リキュール(発泡性)①の罠 ~解題?~

以前(昨年6月),リキュール(発泡性)①の罠という記事で,サッポロビールの「極ZERO」の酒税問題を取り上げた。

当時のプレスリリースや報道では,具体的に「極ZERO」がいかなる規定をクリアしておらず,税務当局により第三のビールと認められなかったのか,書かれていなかった。そこで,法規を読みながら分析する記事を書いた。

要するに,これまでの極ZEROは国税庁の解釈に従えばエキス分が2度未満であり,リキュール(発泡性)①ではなく,スピリッツ(発泡性)②であったのではないか,というのが私の推測(憶測)だ。

サッポロは,いったん,115億円+延滞税1億円を追納した。

その後,サッポロは,今年1月に,国税庁に対して,納付した酒税の返還を要求した。極ZEROが第三のビールだという確証が取れたという理由だった。

それに対し,今年4月28日,国税庁は,サッポロに対し,返還しない通知をした(産経記事)。

 

最近,ダイヤモンド・オンライン掲載の記事で,興味深いものがあった(リンク)。筆者は,週刊ダイヤモンド編集部泉秀一氏。

新情報として,極ZEROが国税庁により第三のビールと認められなかった理由が書かれている。

要するに,極ZEROは,発酵が不十分な発泡酒を用いていたのだという。

噛み砕いて説明してみる。

まずは,第三のビールのうち,酒税法23条2項3号ロの要件のおさらい。「発泡酒(酒税法施行令第20条第2項に規定するものに限る。)にスピリッツ(酒税法施行令第20条第3項に規定するものに限る。)を加えたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)」

発泡酒について(酒税法施行令20条2項)・・・「法第二十三条第二項第三号 ロに規定する政令で定める発泡酒は、麦芽及びホップを原料の一部として発酵させたもので、その原料中麦芽の重量が水以外の原料の重量の百分の五十未満のものとする。」

スピリッツについて(酒税法施行令20条3項)・・・「法第二十三条第二項第三号 ロに規定する政令で定めるスピリッツは、次の各号のいずれかに掲げるものとする。
一  大麦を原料の一部として発酵させたアルコール含有物(大麦以外の麦を原料の一部としたものを除く。)を蒸留したもの
二  小麦を原料の一部として発酵させたアルコール含有物(小麦以外の麦を原料の一部としたものを除く。)を蒸留したもの」

この規定を満たして発売したとサッポロとしては思っていたのだが,国税庁の見解では,発泡酒の発酵が不十分であり,「麦芽及びホップを原料の一部として発酵させたもの」ではないのだと。

発酵の判断が難しいことについては,ダイヤモンド以外の記事にも書かれている(フライデーIRORIO)。

私は,発泡酒は当然発酵させて作られるものだと思っていたのだが,どうもそうとは限らないらしく,定義の上では発酵が要件に含まれない。ところが,税率の低いリキュール(発泡性)①に該当するために用いられる発泡酒は発酵させたものでないとならないということのようだ。

ノンアルコールビールなどでは発酵させないでそれらしく作る技術が開発されているようだが,極ZEROも特殊な発酵技術を用いたものだということなのだろうか。

調べるうち,発酵度という用語が見つかり,アサヒビールのスタイルフリーは通常の発泡酒の1.3倍の発酵度だなどと書かれていたが,発酵度とは初期糖度と残糖度を比較してどれだけ酵母が糖を食べたのかということを示す数値らしい。

仮に,残糖度だとか発酵度だとかが基準だというのであれば,ある程度機械的に判定できそうだが,それでもスピリッツを加える時点で発泡酒がどのような発酵状態であるかということを正確に判定することは困難で解釈が分かれるということだろうか。

 

ダイヤモンドの記事の言うように,解釈については「国税庁の示す解釈が不当か否か」という争いになってくるだろうからメーカーにとってはまずもって不利な土俵であるうえに,ただでさえ強い監督官庁たちのなかでも最強といわれる国税であるから,闘い続けていくというだけでメーカーは満身創痍になりかねない。しかし,判官贔屓として,また,公平な判断者による論理的な判断を知りたい者として,サッポロビールには期待したい。

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金沢法律事務所(石川県金沢市)を主宰する弁護士

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