「縁由」にすぎないこと、他の相続人の相続分を排して養子に取得させる意思と、真実の養親子関係を成立させる意思の併存を認めています。なお、判例リンクを貼っておきます。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/057/066057_hanrei.pdf

要するに、「動機」しかなければ、その動機のみが意思の内容であることもありうるけれども、動機以外の意思(真の養親子関係を成立させようとするもの)が併存することもある、ということになります。

なお、「節税目的の動機も立派な実質的縁組意思のバリエーションの一つだ」という考え方が大間違いであることは、言うまでもありません。

今回の最高裁判決は、こうして、考え方の交通整理をした判決だと言うことができるように思います。

重大な判例変更! 預貯金も遺産分割の対象になります!

以前(2016年3月)、預貯金が遺産分割の対象となるか否か、という論点について、判例変更の可能性を記事にした。

判例変更か? 預貯金は遺産分割の対象になる?

そして、今日(2016年12月19日)、最高裁判所大法廷(15人の裁判官による)は、結論を出した。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG19H8Q_Z11C16A2000000/?dg=1

預貯金も遺産分割対象に 最高裁が初判断

2016/12/19 15:21

 相続の取り分を決める「遺産分割」の対象に預貯金が含まれるかどうかが争われた審判の決定で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日、「預貯金は遺産分割の対象となる」との初判断を示した。話し合いや調停では預貯金を含めて分配を決めるのが原則で、実務に沿ってこれまでの判例を見直した。

過去の判例は、相続人全員の同意がなければ預貯金を遺産分割の対象とできず、不動産や株式といった他の財産とは関係なく、法定相続の割合に応じて相続人に振り分けると考えてきた。最近では2004年の最高裁判決が「預貯金は法定相続分に応じて当然に分割される」としていた。

要するに、これまでは、

  • 被相続人の死亡の段階で預貯金の形をとっている財産は、原則として、遺産分割の対象とならない。法律で決まっている相続の割合で各法定相続人に自動的に振り分けられ、各相続人は、話し合い無しで、金融機関に引き出しを請求できる。
  • 預貯金を家庭裁判所での遺産分割調停の対象とするには、相続人全員がその取り扱いに同意しなければならない。

となっていたところ、これからは、

  • 預貯金も、遺産分割調停の中で、他の財産と合わせて分け方を話し合って下さい! 話し合いがまとまらなければ、預貯金も含めて分け方を裁判所が審判で決めてしまいます。

ということになりました。・・・ということです。

わかりやすい話ですが、これがどういう影響をもたらすか、についてはピンと来ない方も多かろうと思います。

預貯金が遺産分割の対象となるか否かは、主に、寄与分や特別受益との兼ね合いで問題になっていました。

要するに、仮に遺産が預貯金しかないような場合、自動的に預貯金が相続人に法定相続分で分割されてしまうと、「自分はこれだけ相続財産の増加や維持に貢献(寄与)したのだから、他の相続人より優遇してくれ」という寄与分の主張や「被相続人の生前に特定の相続人だけが贈与を受けた」という特別受益の主張をするタイミング(対象となる相続財産)がなくなってしまうのです。

この問題は、昭和29年に、「預貯金は遺産分割の対象にならず、当然に分割される」という意味の最高裁の判例が出されて以来ずっと潜在化しており、「預貯金を遺産分割の対象としない!」と主張するだけで大きく結論に影響するというのが”知る人ぞ知る”状態になっていました。あまりに結論に差がありすぎますし、場合によっては不公平になりやすい状態です。私は、弁護士になり、この問題はとても重要な問題だと思い、よくよく意識して取り組んでいたのですが、60年間これが続いていたのが不思議です。

もうちょっと、多くの人が大きな声を挙げて、早めになんとかしようよ、と思うのですが…。

もしかすると、家庭裁判所が魔空間だということを傍証する一事情かもしれませんね(違う?)。

養子縁組無効確認訴訟で逆転勝訴判決

今月は・・・

今月は、取り組んできた事件の判決言い渡しが立て続けにあり、そのうち2件で当方の主張をほぼ全面的に採用した判決をいただくことができました。

1件は人事事件(家事事件)の控訴審判決、もう1件は刑事事件の控訴審判決です。いずれも、名古屋高裁金沢支部の判決になります。

今回は、人事事件(家事事件)のほうをさしさわりのない範囲で紹介します。

事案の紹介

事案は、認知症高齢者を養親とし、血縁関係のない者を養子とする養子縁組の無効が争われたというものです。

なお、近年、認知症高齢者をめぐる事案は増えているようであり、平成に入っての判決例が多くみられます。たとえば、昨年創刊された『家庭の法と裁判』という雑誌(『家庭裁判月報』という有力雑誌を引き継ぐもの)の第1号には、「認知症の高齢者を養親とする養子縁組について、縁組当時、同人の意思能力又は縁組意思がなかったと認めることは困難であるなどとして、養子縁組無効確認請求を認容した原判決を取り消し、請求を棄却した事例」として、広島高裁平成25年5月9日判決が掲載されています。広島高裁のケースでは、1審広島家裁判決は養子縁組無効確認請求を認容したものの、2審広島高裁判決は1審判決を取り消して請求を棄却しました。

私が今回担当した事件は、おおよそ次のような判断になりました。

1審家裁判決は、養子縁組届の筆跡が養親(とされた者。以下同じ)本人のものであると認定したうえで、養親は親族と疎遠であったことなどから、「親族ではなく誰かを養子にしたい」と養親が考えたことは合理的だとしました。

2審高裁判決は、仮に養親が養子縁組届に署名押印したとしてもこれをもって直ちに縁組意思があったと推認することはできないと述べたうえ、養親と養子(とされた者。以下同じ)との間で親子関係を創設するための真摯な協議はなく、少なくとも養親において養子と親子関係を創設する意思があったとみるべき事情はないとしました。また、養子縁組届が提出された時点で養親が養子との間で人為的に親子関係を創設し、扶養、相続、祭祀継承等の法的効果を生じさせることを認識するに足りる判断能力を備えていたとはいえない、と判示しました。

感想

養子縁組無効の訴訟においては、たとえば「養親が実質的な縁組意思を有していたか」という点が争点となるのですが、特に認知症高齢者を養親とする場合、認知症の発症時期、縁組当時の医学的判断、介護認定、縁組届の署名の筆跡、養子との従前の人間関係、日常の言動、第三者への相談の有無、専門職(弁護士、司法書士など)の関与の有無など、さまざまな事情から総合判断されることになります。

この総合判断においては、裁判官によって重視するポイントが異なるため、同様の事案でも結論に差が出ることもあります。ただ、そうした差は、法的判断の部分よりは事実認定の部分で現れやすく、結論に合わない「事実」が認定されず無視されがちというのが私の実感です。

弁護士は、裁判所で法的な解釈を述べるというだけではなく、そもそも「何があったのか」ということを解き明かし、裁判所で主張立証するという役目を負います。「何があったのか」ということについての説得力が問われる場面が多いように感じています。

今回の件では、1審判決の判断のおかしさが浮き彫りになるよう、調査や分析を徹底的に行い、それを主張立証に反映させ、2審での逆転勝訴につなげることができました。

判例変更か? 預貯金は遺産分割の対象になる?

相続・遺産分割に関して、非常に重要なニュースがあった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23HAW_T20C16A3CR8000/

預金の分割、大法廷が判断へ 遺産「対象外」見直しか
2016/3/23 21:15

預金を他の財産と合わせて遺産分割の対象にできるかどうかが争われた審判の許可抗告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。実務では当事者の合意があれば分割の対象とするケースが主流となっており、「対象外」としてきた判例が見直される可能性がある。弁論期日は未定。

大法廷に回付されたのは、死亡した男性の遺族が、男性名義の預金約3800万円について別の遺族が受けた生前贈与などと合わせて遺産分割するよう求めた審判。

最高裁は2004年の判決などで「預金は相続によって当然に分割されるため遺産分割の対象外」としており、一審・大阪家裁と二審・大阪高裁は判例にしたがって分割を認めなかった。

しかし、遺産分割前に遺族が法定相続分の預金の払い戻しを求めても、銀行は遺族全員の同意が無ければ応じないケースが多い。家裁の調停手続きでも遺族間の合意があれば預金を遺産分割の対象に含めており、判例と実務に差が生じている。

専門家からは「預金は不動産と違って分配しやすく、遺産分割の際に遺族間の調整手段として有効」との指摘もあり、法制審議会(法相の諮問機関)の専門部会は15年4月から、遺産分割で預金をどう扱うべきかについて議論を始めている。

 わかりやすい言葉で言うと、現在の最高裁判例では、

遺産の預貯金は、被相続人が死亡したときに自動的に各相続人に法定相続分で分割されるので、各相続人は、金融機関にある被相続人名義の預貯金のうちの法定相続分にあたる分を払い戻せる

のであり、

遺産分割の協議をする前でも、当然分割なので、払い戻し可能

ということである。(ただし、現在の判例でも、遺言があると話は別。)

 しかし、遺産のうちで預貯金だけは遺産分割をする前に当然に分割され、遺産分割の話し合いの対象から外れる、という結論には、違和感を持つ人も多いところである。それに、ニュース記事にもあるように、金融機関は、相続人全員の印鑑のある払戻請求書、遺産分割協議書、調停調書といったものがないと払い戻しに応じてくれないことが多い(訴訟をすれば結局払い戻されるが)。

 そこで、家庭裁判所での遺産分割調停でも、相続人全員の合意のもとに、預貯金を遺産分割の話し合いの対象にするという扱いを取るケースも多い。合意によって、法律の原則の適用を外すということがされているわけである。

 今回、最高裁が審理を大法廷に回付したことにより、最高裁がこれまでとは別の考え方を取る可能性が出てきた。遺産にはほぼ必ず預貯金が含まれているので、ほとんどすべての相続・遺産分割にかかわってくるルールについての変更がされる可能性があるということである。

 遺産分割調停においては、当然このあたりの判例を踏まえて対応しなければならないが、これからは判例変更の可能性も念頭に置きながらやっていかなければいけないと思われる。判例が変わったら、従来の判例の理論は一気に実務で使いづらくなってしまう。現在、世の中で争われている遺産分割事件にも影響がかなりありそうだ。

遺言控除、新設へ?

政府、相続税に「遺言控除」検討 資産移転を円滑化、在宅介護の促進後押し

2015.7.8 06:06

SankeiBiz

 政府・与党は、有効な遺言による相続であることを条件に、一定額を相続税の基礎控除額に上乗せして控除する「遺言控除」を新設する検討に入る。遺言の普及を促して遺産相続をめぐるトラブルを抑え、若い世帯へのスムーズな資産移転を図ることによって在宅介護の促進も後押しする。早ければ2017年度税制改正での実施を目指す。

 8日に開かれる自民党の「家族の絆を守る特命委員会」(古川俊治委員長)で、葉梨康弘法務副大臣が政府内の検討状況を説明する。

相続税は遺産総額から基礎控除額(今年1月から3000万円+法定相続人1人当たり600万円)が差し引かれた上で税率をかけて算出される。遺言控除が新設されると税金のかからない遺産が増える。制度設計は今後詰めるが、控除額は数百万円を軸に検討する。仮に300万円の遺言控除であれば30万~165万円の減税となる計算だ。

現状では相続税の課税対象のうち遺言が残された案件は2~3割程度。トラブルの解決にコストがかさむほか、不動産の処分が進まず、空き家が増える要因の一つとなっている。新制度で遺言を残す人が増えればトラブルが減る効果が見込める。

「終活税制」が本格的な検討に入ることで、配偶者控除など家族の在り方をめぐる税制議論全般に影響を与えそうだ。

 この動きは,相続時精算課税制度,直系尊属からの住宅取得等資金の贈与の非課税制度,子ども版NISAなどと軌を一にしていて,被相続人の生前から相続に向けた動きを取るよう政策的に誘導するものだろう。キーワードは,「資産の世代間移転」である。

 ただ,遺言控除ができたからといって,単に遺言を作ればお得になるという意識でやっていると,落とし穴があるのではないだろうか。相続税が課税される可能性のある人は,保有資産を分析し,どの制度・手段を用いるのかじっくり検討した上で進めたほうがよさそうだ。

 相続税を軽くするという手法で,遺言がもっと作成されるように政策的な誘導がなされるようになれば,特定の相続人が主導して被相続人に遺言を勧めるケースも,もっと増えるだろうと思う。そのような場合には,作られた遺言をめぐっての争いにも発展しやすい。死んだ後になって,被相続人の財産をめぐって,故人の真意を立証し合う争いが起きるわけであり,遺言を作らなかった場合に比べ,根の深い争いになりやすい。紛争になってしまうと,節税どころの話ではなくなってしまう。

 弁護士・税理士といった専門家と協議の上,遺言の利用を含めて資産継承の計画表を作り,被相続人と複数の相続人で認識を共有することができれば,ほぼ万全になるだろう。これは,被相続人の生前,それも意識障害の問題が生じる前にやるべきことだ。

 私も,弁護士として,自らの知識を深め,または他の専門家と連携して,税制を踏まえて「相続・資産継承」全体へのアドバイスをしていきたい。

相続問題の疑問点 ~やしきたかじん篇~

最近のホットトピックといえば、やしきたかじん氏の晩年をめぐる問題だ。

百田尚樹著・幻冬舎刊の『殉愛』(11月7日発刊)が発刊され、同日そのプロモーション的特集がTBS(金スマ)で放映されたが、それ以降、ネット・裁判所などいろいろな場所を舞台として、現在まで盛り上がりを見せている。

ここでは、私が読んだ週刊新潮12月18日号(以下「新潮」)をあてにして、法律的なことを中心に何か書いてみたいと思う(なお、私は『殉愛』をまだ読んでいないし、他の雑誌の記事もあまり読んでいない。)。

H 対 幻冬舎

まず、新潮には、11月21日に、たかじん氏の唯一の子「H」氏が『殉愛』の出版差し止め及び1100万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたと書かれている。新潮には書かれていないが、この訴訟の被告は幻冬舎である。この訴訟では、ほぼ専ら、百田尚樹氏の取材執筆がどのような資料をもとになされたのか、その資料に根拠があったのかが争われるだろう。

百田氏は、Twitterで、「今まで言わなかったこと、本には敢えて書かなかったいろんな証拠を、すべて法廷に提出する」、「一番おぞましい人間は誰か、真実はどこにあるか。すべて明らかになる。世間はびっくりするぞ」と力を込めている。訴訟の中での証拠提出行為がさらなる名誉毀損に当たることもあるので注意である。

新潮には、日本筆跡鑑定協会指定鑑定人の藤田晃一氏が「メモ偽造疑惑」をシロと判断したと書かれている。しかし、金スマで放映されたメモには、たかじんの妻の「S」氏の癖と似た癖が出ているように見えるものもあるし、私は本当にシロなのかわからないように思う。

なお、裁判所は、筆跡鑑定を他の科学的鑑定と同列には扱っておらず、筆跡鑑定への信頼をあまり持っていない。裁判所は、むしろ、書かれた状況や内容を重視して、真筆か否か判定する傾向にある。

そこで、どのような経緯で書かれたものなのかが焦点となってくるだろう。ただ、「S」氏が裁判所に出廷するのは当分先になるし、しかるべく準備をして臨むことは間違いないので、本当の真実が裁判所の法廷で明らかになるとは考えないほうがいいだろう。

判例上、概して、公益性・公共性・真実性が認められれば名誉毀損にあたらないとされており、今回の裁判でも、たかじん氏の晩年の出来事についてノンフィクションや記事にして出版することの公共性・公益性も問題になってくる可能性がある。そうすると、今後の芸能人のゴシップ記事一般への影響もありうるだろう。

S 対 ネット

新潮には、たかじん氏の妻の「S」氏が、ネット上の「重婚」(イタリア人男性や別の男性との婚姻歴があること)や「偽造」(上述のメモ)に関する書き込みの一部について警察に被害届を提出済みであり、さらには名誉毀損で訴える準備も進めていると書かれている。

面白いのは、上記の東京地裁の訴訟で、おそらく幻冬舎側は、たかじん氏は有名人なので『殉愛』の出版には公共性・公益性があると主張すると想定されるところであるのに、仮に「S」氏がネットの書き込み者に名誉毀損の民事訴訟を提起するとすれば、「S」氏についての事実指摘は公共性・公益性がないと主張することになるだろうということ。確かに「S」氏の個人的な事柄がネットで暴露された形ではあるが、それは自ら作家と組んで世間に広めようとしたことに関連する事柄であり、一部は自らブログに載せていたことであるようで、その場合には、公共性・公益性等がどのように判断されるべきなのか興味深い点である。

遺産分割(相続)

新潮によると、「S」氏の代理人弁護士は、次のように語っている。なお、以下の引用で「さくらさん」とは「S」氏のこと。

遺言書を作成する場合、通常は遺留分を総額の半分くらいは残しておかなければなりません。さくらさんも“そこは考えてください”と言っていたのに、遺言執行者だったY弁護士が遺留分を全く考慮せずに遺言書を作成したのです

私には、これがちょっと理解しがたい。

このときの遺言というのは、たかじん氏が死に直面しているということで、危急時遺言(民法976条)が用いられたらしい(参考ブログ→http://mmtdayon.blog.fc2.com/blog-entry-153.html)。これは、民法の定めに基づき、遺言者が証人の1人に遺言の趣旨を口授することで行われる。そして、遺言の趣旨の口授を受けた証人はそれを筆記し、筆記した内容を遺言者に閲覧させるか読み聞かせるものである。

そうすると、ここでの遺言は、遺言者であるたかじん氏の言ったことが反映されているはずである。「Y」弁護士はたかじん氏の発言を聞き取ってその場で遺言書を作成したはずであり、その内容を「考えなおす」か否かもたかじん氏が決めることであるから、「S」氏が事前に「Y」弁護士にそう言っておいたのにそうなっていないからおかしい、というほうがおかしいのである。

確かに、これは建前の議論であって、実際には受贈者が主導してスレスレの作られ方をする遺言もあるのだろう。しかし、「S」氏の代弁者である代理人弁護士が、遺言が「S」氏の指示通りになっていないと公に語るのはちょっとヘンな気がするのである。

特に、これは、危急時遺言という特殊形式の遺言である。この遺言形式は、自筆でもなく、公正証書に依るでもないものであり、その代わりに、3名以上の証人が立ち会い、その場で「口授」「筆記」「閲覧or読み聞かせ」「承認」をなす必要があるというものである。自筆や公正証書の場合には、事前に遺言者と打ち合わせて原案を作り、それをもとに自筆するか公証役場で概要を話させるという方法がありうるが、危急時遺言の場合には「そこに書いてあるとおりです」という口授の仕方は基本的に不可能であると思われ、そうすると作り方が異なってくるはずである。

そして、この危急時遺言という遺言の形式は例外的で特殊ゆえに、自筆証書遺言の場合にしなければならない家裁の「検認手続」の前に「確認手続」も取らなければならないとされている(ちなみに、公正証書の場合はどちらも要らない)。家裁は、遺言が遺言者の真意に出たものであるという心証を得た場合に「確認」の審判をすることになるのだが、この確認の審判というのは、いわば仮定的な判断であり、もしその後に地裁で「遺言無効確認訴訟」が提起されてそこで争われた場合には、そこではまた1から遺言の有効性が争われることになる。「確認手続」における、遺言者の真意に出たかどうかの判断にあたっては、家庭裁判所は、証人の意見を聞く程度であり、その遺言によって不利な影響を受ける者の参加が法定されていないから、特定受遺者と不利を受けた法定相続人の間での本格的な争いは、家裁ではなく地裁で行われるということになる(遺言の無効を確認する訴訟は、遺産分割の前提になる議論ではあるけれども、地方裁判所に提起することになっている。)。

たかじん氏の遺言については、「確認」が平成26年1月22日に、「検認」が平成26年2月25日になされたようである。これに関し、たかじん氏の遺言の有効性が裁判所で争われ、すでに有効と決していると書かれているのを見たが、これは上記の「確認」のことであって、一般的な「遺言無効確認訴訟」ではないのではないかと思われる(私は、この件で仮に遺言無効確認訴訟を提起した場合、こんな短期間のうちに地裁の判断は出ないはずだという感覚を持っているため、このように書いている。もう遺言無効確認訴訟も終わっているのだということであれば、ご指摘いただきたい…。)。

新潮には、「H」氏が遺留分減殺請求権をめぐって訴訟をするかどうか検討中であるように書かれているが、仮にたかじん氏が証人3名のいる前で危急時遺言を口授したか否かについても疑問だということになれば、形式不備で遺言無効という可能性もあるから、遺言無効確認訴訟提起の見込みもあるように思う。

そして、この件では、行方不明のお金や、「S」氏用金庫のお金の位置づけなど、遺産の範囲についての争いもあるようで、これはこれで遺産分割ではとどまらず、地裁の訴訟で決すべき話になってくる。

このほかにも、S氏はたかじん氏の個人事務所に対し株主総会決議取消訴訟を起こしているということである。

ということで、この件は、ゴシップ的に面白いのに加えて、法的にもこの種の事案にまつわるいろんな要素を含んでいて、「フルコース」といった様相で、興味深いところである。

相続に関する法律が変わる?

配偶者の家事・介護を相続に反映 法務省が検討開始

2014年1月28日 19時12分 中日新聞サイト

法務省は28日、配偶者の相続拡大を議論する「相続法制検討ワーキングチーム」の初会合を開き、遺産分割の際に考慮される配偶者の貢献内容を見直す方針で一致した。現行制度でほとんど勘案されない家事や介護について、相続に反映させる方向だ。今夏に中間報告をまとめ、民法改正に向けて来年1月の新制度案策定を目指す。
改正が実現すれば、1980年に配偶者分が3分の1から2分の1に引き上げられて以来の本格的な見直しとなる。
チームは有識者と省幹部で構成し、座長には民法や家族法に詳しい大村敦志東大教授が就任した。
(共同)

これまで、家事や介護は「寄与分」として主張されることもありました。

しかし、条文上、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」が寄与分なんですよね(民法904条の2)。

何が問題かというと、「特別の寄与」というのが問題なんですね。

妻が夫の(夫が妻の)療養看護をするのは当然であって、特別の寄与に当たらない、というのが、この条文の基本的解釈なので、裁判所が「審判」で判断するときには、配偶者の介護貢献は、寄与分として算定されにくかったわけです。家事労働についても同様です。

きょうだい間の著しい不均衡については、効果を発揮する法律規定なのですが。

本当に献身的に介護や家事労働をなさったんだなぁ、というようなケースであって、どれだけ裁判所でそれを力説しても、「まぁ、まぁ、気持ちは分かるけど、それを言っても仕方ないんだよなぁ…。」という扱いでした。

こういう法規定に対しては、主に女性から不満の声が挙がっていたのだと思われます。そして、裁判所・裁判官も、そうした不満に対して、「これが正しいんです!」と胸を張って言い返すのではなく、「国会が決めた法律(ルールブック)でそう決められているから、それに反した判断はできないんです…。」と言うしかなかったという。

こうなると、法律を変えようということになってくるわけですね。

寄与分については、貢献が目に見えて財産の増加に結びつくということがないので、家庭裁判所がある程度裁量的な判断をしているようです。

法律が変わって、配偶者の介護や家事労働の貢献も判断要素になってくると、被相続人の配偶者(特に妻)は被相続人の生前にどれだけ介護や家事をしていたか、とにかく頑張って事実主張を積み上げていくことになるんでしょうね。

その結果、場合によっては、裁判所の審判を経るとしても、妻が亡夫の遺産の大部分を相続する、ということも増えそう(現在の実務だと、話し合いで妻が大部分を相続するということはあっても、裁判所の審判になればそうはいかない。)。

配偶者の介護・家事貢献がほぼゼロだとしても法定相続分を奪うわけにはいかないので、そういう場合(配偶者のことをほったらかしだった場合)には現行制度の「原則」並みに決着するけれど、それはむしろ例外になってしまうかも。傾向としては、配偶者の相続分が増えますね。

そして、法律が変わった後、夫→妻の順で死亡するようなよくあるケースにおいては、「夫が死亡するとき」よりも「妻が死亡するとき」というのが、最大のヤマということになってくるのかもしれませんね。

家庭裁判所の調停で注意すべきこと

どんなときに家庭裁判所で調停をするか?

家庭裁判所で調停(家事調停)をするのはどのようなときでしょうか?

これは、一言でいえば、「家族関係・血縁関係についての話し合いをするとき」です。

夫婦間の話し合い

まず、多いのは、夫婦間の話し合いです。

夫婦間の話し合いの項目としては、離婚をするか否かについて、子の監護養育について、養育費について、婚姻費用について、親権者について、財産分与について、などがあります。

離婚が絡む場合は、離婚した後の話もしますし、離婚するまでの間についての話もします。

相続人同士での話し合い

次に多いのは、相続人同士での話し合いです。

誰かが亡くなったときには、誰がどのように財産を相続するか、遺産相続(遺産分割)の話をしなければなりませんが、その話し合いがまとまらないことがあります。

そのようなときは、家庭裁判所で、調停を開き、話し合いをすることになります。

それ以外の調停

それ以外にも、子どもの認知、親子関係の不存在確認、夫婦円満などの調停があります。

誰が調停に参加するか?

  • 申立人(話し合いをしたいと言っている側)
  • 相手方(話し合いの相手)

申立人・相手方とも、1人でもいいですし、複数でもかまいません。ただし、裁判所の手続費用は増加します。このほか、「利害関係人」といって、紛争に関係すると思われる人が参加する場合もあります。

よく、離婚の話では、親御さんが当事者の代わりに話をしたがることがありますが、裁判所の手続上は、当事者本人(または付き添っている弁護士)が意思を述べるのが大原則になります。よって、事情にもよりますが、多くの場合は、親御さんの関与は待合室のご同行までです。

話し合いはどのように行われるか?

別席調停が多い

事案の種類にもよりますが、調停に持ち込まれる事案は、争いがあって同席をすることが難しい場合が多いので、別席調停となることがほとんどです。

ただし、平成25年から始まった家事事件手続法の運用では、基本的に同席でするとされている事柄もあります。東京家裁は、つぎのとおり説明しています。

調停期日の始めと終わりに,双方当事者本人が調停室に立ち会った上で,裁判所から,手続の説明,進行予定や次回までの課題の確認等を,また,成立・不成立等により事件が終了する際の意思確認を行います。これは,家事法制定の趣旨の一つである,調停手続の透明性の確保の観点から,主体的な合意形成の前提となる,手続の進行状況や対立点,他の当事者が提出した資料の内容等について,両当事者と裁判所が共通の認識を持つための取り組みです。手続代理人が選任されている場合でも,出頭した本人に手続等の内容を理解して頂くために,代理人のみではなく,双方当事者本人に立ち会ってもらい確認,説明を行います。
ドメスティック・バイオレンス(精神的暴力,性的暴力も含みます。)等の問題が窺われる等により立ち会うことに具体的な支障がある場合は実施しませんので,そのような場合には,「進行に関する照会回答書」(2の書面)に具体的な事情を記載してください。また,一律,硬直的な扱いではなく,事案等に応じて柔軟に実施してまいりますので,ご協力をお願い申し上げます。

要するに、調停期日の各回において、始まりと終わりに、当事者全員が立ち会って、いろいろなことを確認します、ということです。

ただ、当事者のいずれかが難色を示した場合は同席させないで説明・確認をする場合も多いと思われます(平成25年以降、金沢家裁で私が関わった事件では、同席確認をしなかったことのほうが多いです)。

別席調停の方法

さて、別席調停の仕方ですが、多くの場合、申立人と相手方が30分程度ずつ交互に調停室に入り、調停委員2名(男女)と話をします。調停委員は、聞き取った話を元に、着地点を探ります。双方当事者が、調停室への出入りを繰り返す中で、調停委員と話をして、対立当事者との歩み寄りを模索するわけです。

多くの場合、1回の期日は2~3時間となります。その日に話し合いがまとまらなければ、次の日程を決めて、その日はおしまいになります。

どのような方が調停委員になっているのか、どんな形で調停が進むのかについては、NPO法人シニアわーくすRyoma21の上平慶一氏のエッセイを参考になさるとよいでしょう。

成立と不成立

何らかの形で話し合いがまとまった場合には、調停調書に、決まったことを書き記します。これを調停の「成立」といいます。

調停は、話し合いですので、話し合いが全くまとまりそうになかったり、どちらか一方がもう話し合いをしないと宣言すれば、「不成立」ということで、終わってしまいます。

不成立の場合には、そのまま終わってしまうものもありますが、事案によっては、「審判」の手続に自動的に移行します。

このほか、申立人が調停を取り下げた場合には、そこで調停は終わります。

調停で注意すべきこと

調停は、訴訟に比べれば、一般人でも申し立てやすい手続です。しかし、実は、弁護士でも一筋縄ではいかないことの多い手続です。

家事調停に臨むにあたって、どの場合でも注意すべきことを以下に書き出してみました。このほかにも、個々の事案ごとに、注意すべき事柄はあると思われます。

対立当事者が何を言っているのか正確に把握すること

別席調停では、調停委員を介しての話し合いにならざるを得ません。調停委員は、学識・経験を認められて裁判所から選ばれているのですから、基本的には信頼でき、対立当事者(申立人←→相手方)の言っていることをおおむね正確に伝えてようとしてくれていると思っていいのですが、それでも不正確な点が含まれることもあります。

調停委員は、和解を模索する役目がありますので、双方への伝え方を工夫されています。その中で、やんわり伝えようとしたり、調停委員なりの提案を付け加えようとしたりする中で、正確性が失われやすいと思われます。

よって、対立当事者の言っていることが正確に表現されていないのではないかと思ったら、率直に指摘して、再確認をしてもらったほうがよいです。

調停は口頭で進みますので、ボタンの掛け違いが起こったら、時間を浪費してしまいますし、合意できないような状況になってしまうこともありますので…。

不成立になった場合にどうなるかを常に考えること

調停は「話し合い」ですから、双方がYesと言ったことだけが調停調書の中身になるわけです。

しかし、だからといって、「自分の気に入らないことは全部Noだ」と言っていると、のちのち大変なことになる場合があります。

「調停で決まらないときには審判で決めなければならない」と法律上決められている事項について、調停が不成立になったら、誰かが「No」だと言っていても、家庭裁判所が審判をして決めてしまうことがあります。たとえば、結婚していながら別居しているときの婚姻費用であるとか、遺産分割がまとまらないときであるとかは、自動的に審判に移行します。

家庭裁判所の審判の内容は、調停で話し合いのされていたこととは原則無関係です。調停で話し合いが進んでいた内容とは全く異なる、意外な内容の審判が出されることもじゅうぶんありえます。

家庭裁判所が審判をすると、基本的にはそれに従わなければならなくなります。そうなってから「また調停に戻してほしい」と言っても、もう遅いということになります。即時抗告などの異議申し立ての手段もありますが、弁護士でも苦心する手続です。

ですから、もし調停が不成立になったらどういう展開になるか、ということを常に考えるべきだということになります。

調停調書の内容にこだわること

家庭裁判所の書記官は、最終的に調停での約束内容を記した書面を作ります。これを「調停調書」といいます。

調停調書の効力は、大きいものがあります。

たとえば、「AがBに毎月○○円支払う」という内容の調書になっていたときに、もしAがその額の支払いをしなければ、Bは家庭裁判所に申し立てて強制執行の手続をとることができます。

一般的な話し合い(裁判所での調停ではない)で上記のような支払い約束がされていても、すぐには強制執行をすることはできませんから、調停調書は強力です。

逆に言うと、調停の話し合いの中で「案」として出されていても、調停調書に書かれていなければ、「調停上の約束」ではないのです。

後日、「あのときの調停で、そういう話になったはずです。調停調書に書いてないのがおかしいのです。調停委員に聞いたり、調停委員のつけていたメモを見ればわかります」と言っても、手続上、調停調書ができあがるときに当事者みんなが内容をしっかり確認したことになっているのですから、難しいのです。

また、調停調書の文言(調停条項)の書き方によって、上記のような執行力(不履行の時に強制執行できる効力)をもつ場合ともたない場合に分かれます。

ですから、話し合いがまとまる方向で進んで、最後、調停調書を作るということになったら、内容にはこだわるべきですし、細かな言葉遣いにも注意を払うべきだということになります。

まとめ

  • 家事調停は、別席調停が多い。
  • 相手の主張、調停委員の提案など、正しく確認するよう努めたい。
  • 調停不成立の場合、審判に移行するかどうかを押さえておくべきである。
  • 調書の調停条項の書き方には細心の注意を払うべきである。

生命保険金請求権と相続の関係

まず,注意ですが,以下の議論は民法上のものであり,税法上の「相続財産」・「みなし相続財産」の考え方とは異なります。要するに,相続税を申告するときの考え方と,遺産分割をするときの考え方は異なるということです。

1 保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし,相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合

→ 指定された者は,固有の権利として保険金請求権を取得するので,遺産分割の対象とならない

 2 保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし,保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し,被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合

→ 保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に相続人(ら)の固有資産となり,被保険者(兼保険契約者)の遺産から離脱する。死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は,法定相続分の割合による請求権を各相続人が取得する。そのように被相続人が意思表示していたものと考えるということである。

3 受取人指定がない場合

→ 保険約款と法律(保険法等)により判断。たとえば約款に「被保険者の相続人に支払う」との条項があれば,保険契約者(被相続人)が保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同様に考える。よって,遺産分割の対象とはならない

4 保険契約者が被保険者及び保険金受取人の資格を兼ねる場合

→ 満期保険金請求権は,保険契約の効力発生と同時に被相続人自身の財産となるから,満期後被相続人が死亡した場合は,遺産分割の対象となる保険事故による保険金請求権については,相続人を受取人と指定する黙示の意思表示があると解釈し,被相続人死亡の場合には保険金請求権は相続人の固有財産となる。   このように,多くの場合,保険金請求権は,相続人の固有資産となり,遺産分割の対象とはなりませんが,保険金の額や保険契約の経緯等によっては,「特別受益」として「持戻し」の対象となる場合があります。

相続人は単独で被相続人の預金を払い戻せるか?

★注意★ 以下の記述は、現在の実務では妥当しないおそれがあります。

詳しくは、重大な判例変更! 預貯金も遺産分割の対象になります!

 

人が亡くなると,金融機関は,亡くなった人の預貯金を自由に引き出せないようにすることがあります(むしろそれがほとんどです)。

亡くなったことを知っていて,自由に引き出せる状態にしておくと,金融機関の責任問題になるためです(この点を詳しく説明します。民法478条は「債権の準占有者に対する弁済」についての規定になっています。債権者の外観を有する者(債権の準占有者といいます)に対し善意・無過失で弁済を行った場合には,その弁済は有効になり,債権は消滅する,という規定です。ある人が亡くなったことを知っているにもかかわらず,金融機関がその人の口座からお金を自由に引き出せる状態のまま放置しておくと,金融機関は「無過失」で払戻し(弁済)したといいにくくなり,弁済としては無効になるおそれが強いのです。)。

こうして,人が亡くなると,たいてい,その人の預貯金が引き出せなくなります

亡くなった人のことを「被相続人」と言います。相続”される人”という意味です。これに対して,相続”する”人を「相続人」と言います。

相続人が複数いて,その相続人たちの間で話がまとまっている場合には,相続人たちは,被相続人の預貯金を引き出すために,遺産分割協議書を作成したり,金融機関所定の書面に署名押印したりして,預貯金を払い戻して,配分します。これは,モメていない一般的な場合です。

しかし,素直にまとまらないケースもありますね。相続人たちの間で話がまとまらないときは,どうなるのでしょうか? 遺産分割の決着がつくまで,預貯金は凍結されたままなのでしょうか? また,個別に払戻しを受けられるとしたら,どの範囲で払い戻してもらえるのでしょうか?

この問題については,最重要の判例が存在します。

相続人が数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは,その債権は法律上当然分割され,各共同相続人が,その相続分に応じて権利を承継する」(最高裁昭和29年4月8日判決,民集8・4・819)という内容の判例です。

ここで注意すべきは,預金債権も可分債権であるということです。ですから,被相続人が現金や預金を残して死亡した場合には,相続人たちは,それぞれ,その法定相続分に応じて,権利を承継するのです。

預金の権利というのは,法律的に表現すると,「金融機関に対して,預けたお金を返してください」と言える権利です。

この権利を,各相続人が,自分の法定相続分の割合で取得するのです。

よって,金融機関は,被相続人が遺言をのこしていない場合,法定相続分の範囲で払戻しに応じなければならないのです

 

特別受益(被相続人の生存中に財産分け等で不動産やまとまった額の金額の贈与を受けた相続人がいる場合;民法903条)や寄与分(被相続人の生存中にその財産の形成,維持,増加について特別に貢献(寄与)した相続人がいる場合;民法904条の2)があるケースだとどうなるでしょうか?

これについては,次のように扱われます。→ 特別受益や寄与分は,遺産分割手続において具体的相続分を決定する際に勘案されるものにすぎないのであり,預金債権の法定相続分に応じた承継には影響を及ぼすものではない すなわち 特別受益や寄与分と関係なく各相続人は金融機関に預金の払戻しを請求できる のです。

ただし,金融機関は,実務上,トラブル防止のため,任意には払戻しに応じないことがあります。金融機関は,相続でモメているときに,どちらか一方の肩を持っているように見られたくないのです。しかし,結局,遺産分割の審判(家庭裁判所)において,特別受益や寄与分が認められたとしても,最終的に各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関から受けられることには変わりないのです。

・・・ただ,一般的な感覚では,預金についても,遺産分割協議や遺産分割調停で,どう分けるか話し合おう,というのが穏当かなと思います。一般的には,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる!」と正面切って言う人は少ないです。ですから,一般的にはこういうことが意識されないままでなんとなく済まされていますが,法律や判例に従えば,「預金は可分債権であるから,自動的に分けられる(法律的な言い方をすれば,当然に分割される)」ということなのです。

弁護士がついて,任意協議,調停をする場合でも,多くは,話し合いでまとまります。そうすると,ここまでギリギリの争いにはなりません。しかし,話し合いでどうしてもまとまらない場合,審判により裁判所に決してもらおうとすると,この問題に直面するのです。

仮に,被相続人の遺産のほとんどが預貯金であったとしたら,どうなるでしょうか?

遺産分割の審判で,「あの人はあれだけの生前贈与を受けている!(特別受益)」とか「私は被相続人の財産増加にこれだけ寄与した!(寄与分)」という主張をしても,預金は,遺産分割審判の対象外で,その主張とは関係なく,各相続人が法定相続分の払戻しを金融機関に請求できるということになるのです。