2014年日弁連会長選の結果について

2014年の日弁連会長選は,2014年2月7日に投票が行われ,村越進氏が11,676票(51単位会で首位),武内更一氏が4,173票(1単位会で首位)となりました。投票率は46.65%でした。

 

この結果について,取り上げているブログがあります(まったく網羅はしていません)。

日弁連会長選挙 武内更一候補が善戦』(2月7日,猪野亨弁護士)

日弁連会長選挙には行かなかった。』(2月8日,PINE’s page)

日弁連会長選、史上最低投票率の現実』(2月10日,河野真樹氏・元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記)

日弁連会長選挙の開票結果について』(2月12日,小林正啓弁護士)

 

この中で,分析的なのは,河野氏と小林弁護士のブログです。

河野氏は,

単独の獲得票が1万票を越したのは、今回が初めてですが、母数となる選挙人数が増員政策で年間約1600人ずつ増加しているうえに、再投票・再選挙にもつれ込んだ前回2012年の1回目の選挙で割れた、いわゆる「改革」路線派票の合計は1万票を越していることからも、注目すべきなのはやはりこちらではなく、投票率の方です。

と書いています。

また,小林弁護士は,

以上見てきたように、今回の日弁連会長選挙の開票結果は、子細に見れば注目点もあるが、全体としてみれば、史上最低の投票率という以外、何らかの傾向を読み取るべき材料を見いだすことができない。「特段新規な公約を打ち出さなかった主流派候補と、新左翼の対立候補では、勝敗は見えていた」ことが、史上最低の投票率の原因という、実も蓋もない分析結果で、お茶を濁すしかないようだ。

と書いています。

 

これらの分析を細かく見ていけば,「東京弁護士会内の最大派閥である法友会(平成22年度会員数2398人)が、集票マシンとしての実力を発揮したことを示している。」(小林弁護士),「愛知県の(投票率の)下落ぶりはすごい。だが何故かは分からない。」(小林弁護士),「前々回2010年選挙で再投票の結果、宇都宮健児氏がついに「改革」路線の執行部派候補を破り、2年間のかじ取りをしたものの、「改革」路線を大きく転換することはできず、続く宇都宮氏の続投をかけた前回2012年選挙が、前記したように再び再投票、初の再選挙にもつれこんだものの、執行部派の勝利で政権奪還します。反執行部派政権2年と、その後の会長選挙のゴタゴタは、会員の無力感と「嫌気」につながったとみることもできます。」(河野氏)といったところに,掘り下げの余地が十分あるように思われます。

東京弁護士会は,武内更一氏が東京弁護士会所属ということで,自分の会で接戦になると都合が悪いとか,そんな理由で頑張ったのかな,とか。

 

そして,私の視点(選挙マニア)を付け加えるとすれば・・・

前回・前々回,宇都宮氏に投票した票はどこへ行ったのか(前々回9,720票,前回1回目6,613票,前回2回目7,503票)ということです。

武内更一氏は前回の森川文人氏の系列の候補なので,前回の森川氏の得票1,805票がひとつの参考になります(森川氏は1回目で脱落)。そして,村越進氏は前回の山岸憲司氏の1回目得票7,964票,2回目8,570票が参考になります。なお,前回の投票率は1回目62.28%,2回目50.86%でした。

今回の村越氏は,11,676票でしたので,前回の山岸氏の2回目と比較して3,000票以上積み増ししています。対して,武内氏は,4,173票でしたので,前回の森川氏の1,805票から2,300票余りの積み増しになります。この積み増し比較は,候補者数や投票率の差を考えると,今回の武内氏にできるだけ有利になるような比較です。そんな比較でも敗北しているので,武内氏は村越氏との「旧宇都宮票」取り込み競争に敗北したといえます。

「旧宇都宮票」がいわゆる主流派批判票であったと考えるならば,武内氏はその受け皿たりえなかったということです。武内氏が髙山俊吉氏の系列であり,高山氏が投票率が2008年の選挙で7043票を獲得したことを考えると,武内氏は今回潜在的には掘り起こしえた有権者数の10%程度(約3,500人)の票を眠らせてしまったのではないでしょうか。

「勝敗が見えていたから」武内氏の得票が伸びなかったのではなく,根本的に何かが足りていなかった(または余計なことを言っていた)ので票が入らなかったと見るべきでしょう。確かに,選挙では,勝敗が見えていたから投票に行かないということもありますが,そもそもの圧勝の理由にはなりにくいです。

「旧宇都宮票」に戻りますが,これはいったい何の票だったのでしょうか? なぜ前回まで,「宇都宮を支える地方対主流派を支える東京」のような構図になっていて,今回それが雲散霧消したのでしょうか(そもそも,前回まで,何らかの政策を実現するために宇都宮氏が立候補していたとしたら,今回宇都宮氏に近い政策を実現するために立候補する人がいなかったのはなぜなのでしょうか?)。

この理由は,票数の分析だけからはわかりません。私の感覚でゆるく語るとすると,2007年の参院選・2009年の衆院選の民主党の勝利と,ターニングポイントとなった2010年の参院選,2012年の衆院選・2013年の参院選の民主党の得票の激減に近いものがあります。「とにかく政権交代を!」と言って政権に就いてみたものの,肝腎の問題を置いといてピントがずれたことをする(やってるときには,一応褒めそやされますが,だんだんとほころんできます)。そして,地力がまだ残っている派閥・土着層の巻き返しに遭う。右肩下がりになってからは,メッキが剥がれて回復困難。離脱者続出。かつて支持していたはずの有権者も,「投票したことがあったっけ?知らんなぁ」ってなもんです。それで,極端な人しか対抗馬として立たなくなるという(それも,当該選挙と直接関係のない他の政治運動の話をしたりする)。

まだ,自民党は民主党政権の反動で景気が良くなった感じを演出できたのでいいんですが,日弁連はそんなことも全くありませんし。弁護士の中に,もう日弁連には何も期待できない,と言っている人が散見されるのもむべなるかな,です(最近失望したというのなら,もともと宇都宮氏に何を期待したのか,ということも疑問として浮上しますが)。

ただ,日本の国政と日弁連の異なるところとしては,自民党がいろいろとガッチリ押さえてしまった国政に対して,日弁連は1回の選挙で浮動票で・・・という可能性がまだ大いにあるということでしょう。「宇都宮票」を構成した移ろいやすい票についても,今後全く同じような現象として再結集することはなくても,何らかの形で主流派を苦しめることがあるかもしれません。そんな意味で,近い将来もうひと山あるのではないかと予想しています。

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金沢法律事務所(石川県金沢市)を主宰する弁護士

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