家庭裁判所の調停で注意すべきこと

どんなときに家庭裁判所で調停をするか?

家庭裁判所で調停(家事調停)をするのはどのようなときでしょうか?

これは、一言でいえば、「家族関係・血縁関係についての話し合いをするとき」です。

夫婦間の話し合い

まず、多いのは、夫婦間の話し合いです。

夫婦間の話し合いの項目としては、離婚をするか否かについて、子の監護養育について、養育費について、婚姻費用について、親権者について、財産分与について、などがあります。

離婚が絡む場合は、離婚した後の話もしますし、離婚するまでの間についての話もします。

相続人同士での話し合い

次に多いのは、相続人同士での話し合いです。

誰かが亡くなったときには、誰がどのように財産を相続するか、遺産相続(遺産分割)の話をしなければなりませんが、その話し合いがまとまらないことがあります。

そのようなときは、家庭裁判所で、調停を開き、話し合いをすることになります。

それ以外の調停

それ以外にも、子どもの認知、親子関係の不存在確認、夫婦円満などの調停があります。

誰が調停に参加するか?

  • 申立人(話し合いをしたいと言っている側)
  • 相手方(話し合いの相手)

申立人・相手方とも、1人でもいいですし、複数でもかまいません。ただし、裁判所の手続費用は増加します。このほか、「利害関係人」といって、紛争に関係すると思われる人が参加する場合もあります。

よく、離婚の話では、親御さんが当事者の代わりに話をしたがることがありますが、裁判所の手続上は、当事者本人(または付き添っている弁護士)が意思を述べるのが大原則になります。よって、事情にもよりますが、多くの場合は、親御さんの関与は待合室のご同行までです。

話し合いはどのように行われるか?

別席調停が多い

事案の種類にもよりますが、調停に持ち込まれる事案は、争いがあって同席をすることが難しい場合が多いので、別席調停となることがほとんどです。

ただし、平成25年から始まった家事事件手続法の運用では、基本的に同席でするとされている事柄もあります。東京家裁は、つぎのとおり説明しています。

調停期日の始めと終わりに,双方当事者本人が調停室に立ち会った上で,裁判所から,手続の説明,進行予定や次回までの課題の確認等を,また,成立・不成立等により事件が終了する際の意思確認を行います。これは,家事法制定の趣旨の一つである,調停手続の透明性の確保の観点から,主体的な合意形成の前提となる,手続の進行状況や対立点,他の当事者が提出した資料の内容等について,両当事者と裁判所が共通の認識を持つための取り組みです。手続代理人が選任されている場合でも,出頭した本人に手続等の内容を理解して頂くために,代理人のみではなく,双方当事者本人に立ち会ってもらい確認,説明を行います。
ドメスティック・バイオレンス(精神的暴力,性的暴力も含みます。)等の問題が窺われる等により立ち会うことに具体的な支障がある場合は実施しませんので,そのような場合には,「進行に関する照会回答書」(2の書面)に具体的な事情を記載してください。また,一律,硬直的な扱いではなく,事案等に応じて柔軟に実施してまいりますので,ご協力をお願い申し上げます。

要するに、調停期日の各回において、始まりと終わりに、当事者全員が立ち会って、いろいろなことを確認します、ということです。

ただ、当事者のいずれかが難色を示した場合は同席させないで説明・確認をする場合も多いと思われます(平成25年以降、金沢家裁で私が関わった事件では、同席確認をしなかったことのほうが多いです)。

別席調停の方法

さて、別席調停の仕方ですが、多くの場合、申立人と相手方が30分程度ずつ交互に調停室に入り、調停委員2名(男女)と話をします。調停委員は、聞き取った話を元に、着地点を探ります。双方当事者が、調停室への出入りを繰り返す中で、調停委員と話をして、対立当事者との歩み寄りを模索するわけです。

多くの場合、1回の期日は2~3時間となります。その日に話し合いがまとまらなければ、次の日程を決めて、その日はおしまいになります。

どのような方が調停委員になっているのか、どんな形で調停が進むのかについては、NPO法人シニアわーくすRyoma21の上平慶一氏のエッセイを参考になさるとよいでしょう。

成立と不成立

何らかの形で話し合いがまとまった場合には、調停調書に、決まったことを書き記します。これを調停の「成立」といいます。

調停は、話し合いですので、話し合いが全くまとまりそうになかったり、どちらか一方がもう話し合いをしないと宣言すれば、「不成立」ということで、終わってしまいます。

不成立の場合には、そのまま終わってしまうものもありますが、事案によっては、「審判」の手続に自動的に移行します。

このほか、申立人が調停を取り下げた場合には、そこで調停は終わります。

調停で注意すべきこと

調停は、訴訟に比べれば、一般人でも申し立てやすい手続です。しかし、実は、弁護士でも一筋縄ではいかないことの多い手続です。

家事調停に臨むにあたって、どの場合でも注意すべきことを以下に書き出してみました。このほかにも、個々の事案ごとに、注意すべき事柄はあると思われます。

対立当事者が何を言っているのか正確に把握すること

別席調停では、調停委員を介しての話し合いにならざるを得ません。調停委員は、学識・経験を認められて裁判所から選ばれているのですから、基本的には信頼でき、対立当事者(申立人←→相手方)の言っていることをおおむね正確に伝えてようとしてくれていると思っていいのですが、それでも不正確な点が含まれることもあります。

調停委員は、和解を模索する役目がありますので、双方への伝え方を工夫されています。その中で、やんわり伝えようとしたり、調停委員なりの提案を付け加えようとしたりする中で、正確性が失われやすいと思われます。

よって、対立当事者の言っていることが正確に表現されていないのではないかと思ったら、率直に指摘して、再確認をしてもらったほうがよいです。

調停は口頭で進みますので、ボタンの掛け違いが起こったら、時間を浪費してしまいますし、合意できないような状況になってしまうこともありますので…。

不成立になった場合にどうなるかを常に考えること

調停は「話し合い」ですから、双方がYesと言ったことだけが調停調書の中身になるわけです。

しかし、だからといって、「自分の気に入らないことは全部Noだ」と言っていると、のちのち大変なことになる場合があります。

「調停で決まらないときには審判で決めなければならない」と法律上決められている事項について、調停が不成立になったら、誰かが「No」だと言っていても、家庭裁判所が審判をして決めてしまうことがあります。たとえば、結婚していながら別居しているときの婚姻費用であるとか、遺産分割がまとまらないときであるとかは、自動的に審判に移行します。

家庭裁判所の審判の内容は、調停で話し合いのされていたこととは原則無関係です。調停で話し合いが進んでいた内容とは全く異なる、意外な内容の審判が出されることもじゅうぶんありえます。

家庭裁判所が審判をすると、基本的にはそれに従わなければならなくなります。そうなってから「また調停に戻してほしい」と言っても、もう遅いということになります。即時抗告などの異議申し立ての手段もありますが、弁護士でも苦心する手続です。

ですから、もし調停が不成立になったらどういう展開になるか、ということを常に考えるべきだということになります。

調停調書の内容にこだわること

家庭裁判所の書記官は、最終的に調停での約束内容を記した書面を作ります。これを「調停調書」といいます。

調停調書の効力は、大きいものがあります。

たとえば、「AがBに毎月○○円支払う」という内容の調書になっていたときに、もしAがその額の支払いをしなければ、Bは家庭裁判所に申し立てて強制執行の手続をとることができます。

一般的な話し合い(裁判所での調停ではない)で上記のような支払い約束がされていても、すぐには強制執行をすることはできませんから、調停調書は強力です。

逆に言うと、調停の話し合いの中で「案」として出されていても、調停調書に書かれていなければ、「調停上の約束」ではないのです。

後日、「あのときの調停で、そういう話になったはずです。調停調書に書いてないのがおかしいのです。調停委員に聞いたり、調停委員のつけていたメモを見ればわかります」と言っても、手続上、調停調書ができあがるときに当事者みんなが内容をしっかり確認したことになっているのですから、難しいのです。

また、調停調書の文言(調停条項)の書き方によって、上記のような執行力(不履行の時に強制執行できる効力)をもつ場合ともたない場合に分かれます。

ですから、話し合いがまとまる方向で進んで、最後、調停調書を作るということになったら、内容にはこだわるべきですし、細かな言葉遣いにも注意を払うべきだということになります。

まとめ

  • 家事調停は、別席調停が多い。
  • 相手の主張、調停委員の提案など、正しく確認するよう努めたい。
  • 調停不成立の場合、審判に移行するかどうかを押さえておくべきである。
  • 調書の調停条項の書き方には細心の注意を払うべきである。

養育費・婚姻費用「算定表」とは何か?

婚姻費用・養育費のおさらい

今回は,全国の家庭裁判所で用いられている,婚姻費用と養育費の算定表についてご説明します。

まず,その前に,婚姻費用と養育費についておさらいします。

婚姻費用とは?

婚姻費用とは,結婚している夫婦について,対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

婚姻費用の中には,子どもの養育にかかるお金も含まれるため,結婚している間は,通常,子どもにかかる費用も含めて,婚姻費用の問題として解決します

別居をしている夫婦でも,離婚が決まるまでは,婚姻費用が発生します

法律的には,「夫婦合わせてかかるお金をどう分担するのか?」という考え方をします。このことを,婚姻費用の分担といいます。

より詳しく知りたい方は,私が婚姻費用について解説したブログを見てください。

養育費とは?

養育費とは,未成年者の子どもを監護養育している親が,監護養育していない親に対し請求することができる,子どもの監護養育のための費用です。

上で書いたように,結婚中も当然子どもを育てなければいけませんが,結婚中は婚姻費用として問題が処理されます。よって,養育費(だけ)の問題として浮上するのは離婚後です

裁判所では,養育費についても,婚姻費用と同じような考え方によって定められています。要するに,親同士の収入の差によって,養育費の額が大きく増減するというわけです

この考え方をより詳しく知りたい方は,私が養育費について解説したブログを見てください。

養育費・婚姻費用算定表とは何か?

養育費・婚姻費用算定表はどこで見ることができるか

養育費・婚姻費用算定表とは,これまで養育費・婚姻費用について説明した考え方をもとに,夫婦(元夫婦)の年収を当てはめたときに,養育費・婚姻費用がおよそ何円になるか,見やすくした表です。

裁判所(東京家庭裁判所)のホームページにも掲載されています。左のリンクをクリックしていただくと,裁判所のページが表示され,実際に使われている養育費・婚姻費用算定表を見ることができます

また,多くの法律事務所(弁護士の事務所)や各地の裁判所,法テラスなどにも,参照できるように置いてあることが多いです。

裁判所では算定表が重視されている

この算定表(及び算定表の元になる考え方)は,東京・大阪の裁判官が研究会を開いて作り上げたものであり,東京家裁・大阪家裁だけではなく,全国の家庭裁判所がこれを参考にしています

養育費・婚姻費用が訴訟や家事審判で決まる場合には,裁判官や家事審判官がこの算定表に重きを置いて額を決定することが非常に多くなっています

養育費・婚姻費用が家事調停で決まる場合にも,多くの弁護士や調停委員は,この算定表を参考にします。弁護士や調停委員には,この算定表に対して賛成意見と反対意見がありますが,裁判所が重視している算定表ですので,無視できないのが実情です。

なお,この算定表は,最大で子どもが3人のケースまでしか掲載されていませんが,子どもが4人以上いても,算定表の考え方を元に計算することが可能です。

算定表の額は絶対なのか?

よく,夫婦(元夫婦)の片方又は両方から,「自分たち夫婦(元夫婦)の場合,算定表のままではおかしいと思います。○○の事情があるからです。」といった意見が出ることがあります。

算定表は,あくまで統計を元に,標準的なケースで妥当する額を示していますので,そのような意見が出ることは当然だと思います。

しかし,裁判所の裁判官の多くは,この算定表は,「それぞれの夫婦には事情があり,完全に標準的なケースなどはない」という前提で,額の幅を持たせて作られているのだから,あまりに特別な事情がない限りは,額の幅のうちの最大限・最小限をとることで済む,と考えているように思います。これは,私が,何件も,養育費・婚姻費用の算定についての争いを扱った上で感じていることです。

一方の弁護士が増額方向での事情を挙げれば,もう一方の弁護士が減額方向での事情を挙げる……。そんなケースも多いなかで,裁判所は,基本的には算定表を基本に置きつつ,夫婦双方の事情を踏まえて額を決めていると思われます。

ですから,弁護士が付いたというだけで,大幅に額が増減するというものではありません。やはり,基本となるのは,夫婦(元夫婦)の収入額や夫婦ごとの事情です。しかし,養育費や婚姻費用の問題を抱えた方が裁判所や相手方に対し,適切なタイミングで適切な主張をするためには,養育費・婚姻費用について,裁判所の実務を理解している弁護士に依頼・相談するということは重要であるといえます。

養育費とは何か?

養育費とは

婚姻費用に引き続き,養育費についてです。

未成年者の子どもを監護養育していない親は,監護養育している親に対し,子どもの監護養育のための費用(養育費)を分担する義務があります(民法766条3項)。

養育費の支払いが問題になるのは,主に離婚後です。

婚姻中に別居しているときにも理論上は養育費を請求できますが,婚姻中の婚姻費用には配偶者の生活費と子どもの養育費の両方が含まれているので,まだ結婚している状態のときは,ふつうは婚姻費用という名目で請求します。

婚姻費用と同じく,養育費についても,「生活保持義務」(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)の考え方があてはまりますので,配偶者が特段困窮していないような状況でも,同程度の生活になるように支払わなければならないのです。

逆に言えば,法律的な考え方からすれば,子どもを監護しない親が,子どもを監護する親に対して,子どもを監護するための費用の全額を支払わなければならない,ということもありません。あくまで,子どもを監護する親と子どもを監護しない親の負担の調整をするものだということです。

養育費はいつまで支払うべきなのか?

裁判所の原則論・一般論としては,成人(現在は20歳)に達した者は自分で生計を立てるのが原則であり,子どもが成人に達した後は,「生活保持義務」の考え方に基づく扶養義務はなくなります。

しかし,現実的には,子どもが大学などに通えば,卒業するまでは自分で生計を立てることが困難であるのが通常です。

そういうことが見込まれる場合には,調停などの話し合いで,双方合意のもと,「22歳まで」などと定めることがあります。ただ,双方が合意しない場合には,裁判官(家事審判官)が審判で決めることになります。そうなると,原則論で,「成人まで」と決める裁判官も多いと思われます。

公的扶助(児童手当や児童扶養手当など)との関係

子どもを監護養育する親が,児童手当(旧名:子ども手当)や児童扶養手当(通称:母子手当)を受給している場合,相手親の感情論としては,養育費として決まった額から手当分を差し引かせてほしい,ということになりやすいですが,法律的にはそのようなことはできませんし,「手当をもらっているから養育費を減額してほしい」と養育費の決め直しを申し立てても,それを理由としては減額にならないと思われます。

ただし,養育費をもらっているのに,もらっていないと申告して行政から手当を受け取るのは,違法です。

家庭裁判所における養育費の算定方法

家庭裁判所においては,養育費についても,計算式を用意しています。計算式の考え方は,次のとおりです。

  1. 子どもが,実際とは違い,養育費支払義務親のほうと同居していると仮定して,義務親と同等の生活をするために生活費がいくらかかるか算定する
  2. 1」で算出された子どもの生活費を,双方の収入に応じて按分する

婚姻費用と同じく,ここでいう「収入」とは,税込収入から「公租公課(税金などのことです)」・「職業費(仕事用の被服費・交通費などです)」・「特別経費(住居関係費・保健医療費などです)」を控除した金額のことをいい,これを「基礎収入」と呼びます。この基礎収入について,裁判所は,個別事情に応じて計算するわけではなく,統計データから推計して,給与所得者の場合は総収入の約34~42%を基礎収入であると考え,自営業者の場合は総収入の約47~52%を基礎収入であると考えています。

また,婚姻費用と同じく,裁判所で使っている計算式では,夫と妻は生活費の指数が10015歳~19歳の子は生活費の指数が90(成人の90%)。0~14歳の子は生活費の指数が55(成人の55%)。この割合の生活費で,同等の生活といえると考えて計算しています。

計算式は絶対なのか?

婚姻費用と同じように,計算式で機械的に決められることに納得がいかない,実際はこうではない,と思われる方も多いのではないかと思います。

裁判所外で約束する場合には,計算式や算定表を絶対視しなくてもよいでしょう。また,裁判所でも,調停であれば,双方合意のもと,計算式や算定表を離れた金額設定をすることも可能です。

しかし,一方は「算定表のとおりの額であるべきだ」,もう一方は「算定表の額は高すぎる(または安すぎる)」と主張し続けるなどして,話が決着しないときには,家庭裁判所の裁判官(家事審判官)が審判で決めることになります。

そうなったときの多くの裁判官の考え方としては,「事案ごとにバリエーションがあることを前提に計算式・算定表は作られているのであり,計算式・算定表の考え方が通用しないような特段の事情がなければ,計算式・算定表によって算出された範囲内で決めよう」というものだろうと,私は思っています。