刑事控訴審で「1項破棄」判決をいただきました

一審判決破棄(減刑)

先月(2016年9月)、わたしが国選弁護人に指名されていた刑事控訴審(名古屋高裁金沢支部)の判決がありました。

詐欺罪の被告人です。やったことは認めていますが、量刑が重すぎるのではないかということで控訴したということでした。

事件によっていろいろな争い方がありますが、認めている事件の場合には、不適正な処分が維持されるのは被告人の更生のために、ひいては社会にとってもよくないので、被告人の言い分を法的に構成して、さらにできる弁護活動をやり、裁判所に言い分を聞き入れてもらえるよう努力するのが弁護人の役割です。

もちろん、指名されて初めて事案を知り、被告人ともそこから打ち合わせて、「控訴趣意書」を作り、同時並行で、さらなる弁護活動を進めていきます(認めている場合でも、一審段階で被害弁償や示談ができていなかった場合などは、短期間でそれらを試みることがあります)。

今回は、地裁判決(一審判決)の理由付け・考え方が誤っていてその結果量刑が不当に重くなっているということと、仮に一審判決の量刑が許容範囲だとしても一審判決後に被害回復・反省をさらに進めた・試みたという、大まかに言って2つの主張・立証をしました。

その結果、控訴審判決は、「弁護人の論旨の1つめの方に理由がある」とのことで、一審判決を破棄し、懲役期間を減らしました。

「1項破棄」とは

控訴審(高等裁判所)が一審判決を破棄する理由は、刑事訴訟法という法律に定められています。

大きく分けると、 <1> 一審判決に法令違反・事実誤認・量刑不当があるようなとき、 <2> 一審判決後に量刑に影響を及ぼすような情状が生じたために一審判決を破棄しなければ明らかに正義に反するようになったとき です。

<1>は刑事訴訟法397条1項に、<2>は刑事訴訟法397条2項に定められています。そのため、裁判官、弁護士など法律関係者は、<1>のことを「1項破棄」、<2>のことを「2項破棄」と呼んで区別しています。

「1項破棄」は、シンプルに言えば、一審判決が誤っていた、ということですが、今回そういう判断になったわけです。

今回の裁判は認めている事件で争点は「量刑」(共犯者との役割・関係を含め)だけでしたし、地裁の裁判官は刑事事件における量刑判断のプロではあるのですが、誤りはありうるということでしょう。そのため、こうして是正を図る控訴審や、そこでの弁護活動にも意義があるものと思います。

先日ご紹介したように、民事の控訴審でも一審判決と逆の結論が出されることもあったりで、考え方・見方・注意の払い方、話の組み立て方、証拠による証明の仕方などによって、判断に大きく影響するものだなと思います。

上脇元神戸市議の事件で大阪高裁が再審を認めた

私はこれまで上脇義生氏の事件のことや再審請求のことを知らなかったのですが、今般の報道で初めて知り、注目しておかなければならないことであるように思ったので、私なりにまとめておきます。


【概要(ニュースや上脇氏のサイトを読んでまとめたもの)】

上脇義生・元神戸市議は、知人の元風俗店経営者に脱税の指南をした疑いをかけられ、2008年に逮捕・起訴され、2010年6月に国税徴収法違反の罪で有罪(懲役1年6月、執行猶予3年)が確定していた。

上脇氏は、起訴後に市議を辞職したが、一貫して無実を主張していた。
元経営者の証言や元従業員の供述調書などを主な根拠にして有罪が認定されたものであった。
しかし、元経営者は、検察に誘導されて本当でない内容の調書作成に応じ、公判でも虚偽を述べたことについて、2013年夏の元経営者の執行猶予期間(5年)明け後に上脇氏に真相を告白した。
上脇氏は、2014年8月、元経営者や元従業員が詳細に真相を語った陳述書などをもとに、神戸地裁に再審を請求した。陳述書は、上脇氏に脱税の指南を受けたものではないことを述べ、なぜ上脇氏に指導を受けたかのような調書や証言になったのかについて理由を語るものであった。

神戸地裁は、2015年2月、証人尋問をすることもなく、再審請求を棄却した。それに対し、上脇氏は大阪高裁に即時抗告した。
大阪高裁は、2015年3月、元経営者に対する尋問を行うことに決めた。5月28日に行われた証人尋問では、元経営者が上脇氏の事件への無関与を具体的に述べた。7月には、上脇氏側と検察側の双方から大阪高裁に対して最終意見書が出し合われた。
そして、

2015年10月7日、大阪高裁(的場純男裁判長)は、「共謀の認定には合理的な疑いが残る」と述べ、神戸地裁の再審請求棄却決定を取り消し、再審開始を決定した。


【私の感想】

捜査機関の事件の見立てが外れるケースがあるのだ、そして、関係者(特に捜査機関)はそういう可能性をよく踏まえて取り組まなければ冤罪を招いてしまうのだ、ということを改めて実感する。

捜査機関は、強力な権限や駆使できる影響力を持っているので、調べようとすること・集めようとする証拠には非常に手が届きやすい。捜査機関は、そうして集めた客観的な証拠や動かしがたい証言をもとに、事件の筋を探し当て、刑事裁判で被告人を有罪にして適正な刑を与えるため、見定めた事件の筋に沿う証拠をさらに集めて固めていくという作業をする。

人間は、過去のある時点・ある地点に行って見たいものを直接見てくるわけにはいかないので、何があったかを考える作業は、必然的に推測によるところが出てくるものである。そのこと自体は能力に限りのある人間が社会を作っていくためには致し方ない。そうした過去の出来事についての推測をする際に誤りが入り込む可能性は低くはない。特に、少人数の人間の発言やそれを書き取ったというものによる場合には、大なり小なりの誤りは入り込む。実際のところ、裁判では、少々の誤りや曖昧さについては、ほとんど無視するようにして判断が下されることもある。過去のことを100%の精度で解明・表現することはできないので、ある程度割り切って結論を示しているようなところがある。

まず問題にすべきなのは、捜査機関の見立てについて、「筋を大きく読み違えていないか」ということ、それに「信用できない証拠が混ざっていないか」ということである。

上脇氏の件で、検察は、別の可能性はないのか、仮説に合致しない証拠がないのか、冷静・公平な目で検討しながら進めることができていただろうか? 真実の可能性がある反対説が浮上したとき(当事者や関係者の誰かが反対説に基づく検討を求めたときなど)に、それに目を向けない、検討しようともしない態度を取らなかっただろうか? 捜査機関が一旦固めようとした筋に固執し、それに反する証拠を排除したり、むしろ筋に合致する証拠を無理に作っていくということをしなかっただろうか?

いわゆる「共犯者供述(証言)」に基づいて有罪に持ち込もうとする場合、そうした無理が生じやすい。しかし、裁判所は被告人の主張の排斥するための論理をパターンごとに用意しているので、単に実際のストーリーを述べ、「彼(共犯者)には虚偽を述べる動機がある」とだけ主張したところで、あっさりと主張が排斥されてしまう。上脇氏の件でも、公判の際、上脇氏は無実の主張を貫き、「共犯者」の主張のおかしさや虚偽を述べる動機についてさんざん主張しただろう。それでも有罪になるということである。

そして、一旦確定した判決を覆すというのは非常にハードルが高い中、再審請求審の神戸地裁があっさりと請求を棄却し、辛うじて大阪高裁で救われたようなものが今回の結果である(ただ、検察が最高裁に特別抗告する可能性はある。)。

元経営者の陳述書(上脇氏サイト)を読むと、裁判所が元経営者の当初の法廷証言を信じた理由がどのようなものであったのか、また、実際は信じるべき証言でなかったことがわかる。


【司法取引の話】

今後、約2年以内には司法取引が導入されるけれども、弁護人が基本的には個々に勉強して取り組んでいくことになる中、捜査機関は一体になってリソースを活用して取り組むことが想定される。司法取引は、こうした経済事件で、はっきりとした証拠が残らない点について最も活用されるはずの制度であると思われる。見立てが間違っている可能性に目をつぶり、とにかく有罪という結論に持っていくためのツールとして司法取引が使われるならば、冤罪のおそれは高まってしまうだろう。

逮捕時の実名報道による名誉毀損

逮捕時に実名報道がなされ、逮捕・勾留後に不起訴処分となった件での判決

私は特段フォローしていたわけではないが、こうした訴訟があり、最近判決が出たということだ。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2015093000868
(時事通信)

毎日新聞に55万円賠償命令=不起訴男性の名誉毀損-東京地裁

愛知県警に偽造有印私文書行使容疑で逮捕され、不起訴処分となった東京都の介護士佃治彦さん(57)が、逮捕時の実名報道によってプライバシーを侵害されたなどとして、朝日、毎日、中日の新聞3社に計2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であった。阪本勝裁判長は毎日新聞に55万円の支払いを命じ、他2社への訴えは棄却した。
阪本裁判長は、3社の実名報道によるプライバシー侵害は認めなかった。一方で、毎日が逮捕容疑を「有印私文書偽造、同行使」と書いた点について「真実とは言えない」と指摘し、名誉毀損(きそん)に当たると認定した。
判決によると、佃さんは2010年2月、偽造された契約書を民事裁判で証拠として提出したとして逮捕されたが、一貫して容疑を否認。同年3月に不起訴処分となった。
毎日新聞社の話 判決内容を十分に検討の上、対応を決める。(2015/09/30-19:06)

http://www.sankei.com/affairs/news/150930/afr1509300029-n1.html
(共同通信の配信記事)

実名報道「意義大きい」 容疑誤報には賠償命じる

愛知県警に逮捕され不起訴となった佃治彦さん(57)が「実名報道で被害を受けた」などとして新聞3社に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は30日、「容疑者の氏名を公表する社会的意義は大きい」として、朝日新聞社と中日新聞社への請求を棄却した。逮捕容疑を誤って報道した毎日新聞社には、名誉を傷つけたとして55万円の支払いを命じた。
判決によると、佃さんは平成22年2月、偽造有印私文書行使容疑で逮捕されたことを3社に実名で報じられ、翌月不起訴処分となった。佃さんは、軽微な事件を実名報道する必要はないと主張したが、阪本勝裁判長は「容疑者を特定することで報道内容の真実性が担保され、捜査が適正か監視できる」と退けた。
判決後の記者会見で佃さんは控訴する方針を示した。毎日新聞は「判決を検討して対応を決めたい」、朝日新聞社広報部は「主張が認められた」、中日新聞は「妥当な判断だ」とのコメントをそれぞれ出した。

この件特有の事情もあるだろうが、それを捨象して一般論として考えると、有名でない市井の人がさほど社会的に緊急性・重大性のない事件で逮捕されたようなときに、すぐさま報道されてよいのか、という問題がありそうだ。

この問題に関しては、今回、朝日新聞社と中日新聞社への請求が棄却されたように、報道内容の真実性の担保、捜査の適正の監視、といったことを重視し、名誉毀損などの不法行為への該当を否定するのが現在の司法の主流的考え方だ。

報道内容に誤りがあった場合

しかし、今回、毎日新聞社への請求は一部認容された。それは、報じた被疑罪名に誤りがあったためであるようだ。
今回の間違い方のパターンだと、警察が誤った内容を報道機関に教えたというものではないし、誤りであることがはっきりしているので、毎日新聞社の記者が誤ったのだと判断しやすかったというところがあるだろう。
私の経験上、新聞報道に書かれていることが被疑事実や逮捕前後の経緯とは食い違っているということは、ときどきあることである。ただ、今回の毎日新聞のように「誤り」であることを認めないことができないようなケースばかりではない。警察が言っていることが事実を取り違えていたり、書き間違い・しゃべり間違いというようなことだったしたら、報道機関は「取材源が言っていたとおり書いただけだ」という反論をする可能性が高い。
どのような誤りがあったときに名誉棄損にあたるのか、また、報道機関側がどのような反論を提出可能なのかは、要検討だろう。

新聞かインターネットか

各地方で起きる刑事事件は、比較的幅広く地元紙に掲載されている。インターネットのニュースサイトに掲載されるのはそのごく一部だが、明確な選別基準があるわけではない。テレビのニュースになり、その原稿がインターネットに掲載されるという場合も多い。
新聞であれば、掲載された情報の伝播方法は、基本的に口コミである。しかし、インターネットの場合には、消さない限り発信し続けられていることになるし、コピーもしやすい。よって、報道による名誉棄損が認められるとして、地元紙の紙面だけなのか、全国紙なのか、インターネット上なのかというのは、相当重要な要素になってくるのではないだろうか。

間近に迫る注目刑事裁判の判決

岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長が受託収賄・事前収賄・あっせん利得処罰法違反の罪で2014年7月に起訴された刑事事件で、3月5日、名古屋地裁において判決が言い渡される予定だ。

世間から見ると意外かもしれないが、弁護士になって働いていると、同時代の別の事件について深く研究する機会があまりない。手持ちの事件に関係するものについてはよく調べるし、押さえなければならないところは押さえるが、やはり「仕事中心」になってしまう。

そうした中では、私は、この事件、比較的興味を持って見てきた。昨年9月、下記サイトの「弁護士コメント」のところにも書いたが、検察・警察がマスコミへどのように情報発信するのかということについて知見を持った郷原信郎弁護士が、それを乗り越えようとする弁護活動を続けてきているので、調べれば調べるだけ考えるための材料が豊富に出てくるというところがある。

http://www.bengo4.com/topics/2059/

(社会への情報発信を続ける郷原信郎弁護士が「自分の仕事」である個別事件についての情報発信も同じ場所(コラムのようなブログ)でして、それ以降ほぼそれに全力投球する形になっていったのには少々驚きもあったが、郷原弁護士はこの仕事に確信を持っていて、あえてその場を使っても情報発信をしたのだろうとも感じた。)

 

この裁判では、ほぼもっぱら、証人(贈賄側すなわち共犯者的な立場)の証言の信用性が問題になっているが、この「証言の信用性」というのは「融通無碍」的なところがある。判決を書く裁判官の胸先三寸で、有罪にも無罪にも書けるところがある。結論決め打ちの判決は、反対の結論に結びつきやすい重要な点を無視していたり一言の決まり文句で済ませていたりする(まともに書いてしまうと排斥しづらくなるから…)。

自分で記録を読んでいるわけではないので結局漏れ伝わることによるしかないが、今回の裁判では、市長の有罪を立証するための贈賄側証人の法廷外での言動や検察官との打ち合わせ状況についても法廷で話されるほど、この証人の証言の信用性について弁護側によって掘り下げた立証活動がなされていて、そうしたことをまともに取り入れて判断すると、検察官の立証には「合理的な疑い」が生じているといえる可能性が相当高まっているのではないかとも思う。

判決の主文に注目したいし、その理由にも注目したい判決だ。

司法取引を導入しても大丈夫なのだろうか…

司法取引の導入に進む日本

取り調べ可視化、裁判員裁判などで導入へ 司法取引も 法制審特別部会が改革案了承

2014.7.9 19:51

 捜査と公判の改革を議論する法制審議会(法務相の諮問機関)の特別部会が9日開かれ、法制化のたたき台となる法務省が示した最終案が満場一致で了承された。検察と警察の捜査の一部で取り調べ全過程の録音・録画(可視化)を義務付けるほか、通信傍受の対象犯罪拡大や司法取引の導入が決まった。法制審は今後、了承した最終案を法相に答申する。法務省は来年の通常国会に刑事訴訟法などの改正案を提出したい考えだ。

了承された最終案では可視化導入が決まったほか、通信傍受では捜査で電話やメールを傍受できる対象犯罪に、組織性が疑われる殺人や放火、強盗、詐欺、窃盗など9類型の罪を追加。NTTなど通信事業者の立ち会いも不要になる。

司法取引は容疑者や被告が、共犯者など他人の犯罪を解明するために供述したり証拠を提出したりすれば、検察官は起訴の見送りや取り消しなどの合意ができる。検察官、弁護士、容疑者・被告人の3者間で行うと規定された。殺人などの重大事件は対象外で、経済事件や薬物事件などに限定された。(産経)

最近報じられているように,法務大臣の諮問機関である法制審議会で取りまとめ案が満場一致で承認され,来年の通常国会に提出される刑事手続法関連の法案の概要が固まり,司法取引が日本にも導入される可能性が高まった。

審議会のページにあるpdfを読むと,「捜査・公判協力型協議・合意制度」と名付けているようだ。ソフトに言い換えているようで,逆にまがまがしさを感じる表現だが…。

要綱(骨子)の概要は,次のとおりだという。

〔合意・協議の手続〕
○ 検察官は,必要と認めるときは,被疑者・被告人との間で,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするため真実の供述その他の行為をする旨及びその行為が行われる場合には検察官が被疑事件・被告事件について不起訴処分,特定の求刑その他の行為をする旨を合意することができるものとする。合意をするには 弁護人の同意がなければならないものとする(要綱一1)。
○ この制度の対象犯罪は,一定の財政経済関係犯罪及び薬物銃器犯罪とする(要綱一2)。
○ 合意をするため必要な協議は,原則として,検察官と被疑者・被告人及び弁護人との間で行うものとする(要綱一5)。
○ 検察官は,送致事件等の被疑者との間で協議をしようとするときは,事前に司法警察員と協議しなければならないものとする。検察官は,他人の犯罪事実についての捜査のため必要と認めるときは,協議における必要な行為を司法警察員にさせることができるものとする(要綱一7・8)。
〔合意に係る公判手続の特則〕
○ 被告事件についての合意があるとき又は合意に基づいて得られた証拠が他人の刑事事件の証拠となるときは,検察官は,合意に関する書面の取調べを請求しなければならないものとし,その後に合意の当事者が合意から離脱したときは,離脱書面についても同様とする(要綱二)。
〔合意違反の場合の取扱い〕
○ 合意の当事者は,相手方当事者が合意に違反したときその他一定の場合には,合意から離脱することができるものとする(要綱三1)。
○ 検察官が合意に違反して公訴権を行使したときは,裁判所は,判決で当該公訴を棄却しなければならないものとする。検察官が合意に違反したときは,協議において被疑者・被告人がした他人の犯罪事実を明らかにするための供述及び合意に基づいて得られた証拠は,原則として,これらを証拠とすることができないものとする(要綱三2・3)。
〔合意が成立しなかった場合における証拠の使用制限〕
○ 合意が成立しなかったときは,被疑者・被告人が協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述は,原則として,これを証拠とすることができないものとする(要綱四)。
〔合意の当事者である被疑者・被告人による虚偽供述等の処罰〕
○ 合意をした者が,その合意に係る他人の犯罪事実に関し合意に係る行為をすべき場合において,捜査機関に対し,虚偽の供述をし又は偽造・変造の証拠を提出したときは,5年以下の懲役に処するものとする(要綱五)。

そして,要綱(骨子)そのものは次のとおり。要するに,この下に貼り付ける文章の要約が上の文章ということ。

一 合意及び協議の手続
1 検察官は,特定犯罪に係る事件の被疑者又は被告人が,他人の犯罪事実(特定犯罪に係るものに限る )についての知識を有すると認められる場合において,当該他人の犯罪事実を明らかにするために被疑者又は被告人が行うことができる行為の内容,被疑者又は被告人による犯罪及び当該他人による犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮して,必要と認めるときは,被疑者又は被告人との間で,被疑者又は被告人が㈠に掲げる行為の全部又は一部を行う旨及び当該行為が行われる場合には検察官が被疑事件又は被告事件について㈡に掲げる行為の全部又は一部を行う旨の合意をすることができるものとする。合意をするには,弁護人の同意がなければならないものとする。
㈠ 被疑者又は被告人による次に掲げる行為
イ 刑事訴訟法第198条第1項又は第223条第1項の規定による検察官,検察事務官又は司法警察職員の取調べに際して当該他人の犯罪事実を明らかにするため真実の供述をすること。
ロ 当該他人の刑事事件の証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。
ハ 当該他人の犯罪事実を明らかにするため,検察官,検察事務官又は司法警察職員に対して証拠物を提出すること。
㈡ 検察官による次に掲げる行為
イ 公訴を提起しないこと。
ロ 特定の訴因及び罰条により公訴を提起し又はこれを維持すること。
ハ 公訴を取り消すこと。
ニ 特定の訴因若しくは罰条の追加若しくは撤回又は特定の訴因若しくは罰条への変更を請求すること。
ホ 即決裁判手続の申立てをすること。
ヘ 略式命令の請求をすること。
ト 刑事訴訟法第293条第1項の規定による意見の陳述において,被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること。
2 1に規定する「特定犯罪」とは,次に掲げる罪(死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪を除く。)をいうものとする。
㈠ 刑法第2編第5章(公務の執行を妨害する罪 (第95条を除く。),第17章(文書偽造の罪),第18章(有価証券偽造の罪),第18章の2(支払用カード電磁的記録に関する罪),第25章(汚職の罪)(第193条から第196条までを除く。),第37章(詐欺及び恐喝の罪)若しくは第38章(横領の罪)に規定する罪又は組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第3条(同条第1項第1号から第4号まで,第13号及び第14号に係る部分に限る。),第4条(同項第13号及び第14号に係る部分に限る。),第10条(犯罪収益等隠匿)若しくは第11条(犯罪収益等収受)に規定する罪
㈡ ㈠に掲げるもののほか,租税に関する法律,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律,金融商品取引法に規定する罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの
㈢ 次に掲げる法律に規定する罪
イ 爆発物取締罰則
ロ 大麻取締法
ハ 覚せい剤取締法
ニ 麻薬及び向精神薬取締法
ホ 武器等製造法
ヘ あへん法
ト 銃砲刀剣類所持等取締法
チ 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
㈣ 刑法第2編第7章(犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪)に規定する罪又は組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第7条(組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等)に規定する罪(㈠から㈢までに掲げる罪を本犯の罪とするものに限る。)
3 1の合意には,被疑者若しくは被告人又は検察官において1㈠若しくは㈡に掲げる行為に付随し,又はその目的を達するため必要な行為を行う旨を含めることができるものとする。
4 1の合意は,検察官,被疑者又は被告人及び弁護人が連署した書面により,その内容を明らかにして行うものとする。
5 1の合意をするため必要な協議は,検察官と被疑者又は被告人及び弁護人との間で行うものとする。ただし,被疑者又は被告人及び弁護人に異議がないときは,協議の一部を被疑者若しくは被告人又は弁護人のいずれか一方のみとの間で行うことができるものとする。
6 5の協議において,検察官は,被疑者又は被告人に対し,他人の犯罪事実を明らかにするための供述を求めることができるものとする。この場合においては,刑事訴訟法第198条第2項の規定を準用するものとする。
7 検察官は,刑事訴訟法第242条(同法第245条において準用する場合を含む 。)の規定により司法警察員が送付した事件,同法第246条の規定により司法警察員が送致した事件又は司法警察員が現に捜査していると認める事件の被疑者との間で5の協議をしようとするときは,あらかじめ,司法警察員と協議しなければならないものとする。
8 検察官は,1の合意をすることにより明らかにすべき他人の犯罪事実について司法警察員が現に捜査していることその他の事情を考慮して,当該他人の犯罪事実についての捜査のため必要と認めるときは,6により供述を求めることその他の5の協議における必要な行為を司法警察員にさせることができるものとする。この場合において,司法警察員は,検察官の個別の授権の範囲内において,1による合意の内容とする1㈡に掲げる行為に係る検察官の提案を,被疑者又は被告人及び弁護人に提示することができるものとする。
二 合意に係る公判手続の特則
1 被告人との間の合意に関する書面等の取調べ請求の義務
㈠ 検察官は,被告事件について,公訴の提起前に被告人との間でした一1の合意があるとき又は公訴の提起後に被告人との間で一1の合意が成立したときは,遅滞なく,一4の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈡ ㈠により一4の書面の取調べを請求した後に,当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしたときは,検察官は,遅滞なく,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
2 被告人以外の者との間の合意に関する書面等の取調べ請求の義務
㈠ 検察官,被告人若しくは弁護人が取調べを請求し又は裁判所が職権で取り調べた被告人以外の者の供述録取書等が,その者が一1の合意に基づいて作成し又はその者との間の一1の合意に基づいてなされた供述を録取し若しくは記録したものであるときは,検察官は,遅滞なく,一4の書面の取調べを請求しなければならないものとする。この場合において,その合意の当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしているときは,検察官は,併せて,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈡ ㈠前段の場合において,当該供述録取書等の取調べの請求後又は裁判所の職権による当該供述録取書等の取調べの後に,一1の合意の当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしたときは 検察官は,遅滞なく,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈢ 検察官,被告人若しくは弁護人が証人として尋問を請求した者又は裁判所が職権で証人として尋問する者との間でその証人尋問についてした一1の合意があるときは,検察官は,遅滞なく,一4の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
㈣ ㈢により一4の書面の取調べを請求した後に,一1の合意の当事者が三1㈡によりその合意から離脱する旨の告知をしたときは,検察官は,遅滞なく,三1㈡の書面の取調べを請求しなければならないものとする。
三 合意違反の場合の取扱い
1 合意からの離脱
㈠ 一1の合意の相手方当事者がその合意に違反したときその他一定の場合には,一1の合意の当事者は,その合意から離脱することができるものとする。
㈡ ㈠の離脱は,その理由を記載した書面により,相手方に対し,その合意から離脱する旨を告知して行うものとする。
2 検察官が合意に違反した場合における公訴の棄却等
㈠ 検察官が一1㈡イからヘまでに係る合意(一1㈡ロについては特定の訴因及び罰条により公訴を提起する旨の合意に限る。)に違反して,公訴を提起し,異なる訴因及び罰条により公訴を提起し,公訴を取り消さず訴因若しくは罰条の追加,撤回若しくは変更を請求することなく公訴を維持し,又は即決裁判手続の申立て若しくは略式命令の請求を同時にすることなく公訴を提起したときは,判決で当該公訴を棄却しなければならないものとする。
㈡ 検察官が一1㈡ロに係る合意(特定の訴因及び罰条により公訴を維持する旨の合意に限る。)に違反して訴因又は罰条の追加又は変更を請求したときは,裁判所は,刑事訴訟法第312条第1項の規定にかかわらずその請求を却下しなければならないものとする。
3 検察官が合意に違反した場合における証拠の使用制限
㈠ 検察官が一1の合意に違反したときは,被告人が一5の協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述及びその合意に基づいて得られた証拠は,これらを証拠とすることができないものとする。
㈡ ㈠は,当該証拠を当該被告人又は当該被告人以外の者の刑事事件の証拠とすることについて,その事件の被告人に異議がない場合には,適用しないものとする。
四 合意が成立しなかった場合における証拠の使用制限
一1の合意が成立しなかったときは,被疑者又は被告人が一5の協議においてした他人の犯罪事実を明らかにするための供述は,これを証拠とすることができないものとする。ただし,被疑者又は被告人が一5の協議においてした行為が刑法第103条,第104条若しくは第172条の罪又は組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第7条第1項(第2号に係る部分に限る。)の罪に当たる場合において,それらの罪に係る事件において用いるときは,この限りでないものとする。
五 合意の当事者である被疑者又は被告人による虚偽供述等の処罰
1 一1㈠イ又はハに係る合意をした者が,その合意に係る他人の犯罪事実に関し当該合意に係る行為をすべき場合において,検察官,検察事務官又は司法警察職員に対し,虚偽の供述をし又は偽造若しくは変造の証拠を提出したときは,5年以下の懲役に処するものとする。
2 1の罪を犯した者が,その行為をした他人の刑事事件の裁判が確定する前であって,かつ,その合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白したときは,その刑を減軽し又は免除することができるものとする。

経済事犯等に限られると言うが,詐欺などメジャーな罪名も入っていて,刑事事件のうちの相当部分でこの制度が使えることになる。

これをザッと見て感じるのは,この制度を利用して,捜査側のストーリーに沿った供述(証言)固めがしやすくなるということと,起訴されたくない気持ちから捜査側が見立てたストーリーに乗っかって真実でない供述(証言)をしてしまうケースが多発するだろうということ,そして,弁護人の立場としても,担当している被疑者が捜査側のストーリーに乗っかって他の被疑者の犯罪事実の立証の手助けをしようとした場合,どのように対応すればいいのか非常に困難な課題を抱えるということだ。

弁護人の責任も増す制度であるといえるが,弁護士の間ではあまり話題になっていない。可視化のアピールはよく耳にするが,司法取引への賛否とか,司法取引が導入されたらどう対応するかということは,そこそこ刑事弁護に取り組んでいる弁護士の間でも普段あまり議論されているわけではない(もちろん,議論しているところもあるのだろうが)。

こういう制度を導入していいのか,誰がどこで議論して,法改正の手前まで来てしまったのだろうか。弁護士会としては,可視化実現のためには,譲らなければならない制度だったのだろうか。ちょっと,いや,かなり不安を感じる。

名古屋高裁金沢支部が金沢地裁の裁判員裁判判決を破棄

金沢地裁の裁判員裁判判決,初めての破棄!

自宅放火、男に猶予刑 石川県内初、裁判員判決を破棄 名高裁金沢

自宅に火を放ち全焼させたとして、現住建造物等放火の罪に問われた本籍金沢市、無職 ◆◆◆◆被告(51)の控訴審判決で、名高裁金沢支部(彦坂孝孔(たかのり)裁判長)は17日、懲役3年6月(求刑・懲役5年)の一審金沢地裁の裁判員裁判判決を破棄し、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。裁判員裁判の判決が破棄されたのは石川県内で初めて。
判決理由で彦坂裁判長は「精神障害が犯行に大きく影響を及ぼしていることは明らかである」と指摘。心神耗弱状態であったと認めながらも、量刑を決めるにあたって十分考慮しなかった一審判決には誤りがあると指摘した。精神障害の内容に踏み込むことになった今回の裁判について、弁護人は「裁判員裁判で、市民がいきなり科学的な内容を評価するのは難しいのではないか」と述べた。

判決によると、被告は昨年2月10日夜、自宅で遊ぶおいを静かにさせるよう被告の父に求めたが、聞き入れられずに憤慨。1階和室の布団に灯油をまいて火を付け、自宅を全焼させた。

私は,この事件,特に注目していたわけではなかったが,この事件が金沢地裁の裁判員裁判の初の破棄ケースとなった。

4月18日付の北國新聞本紙(朝刊)には,上記の記事のほか,元大阪高裁判事の江藤正也弁護士(金沢弁護士会)の見解も取り上げられている。江藤弁護士は,市民の常識だけで法的な判断をするのが難しい場合もあることを指摘している。

私の考え(まだ煮詰まってませんが…)

私も,裁判員裁判における責任能力の扱われ方には難しさを常々感じている。私は,裁判員裁判の判決文原典に当たって細かく検討しているわけではないが,報道ベースでは,どのような事件類型がどのように扱われ,どのような争点・主張がどう扱われやすいかということについて,着目し続けている。

その中で私が感じるのは,よく,裁判員裁判の判決は,「確かに被告人は法律的には心神耗弱にあたるが,刑は特段軽くする必要がない事例である」という考え方をしていることがわりあい多いのではないか,ということだ。精神障害が犯行に与えた影響についての判断とナチュラルな処罰感情との切り分けが,一般市民には容易ではないように思う。事案を計算式に当てはめて答えを導くべきところなのに,答えが先にあって無理に理屈を付けるとひずみが出てしまうということだろう。

でも,答えを決めてから理由をつけていく,というやり方自体は,むしろ多くの法律家(特に裁判官)が身につけているテクニックではある…。裁判員裁判の出した結論とその理由づけが,裁判官的な理屈でフォローしきれないところまでに逸脱しているとさすがに控訴審で破棄ということになるのかなぁと私は何となく思っている…。

そういう意味では,逸脱やブレがあっても滅多には破棄されないから,裁判員裁判でおかしな見方をされて判決を出されても,それを控訴審で取り戻すのは困難かなと思う。現在の名古屋高裁金沢支部がそのへん(裁判員裁判の判決の破棄)について柔軟ならよいかなぁと私は思うのだが…。

逮捕情報の公表・報道はどうあるべきか?

※記事をお読みになるにあたっての注意点※ 金沢法律事務所(弁護士 山岸陽平)では、「逮捕されたとき(起訴、判決時)の報道発表を食い止める」という弁護活動を行っていませんのでご了承ください。

被疑者は報道によってダメージを受けることが多い

刑事事件の弁護をしていると、自分や家族の逮捕が報道されたかどうか気にする人が非常に多いです。

人によっては、逮捕されたという事実そのものよりも、逮捕されたことが報道されたという事実により精神的ダメージを受けます。また、精神的ダメージだけではなく、経済的なダメージにも結び付きやすいです(勤務先を自主退職に追い込まれたり、現実的に客商売ができなくなるなど)。

特に、ムラ社会なコミュニティにおいて実名報道がされると、非常に厳しいものがあります。

このように、報道により被報道者(=ここでは被疑者)が受ける損害はただならぬものがあると言ってよいでしょう。

なかには、逮捕されずに、略式命令(略式起訴)で罰金を科せられて終わる刑事事件もありますが、そういう取扱いと逮捕された場合の感覚は、天と地ほどの差があると言っても過言ではありません。前科としては、まったく同じ意味を持つのですけどね…。

事件報道により報道の受け手が享受する利益は?

一般に報道機関による報道は、国民(市民)の知る権利に資するものです。

ここで、知る権利と言っても、他人が隠したいことを興味本位で暴くということを実現するための権利ではありません。

事件報道の関係では、何を実現するために「知る」意義があるのでしょうか。

それは、まず、行政(警察も行政です)が間違いなく仕事をしているかチェックするためです。以前の記事でも書きましたが、逮捕されるべきでない人を逮捕しておいて、そのことについて警察が発表もしなければ、行政に都合が悪いというだけで根拠なく逮捕しても、その是非が検証されずにうやむやにできてしまうおそれがあります。国民主権のもとで警察も動いているので、警察が何をしているのか国民が知るのは当然だという考え方です。

また、凶悪な事件に関しては、周辺住民が身を守るため、という理屈立てもあるかもしれません。あとは、ぶっちゃけて、誰が犯罪に手を染めたのか知って警戒するため、という欲求が大きいかもしれません(いや、しかし、私は、それを逮捕直後、警察発表に基づいてやるのはどうなんだろう…と思います)。

石川県における報道の問題点

北國新聞、北陸中日新聞

北國、北陸中日の2紙は、警察発表を基本的にそのまま記事にしているようです。

ですから、非常に微小な案件でも、ほぼ漏れなく実名で掲載されます。たとえば、数十円の物品の窃盗や運転免許証の提示拒否で逮捕されても掲載されます。(ごくたまに、逮捕されても掲載されていない案件もありますが、どのような基準で漏れ落ちているのか詳しいことは知りません。そのような案件も、勾留段階や起訴段階で検察庁が報道機関に情報提供して載ることがあります。)

これにより、石川県では、逮捕された場合、周囲の人は基本的にみなそれを知っている(報道されなければ運がいい?)、という前提になってきます。

この2紙は石川県内でのシェアが高く、多くの被報道者(被疑者)にダメージを与えているといえます。

警察がしっかり発表していなかったり、マスコミがちゃんと取材できていなかったりして、事件のあらましや被疑者の言い分が誤って報道されていることもしばしばありますが、後日訂正されることはほとんどありません(訂正を兼ねて再度報道されるのもイヤでしょうし、あまり初期報道に抗議することは多くないというのもあります)。

ただ、北國新聞と北陸中日新聞は、紙面に載せた逮捕情報をそのままインターネット掲載するということはありません。さすがにそれをすると大変なことになる、ということをわかってるんでしょう…。

ネット掲載

多くの事件は、北國・北陸中日の逮捕時の報道だけで終わります(場合によっては、勾留の有無や裁判の報道もあります)。しかし、地元テレビ局や全国紙の支局記者が注目する事件になると、テレビで流れたり、インターネットに掲載されたりします。

どういう事件がそうなりやすいかというと、

1 結果が重大な事件(人が死亡した場合、重傷を負った場合、大きなお金が絡む場合)

2 関係者(被疑者や被害者)の職業や知名度などにニュースバリューがある事件

3 連続的な犯罪の場合

4 ちょっと変わった方法での犯罪の場合(目につきやすい、ネタにしやすい等)

といったところでしょうか。

地元テレビ局には報道したニュースを掲載するサイトを用意しているところも多いですが(ITC、MRO、HABなど)、北國新聞や北陸中日新聞のように原則全件報道というわけではありません。ですので、結局のところ、報道機関がニュースバリューありと判断したものがネットに載り、後日逮捕情報が検索しやすい状態で残ってしまうという形です。

「社会的制裁」のありようが地方によって大きく異なるのもおかしな話では

社会的制裁については、正式裁判になっても判決では大きく考慮がされることはほとんどありません。

「報道によって仕事を辞めなくてはならなくなった」というのなら、まぁそれも考慮するか、という程度であり、「報道により社会復帰に支障をきたしている」という漠然とした主張では取り上げてもらいにくいと言っていいです。

しかし、既に述べたとおり、逮捕時の実名報道が実質的な社会的制裁になっていることは間違いないところです。周りを気にせず生きていけばいいといえばそうなのかもしれませんが、みんなが周囲を気にするような社会であればなかなか難しいところです。

こういう取扱いが公の議論の結果、各都道府県でなされているのなら、それは根拠のある扱いなのかと思うのですが、実際には各都道府県での取り扱いについてそんな議論がなされた経緯は聞いたことがありません(全国メディアでは、被疑者の実名報道の基準について議論されたことがあるようですが、地方紙についてはどうなんでしょう…。そもそも特定トピックについて各県で議論してることがあまりないですよね。)。

「公の機関が発表しているから、基本間違いない」、「警察が実名で発表するから、載せない理由はない」、「疑われるようなことをした者にも責任はある」、「知りえた情報を載せることで部数を稼げるなら載せる(ライバル紙も載せているし、載せなくなったら部数が奪われる)」、「警察の顔を立てることで、取材もしやすくなる」というようなのが現実的な理由で、たいした議論もなく続いているのかなと思っています。

私は、各都道府県の地元紙の報道のありかたを熟知しているわけではありませんが、全都道府県で、同じような事件を起こした時に、報道されるかされないか、大きな違いがあることは確実です。特に、大都市部と田舎県では大きな違いがあるでしょう。

各都道府県の報道機関や警察の取り扱いによって、被疑者被告人がどれだけ実質的な社会的制裁を受けるか大きく異なるというのも、ちょっとおかしな話だと思っています。

逮捕情報のネット掲載(匿名)をしている警察もある

ここで私が注目しているのは、匿名で逮捕情報をネットに掲載している自治体警察の存在です。

たとえば、北海道警青森県警長野県警大阪府警奈良県警広島県警島根県警山口県警愛媛県警福岡県警佐賀県警長崎県警です。他にもあるかもしれませんが、ざっと。

全件載せているかどうか、これ以外の報道機関向け発表はどうなっているか、という問題もありますが、これで「行政の動き」としては把握できるし、報道機関が警察からの「又聞き」で被疑者の言い分をもっともらしく発表する→そしてだれも「誤報」の責任を取らないという流れに比べれば、警察が自己の言い分を発表しているということですっきりします。

こうやって行政機関が直接国民・市民に情報を提供することができるようになっているわけで、こういう仕組みを生かして、行政は国民・市民のチェックを受けてほしいと思います。地元報道機関に対して発表するのでそれを通じてチェックしてもらえればいい、という考え方も全否定はしませんが、時代に合わせた工夫の仕方があるのではないかと考えます。

これについては、また機会があればさらに書きたいと思います。

だまされ、お金を振り込んでしまう高齢者。石川県でも…。

弁護士装う詐欺事件が相次ぐ

NHK金沢 01月30日 21時39分

弁護士を名乗る男などからお年寄りの自宅に電話がかかり、現金をだまし取られる被害が金沢市で2件起きていたことが新たにわかり、警察は詐欺事件として捜査するとともに不審な電話に注意するよう呼びかけています。
警察によりますと、今月23日、金沢市に住む70代の女性が「商品を購入するために名前を貸してほしい」と電話で頼まれ了承したところ、翌日、弁護士を名乗る男から電話があり、「あなたの行為は犯罪にあたる」などと言われ、指定された口座におよそ350万円を振り込んだということです。女性は今月27日にも弁護士を名乗る男の指示で500万円を振り込み、あわせておよそ850万円をだまし取られました。
また、ことし1月中旬には、金沢市で独り暮らしをしている80代の女性が「名義を貸してほしい」と電話で頼まれ了承したところ、東京の警察官を名乗る男や弁護士を名乗る男から電話があり「名義を貸した男が逮捕された。あなたの土地や建物は差し押さえられるかもしれない」などと言われ、2回にわたって、あわせて140万円を郵送し、だまし取られたということです。
県内では28日、警察官を名乗る男から銀行の口座番号や預金残高を聞き出そうとする不審な電話が29件あったことがわかっています。
警察は詐欺事件とみて捜査するとともに、不審な電話があった場合はすぐに警察や家族などに相談するよう注意を呼びかけています。

最近、こういう犯罪多いですね。

狙われやすいのが高齢者の女性です(それだけとは限りませんが)。

警察官、弁護士、司法書士、裁判所、大企業の系列の会社など、信用できるふうを装って電話してきたり、手紙を送ってきたりする者もいるので、注意したいものですね(と言っても、だまされてしまう人は、だまされようとしているときに、ネット検索で確認したりしないんだよなあ)。

 

この記事の例もそうですが、最初の勧誘に乗ってしまうと、その勧誘とは別人がいろいろと理屈をつけてさらにお金を払えと言ってくることがあるんですね。

「だまされたお金を取り戻すために、依頼費用として○○円振り込んで下さい。」、

「だまされて買わされた権利を○○円で買い取りますが、証拠金として○○円振り込んで下さい。証拠金なのですぐに返します。」、

「あなたの名前を使って違法なことがされているので、それを解決するために○○円支払って下さい。」というような…。

こういう、取り戻したい心理はギャンブルで出てくる心理に近いです。

やめたほうがいいです。最初の勧誘で払ったものは、そういう方法では取り返せないと思ったほうがいいです。

 

生涯教育として、「だまされないための教育」が必要だと思うんですけど、どうでしょうね。

それに加えて、だまされてるかどうか、高齢者にアドバイスする組織を作ったらどうですかね。消費生活センターという名前だと、何かを買ってお金を出したときには、相談先として思いつきますが、この記事の例では難しいんですよね。警察は、事件が起きてから相談する場所というイメージがありますが、高齢者がもっと事前に気軽に相談できるように周知したらどうですかね。

そうしないと、今後もだまされる高齢者が増え続けるばかりです。

 

追記:

富山県でも同じような被害が報道されていますね。

環境とか、リサイクルとか、福祉とか、聞こえのいい言葉はむしろ疑ったほうがいいです。

少なくとも、口先の勧誘で何百万円も支払ったらいけませんわ。。

株購入詐欺で2010万円被害

NHK富山 01月31日 10時43分

「限られた人しか買えない会社の株を代わりに買ってくれれば謝礼を払う」と言われ、魚津市の80代の男性が2010万円をだまし取られていたことが分かり、警察が詐欺事件として捜査しています。警察によると、魚津市に住む80代の男性は、去年11月、知らない男から「あなたには太陽光発電を手がける会社の株を買う権利があるが限られた人しか買えないので代わりに買ってくれれば謝礼を払う」と電話を受けました。
男性はこの電話を信じ、すぐに、会社に株の購入を申し込んで代金として900万円を送付しました。数日後、男性のもとに同じ男から再び電話があり「違法な取引と指摘されたので損害賠償しなければならない」と言われ、去年12月、指定された場所に現れた男に解決のため、現金1110万円を手渡したということです。
男性は合わせて2010万円をだまし取られ、その後、電話してきた男や会社と連絡が取れなくなったため、30日警察に届けました。警察は詐欺の疑いで捜査するとともに、同様の被害に遭わないよう注意を呼びかけています。

裁判員裁判での量刑が重くなる理由

求刑超える判決、裁判員裁判で急増…評議検証へ

裁判員裁判で被告の量刑を話し合う評議の進め方について、全国の60地裁・支部が初の検証に乗り出すことが分かった。

裁判員制度の導入後、検察の求刑を上回る判決が増え、裁判官らの間で「他の裁判員裁判の量刑と不公平が生じる」との懸念が強まっており、裁判官が量刑の決め方などを十分に裁判員に説明できているかどうか調査する。各地裁は今夏までに検証を終える予定で、評議のあり方の見直しにつながる可能性がある。

裁判員制度が導入された2009年5月から13年10月までに判決が言い渡された5794人のうち、約50人に求刑を超える刑が言い渡された。年平均で約10人に上り、裁判官裁判時代の平均2~3人を大きく上回る。

例えば、女児の頭を床に打ちつけて死なせた傷害致死事件では、「児童虐待には厳罰を科すべきだ」として、両親に求刑(懲役10年)の1・5倍の懲役15年が言い渡された。姉を包丁で刺殺した発達障害のある男が、再犯の恐れがあることを理由に、求刑を4年上回る懲役20年とされたケースもある。

検察側は過去の裁判例を踏まえ、判決で被告に有利な事情が考慮されて刑が軽くなることも想定し、求刑を重めに設定することが多い。求刑を上回る判決が増えたことに対し、裁判官や弁護士からは「他の裁判員裁判の被告との間で不公平が生じる」と危惧する声が多く上がっている。

裁判所が目指すのは、過去の裁判例を踏まえた適正な量刑判断だ。裁判員制度の導入直後は、裁判官が裁判員に、〈1〉犯行形態〈2〉被害の大きさ〈3〉犯行の計画性や動機――などの要素を踏まえることを説明し、過去の類似事件の量刑を集めた「量刑検索システム」も参考にして量刑を判断するものと考えられていた。

しかし、求刑を上回ったケースでは、「どのような要素を重視して刑を重くすべきだと判断したのか不明確な判決が散見される」(最高裁関係者)という。

このため、各地裁の検証では、裁判所法で定められている「評議の秘密」に触れない範囲で、個々の裁判官に、量刑の判断方法を裁判員にどう説明し、量刑検索システムをどう活用しているのか発表してもらい、その後、裁判官同士で評議のあり方を議論する。

東京地裁ではすでに裁判部ごとに検証を始めた。各地裁の検証結果を踏まえ、最高裁でさらに議論される。最高裁関係者は「今回の検証は、より充実した評議を実現するためで、裁判員の市民感覚を尊重する姿勢は変わらない」と話している。

【評議】 裁判員と裁判官が、被告の有罪・無罪や量刑を話し合い、結論を導き出す議論。通常、証人尋問や被告人質問を経て結審した後、裁判官を進行役として行われる。ただ、非公開で、内容について守秘義務も課せられており、どのような議論を経て刑を決めたのか、その経緯を外部から把握することは難しい。最高裁によると、1事件での評議の平均時間は約9時間半。

(2014年1月29日07時34分 読売新聞)

裁判員による裁判で量刑が極端に重くなる理由は、裁判員が「相対的な思考」を取っていない場合があるからではないだろうか。

「相対的な思考」とはどういうことか、単なる私の思いつきだが、常々考えていることなので、この機会に書いておきたい。

裁判員は、「犯罪者」を裁いた経験がないので、「目の前にいる被告人が(罪を犯したことが認められるとして)、相対的に言ってどれだけ悪質なのか」ということが直観的にわからない。

また、裁判員は、裁判所で刑事裁判にかかっている事件(裁判員裁判以外も含めて)が、どんな量刑相場で判断されているのかも、あまり知らない。

そうすると、裁判員が判断材料にするのは、裁判所が用意した同じ罪名の量刑データ、検察官の主張、弁護人の主張、被告人の言動、そしてもちろん犯罪に関する事実経過、ということになる。場合によっては、ここに被害者参加人も加わる。

そうしたときに陥りがちなのは、次のような流れだ(ここでは量刑を問題にしているので、否認事件ではなく自白事件を例に取る)。

 

1 検察官が犯罪の内容の説明をするので、裁判員はそれをモニター画面でビジュアル的に見ながら聞く。裁判員は、「こんな事件なのか。これはひどい、悪質だ。」と考える。

(裁判員裁判にかかる事件は、そもそも重大な罪名なので、類型的に悪質な事案がほとんど。)

2 裁判員は、検察官の論告・求刑を聞く。「犯行態様などは悪質。動機に酌むべき点はナシ。反省の態度を示しているのは当然であって考慮する必要性ナシ。被害者は厳罰希望。全体的に見て情状酌量の余地ナシ。」というのが検察官論告の基本線だ。その上で、検察官は、裁判員制度においては、悪い情状について特に強調すべき点があれば、裁判員に強くアピールする。その上で、「求刑」を言う。裁判員は、「正論だ。確かに悪質。こんな犯罪を起こすなど身勝手極まりない。」と思う。

 (ほとんどの事件は、「起こしても仕方がなかった事件、非常に同情すべき被告人」とはならない。ただし、介護殺人系の場合は、検察官の主張が緩やかなことがある。また、男性に従属的に行動した女性の場合には非常に同情視されるストーリーで起訴されるケースも散見されるが、男性の被告人の場合には「従属的な立場だった」というストーリーを検察官はめったに立てない。)

3 被害者参加人がいる場合、検察官よりもさらに重い量刑意見を述べる場合が多い。本来は、検察官も被害者の被害感情をよく聴き取ってそれを求刑に反映させている。ただ、裁判の場では、被害者は、検察官とは別に量刑意見を述べることができるので、検察官の主張にさらに厳しい被害者の意見を付け加える形になる。

 (裁判体によっては、被害者が述べた量刑意見を検察官の求刑と同じくらいに重要視するという流れが作られる。特に、「検察官の求刑は被害者の考えを十分に酌まないものだ。」という受け止めがされた場合、「被害者の意見を重視すれば、検察官の求刑以上の刑もありうる。」と裁判員が思うことにつながる。)

4 弁護人は、検察官が被告人に不利な事情を挙げるのに対し、被告人にとって有利な事情を挙げていく。被告人が事件を起こすまでのいきさつ、被害弁償や反省の状況など。

(有利な事情といっても、不利な事情を打ち消すほどのものは通常ないので、検察官の主張に真っ向から立ち向かうように主張すると、逆に「検察官の言ってることの方がもっともだ。」と思われて説得力を感じてもらえなくなる。また、裁判員の中には、被害弁償や反省をするのは当然のことであり、有利な事情として取り扱うのもおかしい、という直観を有している人がいることもある。)

 

このような流れの中では、「この被告人の事件は、相対的にどれだけ悪質なのか?」ということがほとんど考えられていない。

犯行は極めて悪質 → 被害弁償や反省も犯罪の大きさからすれば重視できない → 特に酌むべき事情もない → 同種の量刑データを参考にするにしても重い方に位置付けよう(少なくとも、平均より軽いなんてことは言えない)

と、情緒的に流れやすい。

 

しかし、そうした過去の量刑データ(裁判例)自体、

1 重大な犯罪類型に属する、すなわち極めて悪質なものが多い事案についてのものであり、

2 そのほとんどが「起こしても仕方がなかった」なんてことは言えない「身勝手な犯行」であり、

3 被害者の意思が厳罰希望であればそれも踏まえて判断がなされており、

4 被害弁償ができたケース・できなかったケースに分かれていて、できなかったら重い方向にできれば軽い方向に考慮されていた

のである。

 

このことを踏まえて考える、すなわち、「相対的な思考」ができていないと、「とにかく悪質な事案で、有利な事情は一応あるが事件の重大性に比べればほとんど無視してもよい程度の微々たる事情でしかなく、刑を軽くする事情として挙げるのも難しい。」というふうになりがちである。

そして、中には、検察官の求刑の中に被害者の意見が十分に取り入れられていないと感じ取った裁判員が、求刑以上の量刑を主張することがあるのだと思う(確かに、被害者の被害状況や意見が相当重視されるべきであることは言うまでもないことだが、他の要素をかき消して、相対的な判断ができないほどになると問題である。)。

 

しかし、これは、裁判員になった人たちが責められるべきというものではなく、普段「被告人」、特に重い罪に問われた被告人を見慣れていないので、仕方ないと思う。突然、人の死亡が関わる事案で被告人を裁けと言われ、検察官から事案を聞かされると「一般人がしないようなことをする悪人」としか思えないし、そういうことをした人にとっていかに「有利な事情」を挙げても、「そもそもそんな悪いことをしたのがおかしい」、「悪いことをしておいて被害回復をしたといっても、当然であり、むしろ足りない・遅いくらいだ」と思うのも当然かもしれない。

 

こうして、「量刑相場」に照らして軽い判断は出にくい一方で、重い判断は出しやすいので、厳罰化が進むのだと思う。

(もちろん、「陥りがちな流れ」というだけであって、しっかり相対的に判断できている裁判体も多いとは思う。)

 

これは、弁護人(弁護士)のやり方が良くない、というのもあるかもしれない。組織一丸で裁判員制度対策ができる検察庁・検察官と比べて、組織一丸とはいかない弁護人(弁護士)の立場があって、個別の事件ごとに弁護人が「まずい意見の出し方」を繰り返している可能性もある。

弁護人(弁護士)も研鑽を積もうとしているが、自主努力になってしまうし、被告人にとっては国選でつく弁護人は選べないから、裁判員の考え方や評議のあり方をよく理解した弁護人がつくかつかないかで差が出る可能性がある。

そうすると、弁護士の研鑽が行き渡るのを待つというのでは遅いので、こうやって裁判所が評議のあり方を検討していくということは、裁判員制度を維持するのであれば非常に重要なことであると思う。

水戸地裁で裁判員8人全員解任

裁判員ら8人全員解任、全員が辞任申し出 選任やり直しへ 水戸地裁
2014.1.15 21:28
 水戸地裁で17日に判決言い渡しが予定されていた裁判員裁判で、補充を含む裁判員8人全員が15日までに辞任を申し出た。地裁はこれを認めて全員を解任し、同日、新たに裁判員候補者の選任手続きをやり直すと発表した。こうしたケースは極めて異例。

 この裁判は、昨年9月に茨城県ひたちなか市の木造2階建ての自宅に火を付けて全焼させたとして、現住建造物等放火罪に問われた男(65)について審理していた。

 地裁は9日、裁判員6人と補充裁判員2人を選任。初公判があった14日までに、裁判員1人と補充裁判員1人が辞任を申し出て、地裁が認めて解任。その後、論告求刑が予定されていた15日にも、開廷前に裁判員1人が辞任を申し出て地裁が認めた。

 裁判員が6人に満たないため、地裁が公判期日を取り消したところ、残りの5人からも辞任の申し出があった。

1月14日が公判の初日、15日が論告求刑、16日が評議で、17日が判決言い渡しの予定だったのだろう。

1月9日に裁判員を6人と補充裁判員2人を選任し、初公判までに2人が辞任を申し出た時点でギリギリ。判決言い渡しまで乗り切らなければならないところ、途中で辞任申出者が出た時点で、続行不可能。

公判期日を取り消し、改めて先の期日に公判を入れる流れを説明したところ、裁判員全員が「私たちはそんなにヒマじゃない。休めない。」と言い出したという流れか…。

私が経験した裁判員裁判でも、裁判員6人と補充裁判員1人が選任されていたところ、公判期日に1人が辞任を申し出、公判期日を補充裁判員なしで乗り切ったことがあった。

そのときは、ここで誰かが辞任を申し出たらどうなるだろう?と疑問に思っていた。公判1日、評議半日の事件でも甘く見ると危険ということだ。

補充裁判員の人数を決めるのは裁判長の裁判官だが、見込みが甘いと、このような自体が生じるのだと思う。

今回辞退した水戸地裁の裁判員は何か理由があって辞任を申し出たものであろうと思う。ただ多くの人たちが当初の召集にも応じずに選任されなかったり、選任手続で辞退事由を主張して結果的に選任されないのに対し、当初そういった主張を堂々とできずに裁判員に選任されてしまった人たちが選任されてから後悔し、土壇場で辞退するのは、「なんだかなぁ」と思う。

裁判員制度には、国民の感覚が評議や判決に反映されるというメリットはあるとは思うが、他方、どこまで責任感を持った判断をされているのだろうと疑問に思うこともある。

本音では、「裁判員やりたくない」という考えを持つ人が多いのだろう。そのような人が多い中で、選任に応じる積極的な人や拒否できない人ばかりが裁判員になるいびつさ。そして、罰則が怖くて渋々選任に応じているが内心やりたくない人の多さ。私は、この状況を「国民の意識の反映」などと手放しで称賛することはできない。